ひとたびその唇を味わってしまえば。。。
それまでなぜ、それをただ眺めているだけで満足できたのか、不思議でならない。
求めれば求めるほどに欲しくなる。




骨のまで


「う…くっ……」
うめき声で我に返った。
欲望のままに組み敷き、抵抗も自由も封じて押さえつけた我が手をゆるめて、苦痛で汗ばんだ白い頬に張り付いていた金の髪の束をぬぐう。
するとコックは眉根を寄せた顔でこちらを見据え、笑うように口の端を吊り上げてみせた。

血管が透けるかと思うほど蒼ざめた顔は、どう見ても苦痛に耐えているとしか思えないが、つらいとも、やめろとも言わず、そんな素振りさえ一切見せない。
だから。余計に。
こじあけて犯して揺さぶって。
暴きたくなる。
本心を見せようとしないコックのすべてをさらけ出してやりたいと思う。

てめェの内っかわにあるもんをすべて俺に見せろ。
てめェの奥にあるもんをすべて俺に触らせろ。
すべて俺だけに。

こんなに自分は残忍だっただろうか。

確かに今まで、100人を連続で斬ることをいとわなかった。
確かに今まで、向かう敵に情を移したことなどなかった。
だというのに、今しがた終わったばかりの生死を分ける戦闘で、身体の表面の傷痕だけでなく臓腑も骨も傷ついている仲間を、休ませもせずに組み敷いて何度も穿っている。
これほど自分は残忍だったか?
相手の同意を待たずに肌に喰らいつくほど、自分は強欲だったか?

こんなふうに…自分が自分でなくなるのは、コイツのせいだ。
めりめりと生木を裂くように貫かれながら、なお、こちらを見透かしたように笑ってみせるコイツの、本当の表情が見たい。
この白い肌を引き裂いて、熱い肉のうねりをつかんで感じたい。
骨のきしみも、体液のしたたりも、すべて暴き、曝し、揺さぶってやりたい。
壊したい。犯したい。

コックの身体を暴くつもりが、暴かれたのは、おのれの欲。
コックを仕留めるつもりが、囚われたのは、おのれの心。



「どうよ、俺様が生まれた日に、俺様を独占できる気分はよ?」
脂汗の張り付いた蒼ざめた顔でコックはそう言い。
そして。
コイツを手に入れたと錯覚するほどの極上の表情でふわりと微笑み、俺を包んだ。



(了)


サン誕06小説。