夏枕 #3


帯が解かれ、袷(あわせ)がくつろげられた。
ゾロの唇がサンジの唇から、顎へ、喉へ、鎖骨へ、と降りていく。
「あ…!」
くり、と右の乳首を摘ままれて、思わず声が出た。
こよりをつくるように、指の腹でくりくりと弄ばれて、ぞわぞわとした感覚が背を登ってくる。
反対の乳首には、べろりと湿った感覚が落とされた。
ちゅう、と吸われ、舐め回され、舌で転がされ。
右の乳首に与えられるつねられるようなぐりぐりした感覚と、左の乳首に与えられるぴちゃぴちゃした湿った感覚。
別々の快感にたまらずサンジは仰け反る。
愛撫されているのは胸なのに、下半身がきゅうっと切なくなって、腰がひくひく震えてくる。

「ん…んふぁっ…ううっ…」
油断したら口から甘ったるい声が漏れた。
サンジは唇を噛み締めようとした。
それでもこらえきれない嗚咽が漏れる。
思わずきゅううと敷布を握り締めた。
「こんな山ん中、誰も聞いてねぇ。声出せ。我慢すんな」
ふっと耳に熱い息がかかったかと思うと、淫の籠もった粘い声が囁いてくる。
(莫迦野郎! てめぇが聞いてんじゃねぇか!!)
半分涙目で、顔を真っ赤にしてサンジはぶんぶん頭を振った。
そんなサンジを目にして、『感じやすいくせに意地っ張りだよな』などとゾロが思っていることなど、サンジは知りはしない。
悪態をつきたくても口を開けば甘ったるい声しか出てこなさそうで、ただただ唇を噛み締めるのに必死だったのだから。

だが、そんな抵抗は、丹念に攻められて今や赤く固く熟した胸の突起にゾロが歯を立てたことで、呆気なく崩れた。
「ひぅっ…!」
敏感な身体が痛みにも反応して、仰け反った白い喉から声が漏れる。
そのあとは堰が切られたように艶かしい声が漏れ続けた。
「あ…ふぁっ…あ、あ、あああっ…」

膝を割られて内腿に紅い花がたくさん散らされる。
ゾロの唇が下から這い登ってサンジの股間に近づいてくる。
金茶に色づく下映えに、撫でられるようなふわりとした感覚が与えられる。
次の瞬間、サンジの男の証がずっぽりと口内に納められた。
「んあっ! …ゾロッ!……あああーーーー」
雁首も竿も、熱くてざらざらした舌でじゅぼじゅぼと舐められて、たまらなく気持ちがいい。
先走りがドクドク流れる鈴口をちろちろ突付かれて、快感の痺れが身体を駆け巡る。
「はうっ…んああっ…!」
身体がどろどろに蕩けていく。
快感に引きずられる。
だが、ゾロの指が谷間の奥の小さな蕾に触れたとたん、身体がびくりと大きく震えた。

ゾロははっとしてゾロが顔を上げた。
怯えたような顔でサンジがゾロを見ていた。そしてゾロと目が合うと震える睫毛を伏せて、身を硬くさせて、消えそうな声で「わりぃ…」と言う。
「なんで謝る?」
「あのまま、気持ちいいままで最後まで行けたらよかったのに…」
ああ、なんてお人好しだろう、とゾロは思った。
奪われることの恐怖を植えつけたのはゾロだ。
それなのに、身体がゾロを拒んでしまったことを、すまない、とコイツは言うのだ。
受け入れ態勢になれなくて申し訳ない、とコイツは言うのだ。
たまらなくなって、ぎゅううっとサンジの身体を抱いた。
両手ですっぽり包んで、丸っこい後頭部をいとおしむように撫でた。
なだめるように背中をそっとさすった。頬にそっと唇を落とした。
強張ったサンジの身体をほぐすように。
快感ではなく悪寒に粟立ったサンジの身体を温めるように。

「今日は、ここまででいい」
そう言ったゾロを、はっとした顔でサンジが見つめる。
「やめよう」
そう言ったら、サンジはくしゃりと顔を歪ませて、ぶんぶん頭を振り…
「やだ…」
「無理すんな」
そう言って髪を撫でようとするゾロの手をサンジがぱんと払った。
「無理してんのは、てめぇじゃねぇか! こいつぁ、なんだ? 俺の股間にさっきからガツガツ当たってるこいつは、なんだ? カチンカチンのまんまじゃねぇか! こんなんで、やめられんのか、てめェ!」
「だったら、てめぇはなんなんだ。てめぇこそ、身体がガチガチじゃねぇか! しかも肝心なとこはぐったり萎えてやがる。そんなてめェに入れられるわけねぇだろ! もう無理強いさせたくねぇんだよ!」
「無理強いじゃねェ! 俺がいいって言ってんだから、無理強いじゃねェ!」

ああ、やっぱりお人好しの莫迦だ、とゾロはまた思う。
お人好しでタフで…。
自分が何故この金髪に惚れたのか合点がいった気がした。

「途中でやっぱりやめたいとか言っても、俺は止められねぇぞ!」
最後通牒だ。やめるんなら今だ、と最後の通達だ。
なのに、この莫迦は「おう、来やがれ!」と返しやがった。
ここで尚、サンジを拒んだら、それはサンジを侮辱することになるだろう。
ゾロはサンジの背骨をひとつひとつたどりながら、下へと手を下ろしていく。
丸い尻を撫でさすり、谷間を押し開いて後孔にそろりと触れる。
とたんに、ぴくっとサンジが身体を慄かせた。
入口の柔かい襞をほぐすように撫で、緊張した窄まりにつぷ、と指の先を埋め込む。
う、と声を呑み込むような気配があった。
それでも、震える唇を引き結んで、恐怖をこらえようとする。

受け入れる器官でないところで異物が入ってくるおぞましさよりも、圧迫されるような苦しさよりも、今のサンジを蝕んでいるものは「恐怖」に違いない。
引き裂かれ捩じ込まれる苦痛への恐怖は、それを知らぬ者よりも、知っている者のほうが、何倍も大きい。ましてやサンジは、殺しかねない勢いで穿たれたのだ。

(少しでも恐怖が和らげばいいが…)
祈りにも似た気持ちでゾロは、くたりと萎えたサンジのペニスを口に含む。
ふにゃふにゃと柔かいそれを口内で転がしながら、後ろの孔へ埋めた指をゆっくりと進める。
浅いところをこするように柔かくくすぐる。
指を回転させながら抜くように引くと、サンジがわずかに反応を見せた。
はう、と溜息のような吐息が漏れる。
二度三度と繰り返すと、少しずつ緊張が解かれていく。
それとともに声にも甘さが含まれていく。
徐々にゾロの指に反応してくる。
第一関門は突破したらしい。
粟立った身体はしっとりと汗で濡れ、白い身体がうっすらと朱を帯びている。

蕾の肉襞がふっくらと解れてきたところで指をもう一本増やした。
ばらばらにそれを蠢かしていたら、
「ひああっ!!!」
と高い声が上がった。
すかさず、
「ここか」
と、確認するように強くそこを突いてやると、
「ゾロっ! …ひっ…やっ!…やめろッッ!!!!」
弾けるように身体を弓なりに反らせて、ずり上がろうとする。
だが、ペニスはゾロの口内にずっぽりと納められている。
逃げを封じられて、サンジは、身体全体でいやいやするように、腰をくねらせた。
だが探り当てたポイントをゾロが逃すはずはなく、2本の指を深く差し込んで、丹念にそこを攻め始めた。
「ひっ! ああっ…うぁ…」
掻き回しているうちにサンジのペニスがぐっと芯を持って立ち上がってきた。
快感に喘ぐサンジに煽られ、ゾロの男根もぐんと重くなる。
(やべぇ…入れてぇ…)
そろそろゾロ自身がこらえきれなくなってきた。
艶かしい身体を乱れさせて淫の愉悦に呑まれて行くサンジの痴態に、これ以上我慢できそうにない。
指を引き抜いて、凶暴なまでに屹立した灼熱を小さな入口に宛がう。
ほぐれたと言っても、ゾロの巨根を受け入れるのには、そこは可憐すぎる。第二関門だ。

「入れるぞ」
告知すると、快感に蕩けていたサンジが微かに震え、不安と恐怖を打ち消すように、うんうんと頷く。
そして息をそろそろと吐いて、処刑の執行を受け入れるかのように、睫毛を震わせて挿入の瞬間を待っている。
そんなけなげとも見えるサンジの姿に、ゾロは心臓がぐわりと鷲掴みされたような衝撃を感じた。
「てめぇ…」
ぐうと唸って、ゾロは宣言する。
「ぜってー、ほかの奴には渡さねぇ…」
(え?)
何か、とんでもないことを言われた気がするが、深く考える間は無かった。
孔が大きく割り開かれていく。
指とは比べ物にならないものが、一気に身体の中に入ってくる。
臓腑が圧迫されて、思わず、うう…、と呻き声が漏れた。
「痛いか?」
そう聞かれても、正直痛いんだか、痛くないんだかわからない。
ただ、熱い。後ろの孔がじんじんと痺れるように熱い。
「全部、入ったのか?」
掠れた声で聞いたら、汗ばんだ顔のゾロが満足げに、にぃ、と微笑んで、そろりと腰をうごめかせる。
「あ…」
サンジの淫嚢をゾロの恥毛がしゃり、とくすぐった。
正常位で抱き合っているから、これがサンジに当たるというのは、ずっぽり根元まで入ったということだ。

強引かとも思ったが、受け入れる恐怖と戦っているサンジには、ゆっくり入れてやるより一気に貫いたほうが、恐怖にじわじわ苛まされないのではないかとゾロは思ったのだ。
どうやらそれは功を奏したようで、あれほど怖かったのに、呆気ないほどに全部を受け入れてしまった驚きで、サンジは、はにかんだように頬を紅潮させている。
ゾロが、ちゅ、と、サンジに口づけると、サンジもぺろんとゾロの唇を舐め返してくる。
(ああ、ようやく、ここまで来れた…)
口には出さないが、ようやく本当に手に入れられたことへの悦びで、ゾロは下半身を繋げたままぎゅっとサンジの身体を抱きしめる。
とたんにサンジの中がきゅ、と収縮した。
きゅんきゅんと肉棒を締め付けてくるサンジの内壁を愉しみながら、ゾロは次第にこらえ切れなくなって、もぞもぞと腰を動かした。
(…?)
訝しげに見つめたサンジにゾロが切羽詰った声を出す。
「動いていいか? 我慢できねぇ…動きたくて、たまんねぇ…」

あの晩以来、ゾロは、誰とも肌を合わせていない筈だ。
本当はがむしゃらに抱きたいだろう。
自分も性欲真っ盛りな歳だから、サンジにもそれはよくわかる。
だが、サンジの意思など意にもかけずに踏みにじったあの晩の自分を埋め合わせるように、ゾロはサンジを気遣って、いいか? と聞いてくる。
満たされていく心を隠すように「ここまでしといて、何言ってんだ、ばーか」と言ってやれば、ゾロがふっ切れたように笑った。
(あ、やべ…)
獣を解放しちまった、とサンジが思った時にはもう遅い。ズズンと腰が揺さぶられ始めた。
「あ、あ、ああーーっ」
ズクズクと感じ始めた内壁に、無防備に喘ぎ声が零れてしまう。
恐怖や不安の消えた甘い声に気を好くしたゾロが、サンジの快感スポットを狙って、巨根をドンと突く。
「ーーーっっっ!!!」
強い刺激に目の前がチカチカする。
飛びそうに気持ちいいのはゾロも同じだ。
サンジの狭い内壁がぎゅうぎゅうとゾロを締めつけてくる。
絡みつき、ぴったりと密着してくるそれに、あっという間に射精してしまいそうだ。

ゾロはサンジの膝に手を掛けると、大きく左右に割り開く。
股関節の柔かいサンジの身体は、なんなくその態勢を受け入れて、またもゾロを締めてくる。
だが、自分が先にイっては意味がない。今日はなんとしても、サンジを気持ちよくさせたいのだ。
ゾロは夢中でサンジの好いところを狙った。
深く強くついて、よがらせる。
「ひぁ、あ、あ、あ、っ…っ・・・!!…!」
ねじ込む様に腰をグラインドさせて、悶えさせる。
「やっ…あっ…はあっ…あああっーーー」
同時に胸の突起をこりこりと扱いて、翻弄させる。
「っ…っ…ぁあっ…」

激しい快感に翻弄され、のたうっていたサンジの身体は、次第に一定のリズムを持って腰を振り始めた。
「あぁ…ああぁ…ああっ…ーーーっ……」
短く切るように、上がっていた喘ぎ声も、長く尾を引き始める。
熱がせり上がってきているのだ。
ぐんぐんと昂ぶるそれを解放させようと、ついにサンジが自分の陰茎に手を伸ばした。
それを制して、代わりにゾロの手がサンジの怒張を掴む。
脈打つ肉棒をしごかれ、後ろを深く突き上げられ、
「あ、あ、あああっ、ゾ…ロっ! あああぁっぁあっ…!!!!」
大きなうねりに飲みこまれ、天上へと駆け上り。
身体の中でパーーーンとなにかが弾けたように白い世界に投げ出された。
そして、ぽわ、と開いた落下傘がゆらゆらと落ちてくるような浮遊感の中、ドクンと身体の中に熱いものが放出された。
(ああ…ゾロもイったんだな…)
そのまま、すぅっと、意識が飛んだ。



気を失っていたのは、ものの数分だったらしい。
さわさわと身体を撫でられる感覚に、サンジは覚醒した。
ゾロの大きな手が、さするようにサンジの腹や脚を撫でている。
撫でられた部分が、ぽっぽと熱い。
ただでさえ熱帯夜だというのに、ゾロはぺたりとサンジにくっついている。暑くて熱くてたまらない。
「あちぃ…」
つい、サンジの口からそんな言葉が出る。
その言葉に、ゾロの表情が緩む。
サンジは思った。
(文句を言ってんのに、汗ばんだ身体をくっつけたまま、何を、このミドリは、嬉しそうに笑ってやがんだ?)



無理に犯したあの晩は、どんなに身体を弄ってもさすっても、サンジの身体に熱が篭ることはなかった。
中心は無理矢理与えられた刺激に立ち上がったが、身体は白いを通り越して青白く強張り、最後まで冷たい汗を噴き出させていた。
それが今日は、のぼせたように身体を桃色に染め、金糸を丸い額に張り付かせて、はふはふ暑がっている。それがゾロには嬉しいのだ。
にやけるゾロを見て、訳はわからぬまま、つられてサンジも、にやけてしまった。
だって、サンジだって嬉しいのだ。事後にこうして笑えることが。

ほわわんと、事後の幸せに身体と心を委ねているうち、ふわふわ揺れる蚊帳が目に入ってきた。
行為の最中は、まったく目に入っていなかった蚊帳だが、これのお陰で、自分たちは一歩前へ踏み出せたとも言える。
かつては朝廷でのみ使われていた高級品だった蚊帳は、破戒僧と板前が生きた時代には、庶民も馴染みのあるものになっていた。
しかも嫁入り道具になるほどの、好いた仲の者たちには、ちょっとした縁起物だ。

「そういやぁ…」
蚊帳を見ながら板前が破戒僧に尋ねる。
「蚊帳は、ちゃんと吉日に吊ったんだろうな?」
「ああ?」
「なんだよ、てめぇ、坊主のくせに知らねぇのか? いや、坊主だから市井(しせい)にゃ、疎(うと)いのか? とにかく蚊帳は、吊るのも片付けるのも吉日と決まってるんだよ。で、いつ吊ったって?」
「4日前」
「4日前? そりゃ、仏滅じゃねぇかーっ!」

そんな破戒僧と板前に幸あらんことを…。



(了)



ようやく心も身体も繋がったようです。おつき合いくださってありがとうございました。
季節や文化をちょこちょこはさみ込めて、楽しかったです。
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