文無しジョバンニ #2


「おい。いつまで気絶したフリしてんだ、起きろ」
ゾロシアは引き取った男を自室のソファに投げながら言った。
「アレ? ばれてた?」
むくりと男が起き上がる。
「当たりまえだ。おまえがあのくらいで気絶するタマかよ。だいたいなんだってあんなことしたんだ?」
「てめェんちに正面から行って、このサンジーノ様を入れてくれるか? 素で行ったら当然入れねェし、変装してっても怪しまれて入れねェだろ?」
「だからって金も持たずに俺の店に来るとはバカじゃねェのか? 俺がいなかったらおまえは今頃リンチの末に殺されてたか、クスリ打たれて公開レイプショーでケツ掘られてたぞ」
「そりゃあ有りえねェな。てめェが来るってわかってたもん」
「わかってた?」
どこから俺の行動が漏れたんだ?といぶかしげな顔をしたゾロシアに、サンジーノは冷蔵庫を物色しながら答えた。
「ゾロシアとクリスマスの夜を過ごしたいんだけど、どうしたらいいと思う?ってロビータちゃんに聞いたら、一緒に作戦を考えてくれたよ」
――あのアマ…。
空いた口がふさがらないとはこのことだ。どこの世界に自分のファミリーの幹部の行動を敵対ファミリーの幹部に教える人間がいるだろう。

「ロビータちゃんを責めるなよ。彼女は俺のお願いを聞いてくれただけなんだから。それより時間が無ェ。さっさと乾杯しようぜ」
「時間が無ェって?」
「クリスマスの朝は家族で過ごすもんだろ? そしてクリスマスツリーの下にはプレゼントがある」
「おまえはその歳になってまだ親からプレゼントをもらってんのかよ」
「違ェよバーカ。ジジィの店の前にでっかいクリスマスツリーを立てたんだ。そこに、近所の親無しガキ共のためのプレゼントを用意すんだよ」
そんな慈善をするくせに、この男は俺の店をひっかき回し、そのうえ蠱惑的に俺を誘う。天使なのか悪魔なのか。
「さあ乾杯しようぜ」
「それは俺のシャンパンじゃねェか」
「堅いこと言うなって」
サンジーノはゾロシアの部屋の冷蔵庫から勝手に取り出したシャンパンを開けてグラスに注ぐ。一番上等のシャンパンを並々と。

「メリークリスマス!」
一気にシャンパンを飲みほしたサンジーノがゾロシアに迫ってキスをしようとする。不意に女の香がゾロシアの鼻を衝いた。ホステスらがつけていた香水の香だ。ここまで肩に担いできたというのに、彼の身体の重みに心が浮ついて今まで気づかなかった。それが、サンジーノが正面から近寄ってきた時、不意に香ったのだ。ゾロシアはとっさに身を引いた。
「どうした?」
けげんな顔でサンジーノが聞く。
「ホステスに囲まれてしまりの無ェ顔でキスの大盤ぶるまいしたくせに」
苦虫をつぶしたような顔で答えると、
「すねるなよ、大人のキスはてめェのためにとっておいただろう?」
サンジーノはシャンパンを口に含んで、ゾロシアの頭を引き寄せた。唇と唇が触れ、シャンパンと共にサンジーノの柔らかい舌がゆっくりと入ってきた。そしてゾロシアの口腔をむさぼるように愛撫する。
――天使はこんなことしねェな。やっぱり悪魔だ…。
「何か言ったか?」
「なんでもねェ」

サンジーノから薫った女の香りは、シャンパンの香りにかきけされて、もう気にならない。ゾロシアの手がサンジーノの腰を引き寄せた。お互いの熱い塊が布越しに触れ合う。
濃厚なキスをしながら、二人ともシャツのボタンをはずし、自分のスラックスのジッパーを素早く降ろした。足元に落ちたスラックスを踏んづけながらソファへ移動する。もつれこむようにソファに沈んで荒々しく衣服を脱がせ合う。
「今日もこっちは金色のままか。変装にしてはお粗末だな」
「ばーか、てめェのためだよ。下まで染めたら、てめェがふてくされるだろうが。このまえ陰毛の形を整えただけで誰にやらせたって激昂したくせに。お陰でムダ毛の処理もできずにボーボーだ」
サンジーノはおかしそうに笑った。そしてソファに掛けられた毛足の長いムートンの上で、伸び伸びと裸体をくつろがせる。つやのある肌は、白熱灯の黄みがかった光を受けても白い。けれどその透き通るような皮膚の下には半端な愛撫をはね返すような肉が満ちている。このぎっしりと筋肉が詰まった身体が自分の指戯や舌戯に打ち震えるのがいい。この身体を抱くと、支配欲と情愛の両方が満たされる。その恍惚感はほかの者ではあじわえない。

――そういえばしばらく抱いていなかった。
ゾロシアは急に渇きを覚え、くつろぐ身体に性急に手をすべらせた。腰骨(ようこつ)のかたちを指先でなぞってやると、それだけでサンジーノの腰が浮いてくる。
もどかしげに揺れる長い足をゾロシアは割り開く。
「白いな」
陽にさらされることの少ない内腿は身体のどこよりも白い。それでいて強靭な筋肉がその薄い皮膚を押し上げている。ゾロシアは賞賛するようにサンジーノのひざがしらにキスをして、いっそう大きく脚を割り開いた。内腿の柔らかい部分をはむように口づけ、差し出した舌でねぶる。ひくんとサンジーノの身体が反応する。
ゾロシアの舌がゆっくりと身体の中心へと近づいていく。ひざ裏をすくいあげられたかっこうに、サンジーノはわずかに抵抗を見せた。しかしすでにゾロシアの前に、ふしだらなほど開かされて、すべてをあらわにさせられている。
ゾロシアはその中心で屹立している形を、ついっと指先でなぞりあげた。とたんにのどをのけぞらせてサンジーノが震えた。柔らかくしごいてやれば、その動きに合わせて身体をくねらせる。
とろりと蜜をこぼし始めた先端をもてあそんでやれば、
「あ、あ、ああっ…」
サンジーノがたまらず嗚咽を漏らした。ゾロシアの指先が粘ついた露を亀頭にぬりひろげる。くるくるといじってやるとその度に腰が跳ねた。
割れた腹筋の向こう側では、胸の飾りが熟れたぐみの実のように赤くツンと立ち上がっていた。それを強く弾く。
「う!!」
弓なりの身体が跳ねて、手の中の肉茎がどくんと波打つ。いつもながら感度が良い。
二、三度弾いてから、こよりをつくるように胸をこねてやる。もう一方の手では肉茎を緩急をつけてしごく。
「あ…あぁ…いじってばかりいるんじゃねェ…」
喘ぐように言って、サンジーノの長い足がゾロシアの腰に絡んで引き寄せた。
――早く寄越せ…
吐息のように漏らされた、掠れたテノールがゾロシアの耳をうつ。ゾロシアは小さくうなづいた。彼ももう、はちきれそうなのだ。
ゾロシアの手が潤滑油をまさぐり、小さなすぼまりに塗り込める。急ぎたい気持ちをなだめながら、デリケートな薄絹を少しずつめくるように肉のひだをほぐしていく。やがてふっくらとほころんだ後蕾にゾロシアは怒張をあてがった。そしてゆっくりそれを沈ませていった。
「あぁ…」
悦びを隠そうともせずにサンジーノが息を吐く。ゾロシアはさらに深く腰を進めて、サンジーノの身体に自分を重ねた。
始めはゆっくりとかき回すようにしてサンジーノの中をえぐっていた律動が、次第に激しくなる。熱い身体がぶつかり合い揺さぶり合い、身もだえと共に、うなるような喘ぎ声をあげて二人は達した。



翌朝ゾロシアが目覚めたとき、サンジーノはすでにいなかった。4時半にはここを出ないとならないと言っていたから、その言葉通り出ていったのだろう。ろくに寝ていないに違いないがタフな彼のことだ、気にすることもないだろう。
自分もそろそろファミリーに顔を出してクリスマスの挨拶をしなくてはならない。シャワーを浴びようとベッドから起き出して気づいた。ドレッサーの前にリボンのついた包みが置いてある。開けると小さなクリスマス菓子が入っていた。サンジーノのお手製だろう。添えられたカードには『てめェに祝福のキスを!』と書かれていた。
こういうところがあの男のまめまめしいところだ。きっと今頃はプレゼントを受け取った貧しい子供たちにも祝福のキスと温かいスープを与えていることだろう。
――やはり、あいつの中には悪魔と天使が同居しているようだ。
ゾロシアの表情が自然とほころんだ。


(了)


メリークリスマス!! このゾロシアとサンジーノは「泳ぐディアブロ」の二人です。「泳ぐ…」の半年後設定。
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(2013.12)