おあずけの季節
んナミすわ〜〜〜〜〜〜んんっ!!!!!
お誕生日おめでとうーーーーーーーーー!
電伝虫からハートが飛び出しそうな声が響いた。
それに対してナミは嬉しさで声を弾ませながらも、きっちりクギを差した。
「んもうサンジ君たら、盗聴されるかもしれないから電話しちゃダメって言ったでしょ! アンタたちが揃ってこの船に居ないってカンづかれたら困るんだから!」
確かに今までは、麦わらの一味の双璧がそろっていないということはほとんどなかった。
大剣豪への挑戦状を受けてゾロが下船してもサンジが船に居たし、サンジが国王クラスの重要な式典などに料理の腕を請われて下船する時にはゾロがいることが多かった。
たまに二人の下船がかち合うことはあったが、サンジの用事は式典が終われば済むので、行き帰りの道中を含めてもだいたいの場合1週間で船に戻ってくる。その間に海賊王の船を狙おうなんて命知らずはいなかった。
たとえ海賊王の船を運良く沈められたとしても、飛んで帰ってくるだろうサンジに自分の船をひと蹴りで壊されるか、迷子の末に帰ってきた大剣豪に船をまっぷたつにされるか、どちらに転んでも未来がないからだ。
だが今回の不在は長い。こんなに長く二人がいないとわかれば、二人が麦わらの一味から離反したと思われるかもしれない。そうなれば、海賊王に挑んでくる命知らずもいるかもしれない。
『それはそれでおもしれーじゃねーか!』
とルフィは豪快に笑う。
けれどナミは、冗談じゃないわ!と思う。
「ルフィの胃袋の面倒見るだけでも大変なんだから! 厄介事はごめんだわ!」
そう言ったとたん電伝虫の向こうでサンジが叫んだ。
「だったら俺、船に戻るよーー!! ナミさんが困ってるなら、何をおいても駆けつけるよーー!!!」
「それはダメよ、サンジ」
「ああんロビンちゃん! ロビンちゃんにも会いたいよ〜〜。俺が船に戻るのがダメなら、そっちから来てくれてもいいんだけど…」
「え?」
ナミはびっくりして電伝虫を見つめた。
女性には、どんな小さな手間もかけさせまいとするのがサンジだ。「俺が行くからキミはただ待っていてくれればいいんだよ」と言うのがサンジだ。それが「来てほしい」と言うなんて。
なんか…おかしい…。また例の『海上にいないと体調が悪くなる病』かしら?
「だってほらナミさんのバースデーケーキ、作りてェし!」
サンジがあわてて電伝虫の向こうで言い添えるのが聞こえた。
私の困惑が伝わったのかしら――。
と思ったとたんに向こうの声が変わった。
「来なくていい! つぅか来るんじゃねェぞ!」
「おいクソマリモ! 俺とナミさんのラブラブトークを邪魔するんじゃねェ!!」
「どこがラブラブだ」
「うっせー! てめェの声聞くよりも、ナミさんの声聞くほうがどんだけいやされるか!!」
電伝虫から口げんかが聞こえる。
あー相変わらずだなアイツら。とウソップ。
そうですね〜〜楽しそうですね〜。とブルック。
楽しいのか? 俺、いまだに人間の感情表現はわかんねェや。とチョッパー。
アイツらが特殊なんだ、アイツらを基準に考えると人間の感情表現は全然わかんねーぞ。とフランキー。
なぁナミ、サンジの肉、食いに行こうぜーー。とルフィ。
ウチの船の男たちってホント変よね。とナミ。
ふふふ楽しいわ。とロビン。
「どういうつもりだ! 俺から逃げ回ったあげく、ナミを呼び寄せようとしやがるなんて!」
「逃げ回るだと? 人聞きの悪ィこと言うな。俺様が逃げたりするか、このクソ緑!」
電伝虫からまた声が聞こえてきた。
どうやら彼らは通話中だということも忘れて、喧嘩に突っ走っているらしい。
「逃げてるじゃねェか! 俺が手を伸ばすと、さっと逃げるじゃねェか!」
あら、話がちょっと面白い方向に進んできたわよ、とナミとロビンが目くばせし合ったとたん、サンジの声が響いてきた。
「だから、それは逃げてるんじゃねェ! さけてるだけだ!」
仁王立ちして堂々と「さけてるだけ」と言い放つサンジの姿が目に浮かんで、皆がプッと吹き出した。
そして皆、あわててシーーと人差し指を立てて笑いをこらえる。
「どっちでもいい! なんでさけるのか理由を言え!」
「そんなの…そんなの………てめェがまだ明るいうちからサカるからに決まってるだろうがーーーーーっっ!!!!」
ドカッと音がした。サンジがゾロを蹴ったに違いない。
もっともそれで引っ込むゾロではない。あんのじょう、すぐにゾロの声がした。
「明るいうちからって言うが、ここんとこ暗くならねェんだからしょーがねーだろ! 俺だって昼はおさえてんだよ! 夜の時間ならいいじゃねーか!」
「ダメだ! 夜であっても、じゅうぶん明るいからレディたちがこの丘へお散歩にいらしたりするんだよ! 家の前をレディが通ってるかもしれねェ時にてめェと……なことなんてできるかあぁぁぁ…」
サンジの最後のほうの声がフェイドアウトして消えた。おそらく叫びながらゾロから逃げていったのだ。その証拠にゾロの気配も、サンジを追うドドドドという足音とともに消えていった。
「サンジさん、ゾロさんのアプローチから逃げるのにそうとう疲れてらしゃるようですねぇ。我々に来てほしいだなんて…」
ブルックがしみじみ言う。ほかのクルーは痴話喧嘩を聞かされて脱力モードだ。
ロビンとナミだけが冷静につぶやいた。
「リトルノースは白夜なのね。ノースブルーでは夏至の前後2カ月くらいが白夜になるけど、グランドラインの島でそういう現象が起こるなんて、どういう仕組みかしら? 興味深いわ」
「そうね、天文学的に私も知りたいわ。でもそれよりロビン、誕生日に痴話喧嘩聞かされた慰謝料って、どのくらい請求したらいいと思う?」
(了)
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(2013.07)