14. 「他愛もない日常が一変する時」 by ひめさま


 とんでもなく強い力で羽交い絞めにされると、サンジはその形から動くことが 出来なくなっていた。
気配は感じていたし、そこに居る事も判っていた。
不覚としか言いようがない。予想も出来ない。考えたくない。徐々にそれは明確 となって縛られてゆく。
今、シンクに押し付けるようにサンジの自由を奪い、後ろ手に縛り足を虜にする のはゾロだ。意外と巧みな手つきで縄をあやつってやがるなとか観察している場 合でもない。なにせ奴は本気らしい。
「あー、ちょっとお尋ねしますが、てめぇ何しやがる。」
「コックとやらの営業時間は終了したようだな。」

 おかげさんで、今しがた布巾を固く絞り終えたところだ。だからどうしたと答 える口にもその固く絞った布巾を突っ込まれ、本格的にもの云えぬ捕らわれの身 となった。

 そのまま担ぎ上げられ、部屋へ、ベットへ。

 そっと置かれると今度は衣類を剥ぎ取られ、再び手足を広げた状態でベットの 四隅の足に固定された。
「言いたい事があるか、無ぇよな。」

 ある、ある、大有りだ、クソボケ野郎がっ。と大声で言ったところが、口の中 一杯に布巾を咬まされ結果もがもがと口ごもっただけ。御丁寧に絞った布巾だか ら余計に音にならない。
ゾロはサンジの声にならない声に満足げに頷くと、ドアの側に椅子を寄せドカリ と足を組んで坐る。

 腹巻から取り出したのはここ一番に隠しておいた蒸留酒。冷凍庫でも凍らない 代物だ。そいつに直接口をつけ舐めるように飲んでいる。
「クソコック、様ァねぇな。可哀相な船医からの伝言だ。夢を叶えたけりゃ三日 は寝てろだとよ。」

 ああ、そうゆう事ですかい。

 サンジは一つ大きく息を吸った。思い当たる節は多々あるが、それじゃァお言 葉に甘えて・・と大人しく寝ている状況じゃねえだろうがボケが、てめぇ何処の 野郎がこんな様で心身ともに寝て過ごせる。寝返りを打とうにも、手首足首どこ ろか首すら動かせない。
「天候よし、敵襲無し、飯の心配ならするな。てめぇが三日いなくったって、て めぇが備蓄している乾物で充分食いつなげるさ。」
―俺ぁ酒とこいつがあれば他に欲しいものはねぇ―
べろりと舌を出してゾロは手の甲に零れた酒を舐めた。









この冴えたやり取り! 心配や同情や憐憫を感じさせない計らい! ひめさま宅の「対等」な彼ららしいーー! 
くるくる立ち働いてしまうコックさんを休ませるには、これくらいの強行が必要ですね! 
もっとも、縄とゾロの熱い眼差しの両方に縛られているコックさんが休めるかどうかはわかりませんが…(^^)
ひめさま、粋な作品をありがとうございました! お見事でございました!!!