突発的小咄。またもアホ。


大剣豪の条件




大剣豪になりたい、とその少年は言った。
サンジは、その少年をマジマジと見つめた。

少年は緊張した。
眉毛がくるんと巻いたそのコックの瞳は、刻々表情を変える海のような蒼色をしていて、この瞳に覗かれるとドギマギしてしまう者が多い。少年も例外なくその状態だった。
緊張しながら、返事を待つと、コックは首を振りながら言った。
「おまえは今のままじゃ大剣豪になれねェな」
少年は少々気落ちした顔をしたが、自分の力がまだまだ大剣豪の足元にも及ばないことはわかっているのだろう。神妙にうなずくと、大剣豪と一緒に旅をしてきたアンタに聞きたいとサンジに問いかけてきた。
「今の俺に一番足りないものはなんだ?」

サンジは少年に合わせて神妙な顔になって言った。
「おまえは普通すぎるんだ」
「は?」
「今の大剣豪を知ってるよな? 頭は緑カビ色。腹巻が手放せねェ。足元はドカチンの安全靴。口に刀を銜えてしゃべっちゃったりする。おまけにどうしようもない迷子だ。それが今の大剣豪。で、その前の大剣豪を知ってるか? 妙な髭生やして、とんでもなく派手なシャツを着て『無益』とか普通でない言葉をしゃべるオッサンだった。そういうことなんだ。わかるだろ?」
いったいこの内容から何をわかれというのか?
一向にわからない少年は、首をかしげた。
その様子を見て、サンジはふーっと紫煙を吐き出して神妙な顔のまま続けた。「つまりだな・・」

「つまり、大剣豪は、奇天烈(きてれつ)な奴しかなれねェんだ!」

そ、そこかよ! 一緒に話を聞いていたウソップは、思わず口から飲み物を噴出しそうになった。
構わずサンジは続ける。
「だから、てめぇに足りないものは奇抜さだ! エキセントリックに生きろ!」
「そんなこと言っても、俺、奇抜なとこなんて全然無いし…。髪の色は普通すぎる茶色だし、腹巻も派手シャツも持ってねぇし、迷子にもならねぇ…。ってことは大剣豪になる才能が無いってことなのか…」
絶望的な表情でそう言う少年にサンジはしたり顔でアドバイスした。
「確かにそりゃあ普通すぎるな。だが元が普通なら、行動を普通じゃなくするという手もある。うん、そうだ。頭にピヨピヨヒヨコを乗っけながら闘うとか、特別に奇妙なことをしたら良いんじゃね?」

『おめぇは頭ん中にピヨピヨヒヨコ飼ってやがるよ!』
サンジにつっこみたいウソップだった。

その晩、船に戻ったウソップは、イチャコラしているバカップルを見ながら、世界一になれたのは奇天烈だったからだと恋女房に思われている大剣豪を、ほんの少し哀れに思った。


おしまい

サンジがアホでごめんなさいゾロが奇天烈でごめんなさい。本編のサンちゃんがアホかわいすぎるのがいけない!!  アホ話におつきあいありがとうございました。
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(2012.10)