<放縛−ろ>  「Towani」  by 夢音優月さま


「サンジ君が大変なの!」
ナミが血相を変えて船に戻って来たのはつい先刻。
ナミとショッピングを楽しんでいたサンジが通りすがりの女性を人質に取られ、島に寄港していた海賊に攫われたと聞いてゾロは舌うちした。
あのバカが!
いかにもサンジらしいが、いつも詰めが甘い。

ルフィが助けに行くと言うのをこの物騒な島でお前は船に残れと止めてゾロはサンジが連れ去られ運ばれたという崩れかけの廃墟へと向かった。

中は昼間だと言うのに薄暗く埃っぽい。
元は名のある名士の館だったという屋敷の廊下は男か女かも判別出来ない染みだらけの肖像画が、まるで真昼の幽霊のように並んでいた。

ゾロは静寂の中、空気の鼓動を聞くかのように耳を済ませる。

そして、僅かな人の気配を捕らえると屋敷の続き間を奥へと進んだ。


その部屋の天窓からは白い光がスポットライトのように床をまあるく照らしている。そして、そこには白い人形が打つ伏せに横たわっていた。

いや!

ゾロは大きく目を見開き、そして瞬きをする。

白い人形ではない。あれは、コックだ…。

ゾロが慌てて駆け寄ると、人形だと思った男は意外にもすぐに反応し、顔だけを上げ振り向いた。

「よう、遅かったじゃねェか。クソ野郎」
ゾロを眩しそうに見上げた蒼い瞳はラギラギと光っている。歪めたように笑った顔はいつもの気の強い男のままだ。

「自業自得だろう。てめェはいつも甘ェんだよ」
そう答えてゾロは初めてサンジの身に起こった事をありありと見る。

サンジは何一つ身につけていなかった。サンジを包んでいるのは暗い珠色の細い紐。
手首は両手をまとめて後に縛られ、胸にも、腰にもまるで、精巧な雲の糸に絡めらたかのように幾重にも巻き付けられている。

ただ、足だけは不自然なほど自由だ。そして、足首には赤く擦りむけた跡。

ゾロはほんの一瞬だけサンジの白い股の間が男なら馴染みのあるあの液体と血液でべっとりと濡れているのを見た。

「おい、突っ立ってねェで、早くこの胸糞わりィ紐を解けよ」
こんな命令口調いつもなら喧嘩になり兼ねないが、ゾロはただ
「おう」
と答えサンジに近寄り、膝を付いた。
もっと太いロープなら刀で簡単に斬っていたが、その紐はサンジの白い肌に食い込み、紐と重なった皮膚は赤く滲んでいる。きっと、最後まで抵抗した証だろう。

ゾロはサンジに悟られないかと思いながらも恐る恐るサンジの紐の結び目に指を掛けた。
間近で見ても蝋人形のように滑らかな肌はゾロが思ったよりも熱を帯びていた。

ゾロが絡まった糸を解こうと指がサンジの皮膚に触れた瞬間、サンジがぴくりと体を踊らした。
「おい?」
「なんでもねェ…。続けろ!」
そう言ってあえて床に顔を伏した男のうなじが見る見る赤みを帯びる。

その時ゾロは初めて気付いた。この男は薬を盛られている。

ゾロは恐ろしいほどの集中力でサンジの紐の結び目だけに神経を向ける。なのに、それを邪魔するのはゾロの指が当たる度に反応を示す敏感な皮膚。
声が漏れぬよう噛みしめているだろう唇から洩れる切なげな声。

刺激されまいと思うのにゾロの下半身はゾロの心より正直に勃立を始めていた。

やはり…、そうなのだ…。

もう、長い間心に秘めて来た思い。
否定し続け、誤魔化し、目を瞑ってきた。

相手は男だ。仲間だ。その上生粋の女好きだ。


思わずゾロの指が止まり、見咎めたサンジが顔だけを振り向く。
「おい!さっさとしろ」
だが、その口調とは裏腹にゾロに与えられた刺激でサンジの頬は上気し、目元もピンク色に染まっていた。涙が滲んだ蒼い瞳は、その態度が頑なであればある程、本当は男を誘っているようにも見える。

ゾロは再び何も気づかぬふりをしてサンジを縛る紐に手を掛けた。

まずは両腕を。長時間縛られ痺れて動かせないサンジの代わりに胸の戒めを、腰に巻かれた紐を、丁寧にすこしずつサンジからはぎ取ってゆく。

紐が解かれる度にサンジの上を柔らかく滑り落ちるその紐の僅かな刺激だけでサンジはきゅっと目を瞑り、小さく喘ぐ。

もうゾロにバレている事も分かっているだろうが、サンジは最後まで抵抗し、それでも抗えぬ不本意な快楽に身をくねらせた。

「…あっ!ん…」

ゾロに抱き抱えられ一番きつい乳首の周りを彩っていた紐を解くとサンジが堪らず声を上げた。ゾロの雄はもう痛いほど硬く兆している。きっと抱きかかえたサンジの腰に当たっている筈だ。だが、サンジは自らの快楽と戦う事に必死でその余裕がない。

「…はァ…、くそっ!」
サンジが涙に滲んだ瞳をひらき、自由になった手をゆっくりと目の前にかざし、指を動かす。

「世話になったな」
いつもよりも素直に礼を言ったサンジがゾロに気丈に笑いかける。

「こんな役は二度とご免だ」

「おう」

ゆっくりとゾロから離れ、サンジは座ったままその手で自分の体に触れた。

長い指が腕を滑り、足の安否を確認するように足首から腿へと移動する。

自由になった身を確認する男を見ながらゾロはもう、自分が逃げられない事を知った。


おれは、この男に惚れてる。
どうしようもないくらいに。
他の奴に食われるくらいなら、なぜもっと早く自分の気持ちを認めなかったのか?


ゆっくりと立ち上がり、部屋の隅にちらばったぼろぼろの服を身に付けた男がいつもの気の強い視線をゾロに送った。
その蒼にゾロはただ縛られたように動けない。

もう認めるしかない。この廃墟で、今、本当に縛られたのはおれなのだ。


この見えない糸はおれを心ごと縛り。媚薬などなくとも、おれはこいつに触れる度に感じ続けるだろう。そして、おれはこの戒めが解けない事を願っている。


永遠に…、縛られ続けることを。


Fin





おぉ、サンジは縛りから解放されたけれど、ゾロは縛られてしまうのですね!
放縛と緊縛の両方が味わえる、一挙両得な素敵小説です〜〜〜!
ゾロが感情的でないのが却って、サンジへの執着の芽生えを感じさせて、胸が高鳴りました!
サンちゃんは、相変わらず不敵で素敵vvv(^^) 夢音優月さま、ありがとうございました!!