近月点ヴェエメンテ #2
「船を見ても、すぐにはなんにも思い出さなかった。だがそのうち、仲間のことが少しずつ思い出されて、そしたら船での記憶がぽろぽろ降ってきた」
「てめェの海の記憶は、仲間と繋がった記憶なんだろうな。仲間がいて初めて、てめェが海にいる理由が生まれるんだ」
そしてサンジはきっと、ゾロや仲間のことより先に海を思い出すのだ。それはもう、どうしようもない。船乗りだと名乗り、「海の」一流料理人だと言うように、サンジと海は同体なのだ。
ゾロだって、それでサンジをなじる気はないだろう。それはゾロが、サンジを思い出すより先に、己が剣士であると自覚するようなものだからだ。
「船での俺の生活が、少しずつ明らかになって、俺はてめェとどんな夜を過ごしていたかも思い出した」
うぎゃーーとサンジは悲鳴を上げそうになった。んな、こっぱずかしいこと言うんじゃねェ!と叫びそうになった。そうしなかったのは、ゾロの表情が重い石を飲んだようだったからだ。
「記憶がどんどん戻るにつれて、てめェの台詞が気になりだした」
「俺の台詞?」
「自分で狩ったものか作ったものしか食うな、というアレだ」
ゾロの表情が険しくなる。おさえていた憤りが、ふつふつと戻ってきているのがゾロの表情に見てとれた。
「俺は気づいた。『この先てめェが独りで飯を食うとき』…てめェはそう言ったな? 『独りで飯を食う』ってのはなんだ? ありゃぁ、ちょっとくれェの間、独り、って意味じゃねェな? ちょっとくれェの間のことだったら、てめェはこう言うはずだ。『判断力が鈍っている時は、何も食わずに帰ってこい。んで俺の飯を食え』ってな」
(こういう時ばかり、どうして頭が回るんだろう…マリモのくせに…)
サンジは無意識に煙草を探す。
心の動揺を表わしたその仕草は、ゾロの言葉を肯定したに等しくて――――
「つまりてめェは、いつか俺が、てめェの傍からいなくなると思ってやがったんだ」
「それが、どうした!」
だからてめェは俺の名を呼ばず、この関係に名前や意味を持たせることを避けてきたんじゃねェのか? 俺が、みっともなく執着しねェように…!
「なんでてめェはそうやって…」
言いながらゾロは思った。
(あぁもう堪んねェよこの莫迦…。俺の手を離す時が来るのだと、てめェはずっと思ってきたのか。あの山で、俺を船に戻すのを諦めたのも、その時が来たと思ったからか…)
ゾロは殴りたいような抱きしめたいような気持ちでサンジに手を伸ばした。
「そんなふうに思わせたのは、俺なのか? 俺なんだな?」
「……」
返事をしないのが、何かに耐えているように思えて、ゾロは痩身を抱きしめた。
「てめェは俺っつう刀の鞘だ。刀は抜き身のまんまじゃ危なっかしくていけねェ。錆びやすくなって切れ味も落ちる。鞘と離れてどうする」
(え?)
サンジはぽかんとゾロを見つめた。
(なんか今、すげェこと言われなかったか?)
言われた意味がわかるにつれ、じわじわと恥ずかしさが登ってきた。
「そ、そ、そんなこと、今まで一度も言わなかったじゃねェか!」
「わかってると思ってた」
「わかるか、アホ!」
悪態つきながらも、きっと自分は耳の先まで真っ赤だろう。ゾロの腕の中でもぞもぞと身体を動かすと、じっとしてろ、と耳元で囁かれた。そのまま耳たぶを甘噛みされて、ぞくっと身体が震える。唇が口筋を降りてきて鎖骨をカリリと噛む。
「くっ」
仰け反ったサンジの身体を手で支えるようにしながら、ゾロは、もつれこむようにサンジをベッドに押し倒した。
分厚い身体が、早急にのし掛かってきた。
シャツの裾がボトムから引っ張り出され、その下にもぐりこんだ手がサンジの肌を滑っていく。胸の尖りを探り当てた指先が、そこをきゅうと摘まみ上げた。
「うっ…」
こよりを作るように、くにくにと弄られて電流のような痺れが走った。
痛みすれすれの刺激が快感へと変換されていく。
もう一方の乳首には、ぴちゃんと濡れた感触が落とされた。尖った舌先が小さな実をちろちろと嬲る。その実は見る間に紅く熟して、ツンと立ち上がっていく。
「あうっ…んん…っ…」
いっそ服を剥ぎ取られたほうがいいと思う。中途半端にまくり上げられたシャツを降ろせない自分は、この愛撫を悦んでいるのだと、ゾロに伝えているようなものではないか。
その間にもゾロの唇はどんどん下へ降りていく。
ボトムを抜き取られて、下穿きだけにされた。
布の上から握りこまれて、ゆっくりと上下される。次第に下穿きがくちゃりと塗れていく。先走りを零している鈴口が布越しに押し開かれる。
「あっ、ああっ…」
激しい羞恥と快感にサンジはわなないた。
「足開け」
下穿きもついに剥ぎ取られて、サンジが羞恥で脚を閉じ合わせようとした。だが、脚の間にゾロがいるため、それはゾロの身体を締め付けるだけなのだ。
わかっていてもつい、両脚は閉じたがって内側へと動く。まだ日は高いのだ。
なのにゾロは足を開けと言う。
「慣らさなくちゃ、てめェがつれェだろうが」
膝裏に手が掛かって、ぐいと持ち上げられる。赤ん坊のおしめを取り替えるような恥ずかしい格好に開かされた。
「よせっ…うあっ、ああっ!」
双丘の奥にある、梅の蕾のような小さな淡い窄まりを、湿った舌先がつついた。
「やっ…あうっ…」
ゾロの舌が媚肉の襞を一枚一枚めくるように蠢き、花弁を硬く畳んだ肉の蕾が少しずつ開花させられていく。
甘い吐息が口から零れ、鈴口からは快感の雫が、とぷりとぷりと溢れてくる。
抗おうとしても、自分の肉鞘がゾロの肉刀を待ちわびていることは否定しようもない。
執拗に後ろだけを解すゾロがもどかしかった。
(もっと欲しい…)
後ろだけじゃない。前も、あの剣だこのついた熱い手で握って、激しく扱いてほしい。雁首の張り出しの裏を、ぐるりと舐めて欲しい。鈴口を押し広げるようにして、舌先で嬲ってほしい。
快感へのあからさまな欲情がサンジを火照らせた。
「ゾロッ…あああっ…」
固い殻を破って羽化するように、頑なだった身体が急速に蕩けだす。
それに呼応するように、ゾロの舌が綻んだ蕾に差し入れられた。
「う、くううっ…」
入ってすぐのところにある快感のポイントを舌に蹂躙されて、甘い痺れがさざなみのように繰り返し湧き起こる。
唾液を送り込まれながら、指がそろりと入ってきた。くちゃり、という水音が響いて2本に増やされ、狭く湿った器官を掻き回される。いやらしい指戯に嗚咽が洩れた。逃れようとする身体を赦さずに、蠢きながら奥へと進んだそれに、一番敏感なポイントを抉られて悲鳴のような声が出た。
「あッ…ああーーー」
ゾロの指を食い締めて、再び強い刺激を自ら招いてしまう。その連鎖にサンジの身体はあられもなく乱れた。
「あう…ああっ…」
だが、快感に身をゆだねてよがる身体から、突然、ズ…と指を引き抜かれた。
思わず顔を上げて、脚の間のゾロを恨みがましい目で見つめたら、にやりと笑われた。
「鞘には刀、だ」
瞬間、両脚がより高く持ち上げられ、胸につくほど折り畳まれる。、蕩けた淫らな恥部が曝け出される格好に押さえ込まれて、真上から見下ろされた。
室内に差し込む柔かい光に照らされて、掲げられた白い尻の奥でひくひくと開閉する媚肉が、サンジにも、まる見えだ。
そこが一気に貫かれた。
「ぅううっ!!!」
ゾロの雄も先走りで充分に濡れていたとはいえ、狭い器官にいきなり埋め込まれて、サンジの身体が弓のようにしなった。
いきおい肩と首に自重がかかって、息が詰まる。
助けを求めるようにゾロを見上げた。
と、白い尻の間にゾロの刀身が突き刺さり、紅く潤んだ肉襞の奥へと飲み込まれていくさまが、はっきりと見えた。
その異常な光景に目を反らせずにいると、ゾロが嬉しそうに囁いた。
「よく見とけ。こいつァ、てめェのもんだ。忘れんな」
ゾロは更にゆっくりと腰を落とし、陰嚢が触れ合うほど深く結合した。
そのまま激しく腰を遣われる。
「ひあっ! ううっ…ううーー…」
床に肩を打ちつけるようにしてサンジの身体が悶えた。
やがてゾロはサンジを膝の上に抱きかかえ、対面座位で腰を揺らした。
ゾロの両手がサンジの尻たぶを左右に押し開き、更に深い結合をしようとする。
サンジの入口の襞が、ゾロの双嚢と擦り合わせられ、
「あぁっ、あああーー……」
入口も、深部の敏感なところも、強い刺激が与えられて、狂おしいような激しい快感がサンジを襲った。
「あぁっ…あっ……ゾロッ…もうっ…」
身体が達きたがって悲鳴を上げ始める。サンジの身体が大きく震えだした。
「あ、あああーーっ」
白い喉が大きく後ろに仰け反ったのが合図だった。
ゾロが激しく腰を打ち付けて、全てをサンジの中に叩き込む。
扱かれたサンジの雄も同時に大きく爆ぜ、白い飛沫がゾロとサンジの両方の腹に飛び散った。
はぁはぁと荒い息が二人分、部屋の中に充満する。
そのうちゾロの手がサンジの後頭部に伸びて、金の髪を梳きだした。
『おいおい、なんだよその手は…』
優しい手に面食らいながらも気持ちが良くて、拒みはしない。
心地好さが睡魔を呼び、眠りに落ちそうになった時、繋がった部分から、叩き込まれた白い液が、こぷりと滴り落ちた。その感触にサンジは、ひく、と身体を震わせた。
そうだ、まだ繋がったままなのだ。
反射的に締め付けたサンジに応じるように、ゾロが再び腰をつんつんとグラインドさせた。
中の白濁液が泡立って、くちくちと淫らな音を出す。
「抜けよ…」
半ば眠りに落ちながらサンジが言う。そのままことりと首が落ちて、サンジはゾロの腕の中で穏やかな寝息を立て始めた。
ゾロは声に出さずに囁いた。
『刀はやたらと鞘から抜くもんじゃねェんだよ』
繋がったまま、二人は夢の中へと落ちていった。
(了)
後日談は砂甘な話になってしまいました。しかも、真っ昼間から何をやってくれてんでしょうか。でもエピローグといえば、エロはお約束ですよね?(同意を求めてみる)
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