異国乳首譚

狸山ぽん 様

 グランドラインの島々には多彩な文化風習がある。新世界と呼ばれる海に入ってもそれは同様だった。
 特にお祭りの時期ともなると、伝統衣装に身を包み、自分たちのルーツを地域ぐるみで確認するという習慣は多く見られる。

 魚人島を出て暫くした頃、サニー号がカイアーク島に到着したのも丁度そんな時期だった。
 この島はサウスブルーからの移民が数百年前に定住したという由来からか、人々の肌は艶やかな褐色をしており、夏島の気候帯であるのも手伝って全体的に薄着であることが多い。多くの島人達が身につけているのが祭の衣装だったりするものだから、サンジは島に降りるなりニヤニヤ笑いが止まらなかった。

 《カーナ》と呼ばれる伝統衣装は、未婚の男女が祭になると身につけるものらしい。形状はアラバスタで目にした踊り子の衣装に似ているだろうか。模様の入った透かし織りのシルクを幾重か重ねものを貫頭着のように羽織り、腰の部分でグラデーションの掛かった帯紐をキュッと結ぶと、そこに貝殻や輝石を繋いだ長い紐を絡めている。それが真っ青な海と白っぽい漆喰の家々、そして鮮やかな色をした植物に映えて、何とも素敵な異国情緒を感じられた。
 擦れ違うとふんわりとスパイスにも似た刺激的な甘さが香るのも良い。ついつい鼻孔が広がってしまう。

『はぅ~ん、きゃわゆいぜェ~っ!』

 にまにまと目尻を垂れさせて眺めるサンジは煙草の煙と目がハート形になってしまうのだが、一点、不満なこともある。

『なんだってこの衣装、男まで着てんだろうな…』

 既婚者や中年以降の人々は落ち着いた色合いの透けない布地を身につけているのだが、何故か若い連中は女性だけではなく、男性の衣装もスケスケなのだ。生殖器は流石に見えないよう不透明の褌に似た布地を巻いているが、ゆったりとしたズボン自体は透けているので尻や腿が嫌でも目にはいる。しかも男性の場合は肉体美を誇示するように上半身は基本的に裸で、じゃらじゃらと幾重にも重ねたネックレスが唯一胸元を隠していた。

『うへェ。ネックレスが乳首とか刺激して痛そう』

 サンジは体幹部の肌が紫外線に弱いので、基本的に日中服を脱ぐことは少ない。アホな能力者の仲間が溺れたときもせいぜい上着を脱いで飛び込むくらいだ。特に背中や胸は陽に灼けると死ぬほど痛くなる。しかも乳首が敏感で、シャツの上から抓られただけでもビクっと身体が震えてしまうのだ。あんな風にアクセサリーの擦過など喰らっては、たまったものではないだろう。

『クソ…思いだすだけで何かジクジクしてきやがる』

 サンジは昨夜それでなくとも感じやすい乳首を、ゾロから執拗に嬲られてしまったのだ。《前夜祭だ》と嬉しそうに笑っていたゾロは、今日が誕生日だ。
 《祀られるほどのナニをしてきたよ》と文句を言うくせに、結局言うことを聞いてやるサンジもサンジだが。
そのせいで、何かの拍子に乳首がシャツに擦れたりすると、妙な感覚が淫部に奔ったりするのだ。
  
 いかんいかん。今宵はこの地方の特産品を使ったご馳走を作ってやるのだ。なるべくゾロの好みにあった食材を捜すべく意識を市場に並べられた商品と値札に向けるが、サンジのくるりと巻いた眉は不審げに歪められてしまう。何故だか異様に物価が高い。その一方で、《カーナ割り》と書かれた張り紙が至る所でひらひらしており、その割引を使えば他の島での一般的な値段より幾分安いくらいになる。どういうことなのだろうか?

「ねえ、マダム。この《カーナ割り》ってのは旅行者には適応されないのかい?」

 露店で半ばうたた寝しながらドライフルーツを売っていた老女に尋ねると、小さな瞳をパチパチさせて人の良い笑顔を浮かべた。年に見合う落ち着いた色合いの布地だが、趣味の良いカラーリングで纏められているので、民芸品のお人形さんのように可愛かった。

「いいえ、白い方。そんなことァないよ。あんたみたいに月のような肌をした人なら、珍しいからきっとたくさん割引してくれるさ」
「ホント?じゃあ、引いてくれる?」
「まあまあ、待ちなさいよ。ちゃんとカーナを着ればって話だ」

 何だか嫌な予感がする。
 視界の端で美味しそうな果物盛りジェラードを頼んでいる薄着のレディが、《あんた綺麗だからカーナ割り奮発しちゃうよ!》と言われてガッツポーズを取っているのだ。

「あの…マダム。まさか……」
「あっはは。そのまさかさ!」

 老女は皺くれた手で口元を覆いながら、弾けるように笑った。きっと観光客のこういう反応を楽しみにしているのだろう。口調はからかうようだが、悪気無く楽しそうなのでサンジの口角も上がってしまう。
 すると老女も悪戯っぽい笑みを浮かべて、丁寧に説明をしてくれた。

「あの薄い布地の色っぽい服がカーナって言うんだ。祭りの間はあの服を着た若い男や女は、その美しさに応じて割引をして貰えるんだよ」
「あの服を買うのに結局大枚はたくことになるとかいう、あこぎな商売じゃないだろうね?」
「気に入ったのを買っていく金持ちもいるがね、ちゃんとレンタルもしてるよ。直接股間に触れる下着類は買い取りになるが、アラビアンパンツや腰帯、アクセサリー類なんかは安く借りられる。あと、これも凄く似合っていたりしたらタダにしてくれることだってあるんだ。あんた、是非挑戦してみなよ」
「え~?」

 しかし19歳の頃ならともかくとして、今はかなり身体の線もがっちりしてきた…と、思う。あんな薄着などしたらイタい姿になりはしないだろうか?
 そう思ってカーナを着た男連中を見てみると、女性的な連中もいるにはいるが、がっちりした肉体美を誇る連中も着付けによっては勇ましく見えることが分かった。そういえば、アラビアンナイトに出てくる盗賊なんかはああいう格好をしているっけ。

『佳い男ぶりになった上に、仕入れが安く済めばナミさんにも褒めて頂けるかも知れねェよな?』

 そんな風に考えたサンジは、老女に勧められた服屋に交渉に行った。



   *  *  *


 89歳になる駄菓子屋のゲルドは、カイアーク島から一度も出たことがない。
 外の世界に関心がないわけではなく、寧ろ興味津々で図鑑や雑誌の情報など、新しいものが手にはいると貪るように読むのだけれど、船に乗るとどうしようもなく酔ってしまうから、旅に出ることが出来ないのだ。

 だからゲルドは祭の時期を毎年心待ちにしている。一週間の祭期間中には観光客達がやってきて、様々なことを教えてくれるからだ。駄菓子屋の店先にたくさんのカーナを吊り、祭の期間だけ《カーナ貸し》をやっているのも観光客を待ち侘びてのことだ。

 今日もとても珍しい客がやってきたから、ゲルドは皺の中に埋まった瞳を精一杯に広げたものだ。
 金色の髪も透きとおるように白い肌も、観光客の中にはたまに目にすることがあるものの、こんなに澄んだ色合いの青年に出会ったのは初めてだ。おまけに眉の端が蝶の触覚のようにくるんと巻いている。一体何処の国から来たのだろうか。もしかして《雪》というものが年中降り続く、ノースからの旅人かも知れない。

「ゃあ、兄ちゃん。あんたキレイだねェ」
「あ?」

 眼つき悪く睨んできたものの、ゲルドに妙な下心などないのはすぐ分かったのか、くるりと巻いた不思議な眉毛を下げると、カウンターに凭れるようにして聞いてきた。

「なァ、あんた。カーナって服を借りたいんだが、相場は幾らだい?」
「あんたは綺麗だからタダでいいよ」
「そうはいくかい。つか、ジジィに褒められたって嬉しくねェし」

 そうは言いつつも、ぷいっとそっぽを向いた顔は褒めてやったときの孫息子の反応と一緒で、耳の端がほんのりと紅くなっている。照れているのだろうと思ったら、ゲルドの笑い皺は一層深いものになる。

「なんとなんと、かわいらしいこった」
「うっせェっ!カーナがタダだってんなら、何かお礼をしねェと…。あ、爺さん。腹減ってねェか?もうじき昼だろう」
「言われてみりゃあそうだが」
「厨房貸してくれたら、何か作ってやるよ」
「へェ?」
「俺ァ海のコックさんなんだ」

 そう言って笑った顔があんまり良い表情だったものだから、ゲルトは警戒心なんてぽんとどこかに飛ばして厨房に案内した。とはいえ、台所と呼ぶのも烏滸がましいような狭い炊事場なのだが、サンジと名乗ったコックは手際よく道具を操って、残り物を御馳走に変身させてくれた。吃驚するほど美味しいピラフとスープに、ゲルトは言葉も忘れてガツガツと貪り喰らってしまった。
 普段から口にしている材料を使っているはずなのに、調理法が違うせいだろうか?どこか芳ばしさが強くて、鼻に抜けていく匂いがまた良い。
 
 サンジはそれだけでなく、すっかり手入れを怠っていた道具類を磨き、炊事場をピカピカにしてくれたものだから、ゲルトはカーナとアクセサリー一式をプレゼントすることにした。元々色白でないと似合わないような、淡いブルーグリーンの服だ。このまま干していても誰にも着られることなく退色してしまうだろう。

 サンジは更衣室に入ると悪戦苦闘しながらカーナを身につけた。別に着るのが難しいわけではなくて、単に更衣室から出るのが恥ずかしいらしい。この暑い国であれだけきっちり黒スーツに身を固めていたくらいだから、よほど肌を露出するのが恥ずかしいのだろう。

「あんた、なんでそんなに恥ずかしそうなのにカーナを着たいんだね?」
「俺ァ船乗りでコックだからな。良い食材を安く手に入れる方法があるってんなら、少々の恥は掻き捨てにするさ。それに…今日は仲間の誕生日なんだ。旨いメシと佳い酒が最高のプレゼントになるからな」
「ははァ、カーナ割りにしたいのかい。そりゃあ良い。カーナを着て景気よく割り引いて貰ってる客がいると、市場が活気づくからね。是非是非行ってごらんよ」
「おう。爺さんも元気でな」

 おそらく無意識なのだろう。両手でお尻を押さえながら歩くサンジは可愛らしいが、余計に人目を引いてしまうかも知れない。ゲルドは声を張ると精一杯サンジを励ました。今日初めて会ったばかりだが、何故か久し振りにやってきた孫のように愛しく感じるのだ。

「よく似合ってるから、胸を張って歩きな。きっと十人が十人振り返るよ」
「俺ァレディ以外の視線はいらねェっ!」

 だが、街に出て行ったサンジへと視線を送るのは、かなりの比率で男が多かった。
 なかなか思うようにはいかないものだ。

 けれど冷やかしの声に怒声をあげながらも、初めての格好にサンジの足取りもどこか浮き立っている。賞賛の口笛を受け、笑顔を向けられるたびに足取りはしっかりしてきて、胸を張るようになっていく。
 ああいった若者が見られるから、カーナ貸しはやめられないのだ。



   *  *  *


「ん~…鼻がツンとするや」
「アラバスタによく似た匂いがすんな」

 《珍しい薬を買いたい》というチョッパーについて市場に出かけたゾロは、懐かしいような景色と匂いにアラバスタの風景を思いだした。アラベスク模様のタイルが印象的だったあの国とは違って、貝殻や輝石を填め込んだ漆喰壁と茅葺きの屋根が多く見られるが、服装にはかなり共通点がある。
 暑い国というのはやはり似た風情を持つのだろうか。若い女も肌がよく日に灼けており、艶々とした褐色を呈している。薄い色のチョコレートのようだ。

『それでいうと、あいつはホワイトチョコか?』

 2年前のホワイトデーにホワイトチョコレートフォンデュとかいうのをやったときに、苺の色素がとろりと入り込んだそれを見て《コックみてェだ》と思ったものだ。少し冷めて人肌程度になったのを展望台に持ち込んで、コックの肌に塗ってから舐めた。

『ありゃあなかなか良かった』

 特に乳首へとたっぷり掛けてやったのを執拗に舐めていくと、擦過刺激で濃いピンクに勃ちあがったそれがとてもキレイで、ずっと見ていたいような愛らしさだった。

『あの野郎。2年も経てば少しは鳶色を含んでもしょうがねェと諦めてたが、なにがなにが…恐るべき乳首クオリティだぜ』

 ゾロはサンジの乳首が大好きだ。
 《どおん…っ!》と背後に効果音を飛ばしたくなるくらいに大好きだ。

 別に授乳する当てもないというのに、ちんまりと可憐な色を湛えて胸に咲く乳首を見ていると、《誰の~ために~咲いたの~♪それは~俺の~ためよ~♪》と謳いたくなる。実際歌いかけてしまったときには流石にコックに呆れられ、《俺と乳首とどっちが大事なんだか》と拗ねられてしまった。

 だが、サンジは大きな考え違いをしている。
 あくまでサンジの胸に咲いているから可愛らしい桜色の乳首が素敵に見えるのであって、あれがフランキーの胸に咲いていってしょうがない。寧ろ腹が立ってマジックで黒く塗りつぶしたくなる。

 さりとてサンジの乳首が真っ黒だったらやはり寂しいだろう。チ○コだってア○ルだって、真っ黒でもサンジを愛しているのには変わりないけれど、やはり舐めるときにまじまじと見ていたら切ない気持ちになるだろう。将来的に色素沈着を起こすのだとしても、せめてブラウンくらいで止めて欲しいと、神に祈ったことなど無かったゾロが、エロ神かなにかに向けて切に祈っている。

 そんなこんなで、ゾロはサンジとピンク乳首というのは地上最強の組み合わせだと思っている。
 あの素晴らしい乳首を日々堪能出来る立場にあるというだけで、コックの恋人で良かったと深い感謝の念を抱くゾロであった。

『あいつが露出度低いからまた良いんだよな』

 あれでルフィやウソップ、フランキーのように乳首丸出しで過ごされていたら大変だ。その度に上着を被せる必要があるので忙しくて適わないだろう。

 そんなことを考えながら歩いていたら、少し離れた場所にコックの存在が感じ取れた。見聞色を殊更使わずとも、あの男の気配はどうしたってゾロに伝わっている。

『ん…?なんかトラブルか?』

 いや、違うか?喧嘩をしているわけではない。だが、何か困ってはいるようだ。チョッパーを誘導してさり気なくコックのいる方向に進んでいくと、ゾロは一瞬息が止まりそうになった。

「……っ!?」

 すらりとした新月のような下肢には透ける素材のズボンを穿いており、辛うじて股間部分だけは燻銀の褌で隠されているものの、尻は殆ど透けてしまっている。それが腰布が揺れるたびにちらちらと見えたり隠れたりしている様子が何とも艶かしかった。臑毛はきっちり生えているはずなのに、それが半透明の生地のせいで目立たなくなっているのも手伝って、素足でいるよりも問題のある姿だ。
 そして最も問題だったのは、コックの上体を隠しているのが貝殻と輝石を繋いだネックレスだけだったということである。

 そんなはしたない姿をしたコックが両脇から男達に言い寄られ、しきりと食事に誘われているではないか。
 しかもコックときたら、困ったような顔をしながらも花弁を模した煙管を優雅に吸い、小首を傾げて《付き合ったら、幾らまけてくれる?》と艶やかな流し目を送っている。男達は挙って《5割引き…いや、あんたが頬にキスしてくれたらタダでも良い!》なんて叫んでいる。どうやらいずれも露店の店主らしい。
 
 そんな男共に向かって、《キスはダメ…でも、メシは奢って?》と、唇に指を添える所作までが無駄に色っぽい。
 ナミも顔負けの悪女ぶりだ。

「わー、サンジ!ひらひらしてキレイだなーっ!!」

 チョッパーが感嘆の歓声をあげるのも耳に入らず、ゾロはずんずんと進んでいく。
 ぎょっとしたように振り返ったコックは、なんとこの島の若衆が身につけているような、恥じらいの無さそうな薄物を纏っていたのである。
 
 乳首が…。
 ゾロの大事なピンク乳首が、惜しげもなく衆目に晒されている…っ!
 大事な一人娘が、ご開帳させられている現場に居合わせた父みたいな気分だ。
 乳だけに。

「こんの…」
「な…なんだよ。なんか文句あんのか?」

 ある。
 大ありだ!

「ふしだらな格好してんじゃねェーーっっ!!」



 怒声をあげて突撃していったゾロは、あっという間にコックを肩に担ぎ上げると、疾風迅雷の速度で駆け去っていった。
 一刻も早く貴重な乳首を、衆目から隠さねばならないからだ。 
  


   *  *  *


「てめェは自分の乳首の重要性を分かってねェ!」

 連れ込み宿に引き込むなり、大上段から《どぉん!》と押しつけてきたゾロに、サンジは不満げに唇を歪めた。
 乳首乳首乳首。こいつはそれしかないのか。

「うっせェ!乳首乳首いうなっ!そんなにピンクの乳首が好きなら、てめェのに絵の具でも塗っとけよっ!」
「俺の乳首がピンクなんて萌えねェっ!他の誰の乳首でもそうだ。てめェのだから良いんだっ!そいつァ俺のだっ!誰にもやらねェっ!!」
「こ…この…っ!ビーチク剣士めっ!!俺ァ…乳首だけの価値しかねェのかよっ!?」
「乳首だけなわけあるか!そいつァ代表選手なだけだ!その他にも脚、尻、チンコ、手、グル眉と居並ぶクリーンナップ全部纏めて俺のもんだっ!」
「俺のもんは俺のもんだ!どう使おうが俺の自由だ!あいつら、俺があの格好してちょっと色目使うだけで景気よく値下げしてくれたり、豪勢なおまけくれるんだぞ?おかげで今日の宴会は大盤振る舞いになりそうなんだ。てめェが好きな海獣の肉だって旨い酒だって…」
「豪華なメシや酒より、てめェが大事だっ!!だからてめェを全部俺によこせ!」

 これは…効いた。

 流石のサンジもダイレクトな任気ある台詞にしてやられて頬を染めてしまったが、このままやられっぱなしでは癪に障る。

 毛足が長くて白いラグの上で体を微かに捻ると、《じっ》と上目遣いにゾロを見つめる。つィっと口角をあげて蠱惑的な笑みを浮かべれば、不思議そうにゾロが目を眇めた。
 こちとら伊達に2年間もオカマの中で、セクシーポーズに晒されていたわけではないのだ。内心、《俺がやったらもうちょっとは色っぽくなる》と自負していたあでやかな所作で、ゾロを思いっきり動揺させてやる。 

「…なんだ?」
「やっても良いぜェ?大事にしてくれるんなら…な。ダーリン?」

 瞳を妖艶に細めて、思いっ切り甘く甘~く囁いてやれば、《ぶぁっ》とゾロの瞳孔が開いた。

「…っ!」

 つうこんのいちげき。
 ぞろは《めろりん》のこうかで、コウチョクしている。
 
 《してやられた》という顔をしてのし掛かってきた恋人に鼻面を噛まれながら、サンジは耳朶に注がれる約束の言葉を聞いた。
 
「大事にしてやる。当社比でな」
「上等」

 熱烈なキスをかわしながら諸肌脱ぐゾロは、あれだけ文句を言っていたくせにカーナを脱がすことなく愛撫を加えてきた。《結構気にいってんの?》と悪戯っぽく囁けば、《自分だけが見られるならな》と正直な答えが返ってきた。

 幸い、カーナ割りを駆使しての買い出しは順調に進んでいる。
 今後カーナを人前で身につけるのは、ゾロと過ごす夜だけのお楽しみとなりそうだ。

おしまい



この作品、先にイラストをいただきまして、その1ヶ月あとで文章をいただいたのですが、あのイラストがこんなB地区メインのお話になるとは想像もしておりませんでした。大拍手です!!! いやぁイラストのB地区をねっとりと見つめてしまいますなぁ、えへへへ。楽しいお話と肌色率高いイラストをありがとうございました! 狸山ぽん様のサイト:『黒いたぬき缶』