雪中花 #10


艶めいた声で言ったとたん、サンジの下肢にがばりとゾロが抱きついてきた。
ばっくりと口内に含まれて、熱い舌に絡め取られる。
双嚢は手を添えられてもみしだくように転がされ、前茎は肉厚の舌が、かつてないほどいやらしく責めてきた。
雄芯の付け根から先端へ、筋に沿ってゆっくりと焦らすように往復する。ずっぽりと口内に含まれたまま、螺旋を描くように蠢いていた舌が雁のくびれをれろれろと舐める。
さらに先端へ移動した舌先は先端の浅い切れ込みを突付くようになぞってきた。
「…ぃあっ!」
ひくっとのけぞったのと同時に、とぷりと透明な蜜があふれ出す。
溢れた汁をじゅ、と吸われて、膝が崩れ落ちそうになる。
ゾロの肩に手をついてどうにか身体を支えると、ゾロは瞳で笑って、再び先端の切り込みに舌先を這わせ、ちらちらと往復させてきた。
「ん…っふ…」
びくんびくんと身体が震えて、そのたびに蜜が溢れ出る。
窪みに溜まった蜜を抉り取るように舌先で刺激されて、腰が痺れるような快感が走る。
肉棒の側面を、窄めた唇が食むように激しく扱いてくる。
「ん……っふ…あ…ぁあっ」

立っているのが辛いほどの快感から逃れようと腰が引ける。
その腰を、逃がすものかとばかりにゾロの腕が引き戻す。
「吸ってくれと言ったのは、てめェだぞ」
とぷとぷと溢れ出る蜜を、じゅううと吸い上げられ、奥にある快感までずるりと引き出されるような激しい刺激が脳天まで突き抜けた。
「…っあぁ!! …あ、あ……も…っ」
せり上がってくる前兆を感じてサンジは身悶えた。
「っも…だめだッ…ゾロッ…」
サンジは必死でゾロの顔をはがそうとした。
しかしゾロは離れるどころか一層深くサンジを銜え、激しい口淫で追い上げてきた。
「…っんうっ…やっ…出るっ…ゾロ…ッッ!!」
射精感と快感が身体の中を激流のように駆け巡る。
白い身体がびくびくと震え、ゾロの口内で、こらえきれずに白濁が爆ぜた。
「っあああぁぁ…っ」
胴震いした身体が、立ってられずに膝からがくんと崩れた。
腰まですとんと落ちて目線が低くなったサンジの目の前には、こくりと上下するゾロの咽喉。
「ま…さか…」
かあっと赤面しながら、飲んじまったのか?と聞くと、ゾロがにやりと笑った。
「吸え、と言ったのは、てめェだぞ」
言われてよけいに身体の火照りが上昇した。

「もっと吸ってやろうか…」
耳朶に息を吹き込まれながら言われて、身体がぶるっと震えた。
言葉どおりゾロはサンジを膝立ちにすると、放出したばかりのものを再び銜えた。
放出したはずなのに、瞬く間に熱が戻ってきて、サンジは激しく身悶えた。
身体の中心で受けている刺激が、身体中に伝わってあちらこちらで火を灯す。
まだ前戯だというのに、痴れたように乱れる身体をゾロが熱っぽい目で見つめた。
再び吐精させられて、くたりと弛緩した身体が抱きしめられる。
首の裏を大きな手のひらで支えられ、腰を抱えてゆっくりと夜具へ横たえられた。
それは、帰ってきて肩から降ろされた時とまったく同じ動作だったが、もう、レディ扱いされてるとは感じない。心の内に沸き起こるのは、蕩けるような充足感と甘美な期待だ。
「ゾロ、くれよ、てめェの…」
「今日は随分と煽ってくれるじゃねェか」

腰が浮かされた。
さきほど奥まで探られた肉筒は、すでに解れていてゾロの指を抵抗無く飲み込む。
充分に熱く蕩けていることを確認して、ゾロの灼熱が宛てがわれる。
ズズッと太いものが入口を押し広げ。
(あぁっ…入ってくる…)
自分の肉壁がゾロの怒張に絡みついて、奥へ奥へといざなっている。
それに応えるように、ゾロが腰を進めてきた。
乱暴ではなく。しかし、激しい欲を隠そうともせずに強く。

「てめェの中、凄ェぞ…」
吸い付いてきやがる、とゾロは浮かされたように言った。
あぁ、とサンジは答えた。
自分でもわかっている。
埋め込まれた楔の形を模るように、自分の襞が密着し、そこから灼熱の脈動がどくんどくんと伝わってくる。
(ゾロが俺の中にいる…。熱くて、硬くて、太くて、力強い、ゾロの男が……)
それだけで唇から甘い喘ぎが零れていく。
きゅうんと切ない快感が背中を駆け上がる。
このままでいたいような、もっと強い快楽が欲しいような…。
脳が痺れる。
「っあ…」
つい、きゅうと締め付けると、ゾロがサンジの中でぐん、と大きくなった。
「てめっ…」
焦ったようなゾロの声が聞こえるや、先端がぐりっとサンジの中を抉った。
「…っひぁあっ…!」
官能が集中するところを擦られて、身体がびくんと跳ね上がった。
「っあ…ひ…っふ……んぁあっ…」
甘い喘ぎが、淫らな愉悦の色に染まっていく。
張り詰めた前からはたらたらと透明な蜜が溢れた。
そこにゾロの大きな手が前へ伸ばされて先端をくりくりと弄られた。
「っああっ…っ…」
身体が躍る魚の様に跳ね上がる。
このまま絶頂へ連れていってほしいのに、ゾロの手は肉棒から離れて、その奥で重く腫れた双果をもみしだく。
手のひらでゆっくりと転がされ、緩い官能がじわりと身体へ広がっていくが、もっと強い刺激が欲しくて腰が揺らめいた。
ゾロの手に、己の欲望を押し付けるようにこすりつける。
「ゾロッ…ゾロッ…あ、あ…っ」
艶めいた声がゾロの名を呼んだ。
とたんにズンと衝撃を受けて。
「ああッ…」
深々と刺し貫かれて、咽喉から歓喜の声が漏れた。
腹の奥から脳まで揺さぶられるような深い突きが繰り返される。
「っんんっ!…ああっ」
前を扱くのに合わせて、後ろを激しく抜き差しされる。
その激しさを全身全霊で受け止めて、悦楽に身悶えた。
「っあっ…っふ…っあ、ああっ…ああっ…」
掻き回されて翻弄されて。
「あああーーーっ」
のけぞるようにして、感極まった。
身体の中にはゾロの、外には自分の精が、ほとばしった。



乱れた呼吸が収まっても、頭の中も身体も溶けたままで、サンジはぼんやり弛緩していた。
まだ自分の中に埋め込まれたゾロのものが、時々ひくんと蠢くのを愛しく感じて、甘い余韻に浸る。
思考能力が戻ってくるにつれ、身体の端に、ぴちゃんと湿った感触が落とされるのに気づいた。
湿っていて、温かくて、くすぐったいもの…それはゾロの舌だった。ゾロが、手首や足首を舐めている。
ん?と上半身を起こして…。
「あ…」

ゾロの舌先には、朱い縄痕があった。
かあっと身体が熱くなる。
縄目の残る身体で悶え乱れたのかと思うと、いたたまれないほど恥ずかしい。
「っ…」
思わず足を引いたら、ゾロは何も言わずに、サンジを腕の中に抱きこんできた。

温かさに安堵すると同時に、この一件を改めて思い起こした。
「川政の借金が残ってる限り、またあいつら、俺を狙ってくるかもしれねェな…」
ついそう口にしたら、意外な言葉が返ってきた。
「大丈夫だ。川政の3代目はお奉行から呼び出し食らってる。悪党どもに密談の場所を提供して相当の賄賂を受け取ってるって垂れ込みしてやったのさ。じきに川政は廃業に追い込まれる。賭場のヤツラもそれを知って早々に動いている。どうせおかみに廃業にされちまうんじゃ、隣町の顔役に義理立てして川政を潰さないでおく必要も無くなるから、今頃奴ら、川政の家財一式奪いに行ってるだろうよ」

サンジは、あんぐりと口を開けて、ゾロを見た。
「てめぇ、図体ばっかの坊主かと思ったら、意外と頭が回るんだな…」
「いや、これを画策したのはナミだ。あいつ、金を作ることにかけちゃ恐ろしく頭が切れやがる」
「さすが、ナミさん! 俺の救世主はナミさんだったんだ〜〜!!」
目をハートにさせて今にもナミのもとへと飛び出していきそうなサンジをゾロははっしとつかまえた。
「川政が絡んでるってことを、品川まで行ってつきとめたのは俺だろ。だったら俺が救世主じゃねぇか」
ぐいと懐に抱え直して、抱きしめる。
ゾロの匂いがサンジの鼻腔をくすぐって、サンジは思わず逞しい身体を抱きしめ返した。

終わってみれば、一瞬のつむじ風に翻弄されたような、呆気ない事件だったけど…。
サンジは、たとえこの先ゾロと別れる日がこようとも、生涯、この件を忘れないだろうと思った。
肌を磨かれ飾り立てられ、成長を遅らせてまで作られた儚い玩具でなく、身体も性格も言動も性別も、あるがままが受け入れられている喜びを、深く強く感じた一件だった。
そして自分もゾロのあるがままが…
「凄ェ好きだ…」
大輪の花が咲いたようなその表情に、ゾロは息を呑んでサンジを見つめ…。
もつれるようにその場に押し倒して、深く口付けた。



 ◇ ◇ ◇

「サンジ君、来れないの? そんなに酷い怪我なの?」
不安そうなナミの声が『風車』に響いた。誘拐犯たちに痛めつけられたのかと思ったようだ。
蒼ざめた表情のナミに、昨晩犯りすぎて腰が立たねェんだとは、とても言えない。
「いや、あいつのことだから、今日一日ゆっくりすりゃ、明日はぴんしゃんしてるさ」
頭を掻きながらゾロが歯切れ悪くそういうと、ナミがきっと顔を上げた。
「もちろんよ! 雛の節句に花見の弁当。さっさと献立決めて材料手配して、宣伝打たなきゃならないんだから! かきいれどきを、みすみす逃してなるもんですか!」
「「「「「そっちの心配かよ!!」」」」」
ウソップをはじめ常連客が一斉にツッコんだ。

「まぁ、でも、花見弁当の目玉は決まってるぜ」
「何よ、それ。あんたが料理を知ってるなんて珍しい」
「しゃこ飯だ」
「しゃこ飯? この時期にどうやって?」
「しゃこ漁の漁師が売ってくれるとよ」
「は?」
まだ話が見えない、という顔をしているナミを見て、ゾロは笑った。
中央市場に出すほど量は獲れない。だから、地元で回していたのだが、それを料理屋が買い上げてくれるなら、自分たちとしても願ったり叶ったりだ。
そうあの二人は言った。

一昨日の雪はもう溶け出している。
春の陽光に包まれる日は、すぐそこまで来ていた。



(了)



長々おつきあいありがとうございました。
このお話、ひとまず一件落着ですが、またこのふたりの話をお目にかけることが出来るよう、
あちこち伏線張ってしまいました。

グラジパシリーズ最長のお話となりました。楽しんでいただけましたらぽちっとお願いします。→(web拍手)


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