3. 「あああああーーーー!でっかいって、いいいーーーーー!!!」 握りこぶしの両手を高々と上げて、サンジが叫ぶ。 朝、いつものごとく早起きをしていつもの如くまずおトイレに行った。小さくなろうが羽が生えようが、おトイレはいつものように洗面台横の、いつもの場所へ。 そしてしばらく。 サンジはドアノブが普通に握れるサイズに戻った手で、勢いよくドアを開けた。そしてこの世のすべての苦しみから解放されたかのようなスッキリした顔で、 「もどったーーーー!!!」 と叫んだのだった。そのまま甲板へ突っ走り、冒頭の台詞を大声張り上げて叫んで、何事かと起き出してきた男メンバーたちに向かって、高く上げた両手の拳をパーに広げて、突進した。 「もとに戻ったぜーーい!」 「おかえりサンジー!」 ウソップ、チョッパーの順に、麦わらメンバーの男達が一人ずつその手のひらにハイタッチ。 「イエーイ!」パチン! 「イエーイ!」ぽよんっ(肉球) パァン!「うおーい!フランキーいてー!鉄板いてー!」 プス!「ブルックも、いてー!骨突き刺さるー」 ぐるぐるーー「わぁ!ちょ、ルフィ!ハイタッチだ!胴体に巻きつけってことじゃねーっ」 ひとしきり男衆との再会(元のサイズに戻ったこと=帰ってきました)を喜び合ったあと、朝の身だしなみを終え朝食待ちのナミとロビンが座るラウンジまで駆けていく。扉を開けて、 「ナミすわーん、ロビンちゃーーーん、イエーー!」 男達と同じリアクションをくれるのを期待しながら両手を挙げる。 「あ、消化できたんだ?よかった〜。そろそろ手の込んだ料理食べたかったのよねー」 「何でも言って?何でも作るよナミすわんのためならぁ〜」 「開かないって言ってた新しい紅茶の缶開けてくれる?午後に飲みたいわ」 「OKつかまつりました〜。昨日出せなくってゴメンね〜。とびっきりのアフタヌーンティーにするから待ってて〜」 あげた両手の手のひらはそのまま二人に無視されたが、そんなことでサンジがへこたれるわけもなく。ニコヤカに迎えられて大はしゃぎで二人の周りを飛び回る。だれかが見たら、羽があろうがなかろうが、大差ねぇなと思うであろう姿であった。 大きくなったサンジは軽やかにスキップを踏みながら、 「おれ、でっかくなってよかったーーー!」 さっそくキッチンに行く。 ふふううふん、と鼻歌を歌いながら、先日も使ったおたまを取り出した。手にしっくり馴染んだおたまの取っ手を、右から左へと、鮮やかな手つきで持ち変える。 そのおたまをクルンと返して逆手に持ち直し、自分の左肩後ろへとワンハンドバックで、コン、と。きれいに緑の頭にヒットさせた。 「ってえ…」 サンジの後ろでゾロが頭を抱えてうずくまる。 「エロオーラ撒き散らしながら背後に立つな」 長い指を手品師のように操っておたまをくるくると回しながら、サンジが振り返る。 ゾロがぶうっと膨れる。立ち上がって両手をホールドアップと同じように持ち上げ、 「おれとは?」 と尋ねる。ハイタッチがしたいらしい。が、サンジはというと 「…さ、朝ごはんの準備しよ。なに作ろっかな〜」 ゾロの文句など聞く耳持たんとばかり、その姿に背中を向けた。 いつも朝食には現れず、サンジが起こしに行くまで寝こけているゾロが、朝食前にキッチンに居る。おおかたサンジの絶叫を聞いて起きてきて、甲板でみんなとハイタッチする姿を見て、おれもおれもと追いかけてきたのだろうと思われる。サンジに完全無視をキメられてなお、ゾロが両手をあげ続ける。背中を向けたサンジが肩越しに振り向いて、ゾロを睨んだ。両手を挙げてホールドアップの姿勢で仁王立ちのゾロを、しばらくじっと見て、それからプ、と笑った。しょーがねーなとばかり体を回してゾロに向き合う。 仏頂面で両手を挙げたゾロに、 「そのままの姿勢でいろよ」 と言う。ゾロがうむ、と頷くのを合図に二歩、ゾロに歩み寄った。胸と胸が触れるほどの至近距離。サンジは首を傾げて、すり、と肩にすりより、両手を挙げたゾロの無防備なわき腹に両腕を回す。そのまま体をゾロに預けて抱きついた。両腕をゆっくりとゾロの背中に回す。 「…」 ゾロは何も言わず、両手を挙げたまま固まった。抱きついたサンジが顔をゾロの肩口に寄せる。ゾロの頬をサンジの髪が柔らかく撫でた。 低く甘く、とろけるような優しい声でサンジがゾロの耳元にささやく。 「やっぱでかい方がいいな」 それを聞いたとたん、ゾロがあげた両手でがば、とサンジの背中をかき抱いた。 この数日間、ちびサンジの声を何度も耳元で聞いてきた。が、それは主に小さすぎるサンジの声が聞こえるようにと、双方近寄ってのことであって、こんな、誘うような甘えるような声ではなかった。 色を含んだサンジの声にゾロは一瞬で発情する。 「ここでヤってもいいか」 と上擦った声で聞くゾロに、 「いいわけないだろ」 とサンジ。キッチンで朝食前で、相手はゾロで。いや相手は誰でもだが、ヤッていいわけないだろが。 さらにきつく抱きしめるゾロの背中を、回した手でバンバンと叩く。 「はーなーせーー」 抗議するが、ゾロが聞くわけがない。 「おまえから誘っといて、断るはねぇだろ」 「誘ってねぇ」 「抱きついてきたじゃねーか」 「そうだけど。時と場所考えろって。離せ、朝めし作れねー」 ゾロが、少しだけ腕を緩める。サンジの顔を覗き込む。ヤッていいわけないけども。やっぱりこうして触れるのはこの大きさだからこそで、やっぱり嬉しい。元の大きさに戻れてホントにヨカッタと思った。 サンジは笑って、ゾロのでこに自分のおでこをこつんと合わせた。 そのままゾロの唇に軽くキスをする。ちゅ、と音を立てて唇が離れる。 緑の頭を抱えてゾロを見つめ、サンジは 「ただいま」 と言った。ゾロが、なにがただいまだ何処にも行ってねーじゃねーか、と眉を寄せた。こういう言葉の譬えはゾロには通用しない。でもいい。ゾロがそんなヤツだから自分は好きなんだ。サンジはふふ、と笑った。 「握り飯作ってやるよ」 と言うと、ゾロが不遜な顔つきで 「おにぎり与えとけばなんとかなると思ってんじゃねーだろな」 とぼやく。あはは、と笑って、 「今晩、な」 とささやいた。 ゾロが10分で済ませるからちょっとだけヤらせろとか何とか言いながら、サンジのシャツの中に手を差し入れる。シャツの中から背中に手のひらを回して、 「ハネ、無いな」と言うゾロに 「このでかさで有ったらちょっと引くだろ」 とサンジが返す。肩甲骨辺りを柔らかく撫でられて、サンジが背中を逸らす。ゾロの唇がサンジの首筋から、だんだん下ヘと、鎖骨をすべり、開いたシャツのあいだに移っていく。 朝で、キッチンで、みんな起きてる。 そろそろ離れないと、と思いながらも、思わず始めてしまった甘い愛撫に二人ともなかなか体を離すことが出来ない。 「さかなが飛んでるぞ!!!」 突然の大声に、はたと二人我に返った。 体を離したと同時、バタバタと走ってウソップとチョッパーがキッチンに入ってくる。 「サンジ!!おまえ鳥肉海に捨てたろ!!」 声を揃えて叫ぶウソップとチョッパーに、サンジが 「捨てたんじゃねーよ。さかなにやったんだ。メシにしろってな」 「空を小さい魚がいっぱい飛んでるぞ!!鯨もいるぞ!」 目をキラキラと輝かせるチョッパー。 サンジが甲板に出ると、麦わらメンバー達が空を見上げている。ルフィがうふぉーと叫んでいる。 空に、魚が飛んでいる。海面からジャンプしている魚もいる。あの長い蛇みたいなのはうつぼか。なんと、蛸にも羽が。どれもこれも10分の1スケールではあるが。サンジが海に流した肉を食べた海洋生物が翼を羽ばたかせて飛んでいる。蛸や蟹などが羽をつけて飛んでる姿は、滑稽を通り越して怖いくらいだ。 「すげーな」 サンジが煙草に火を付けながら感心して空を見上げる。傍にいたフランキーが 「おまえ、コレを想定して海に鳥の肉ばら撒いたのか?」 という問に 「消化すれば、元通りだろ?」 と言った。 海面からひときわ大きな水しぶき。巨大な海王類が大きな翼をばっさばっさと羽ばたかせ、海面から飛び立った。10分の1スケールにしても、通常の鯨ほどに大きい。 海王類が大きな翼を広げゆうゆうと、海面、とサニー号の上に大きな影を作り、横切る。 メンバーみんなが頭上を見上げた。ルフィが、あれ捕まえていいか?メシにしよう!つうか乗りたい!!と言った。サンジが、もちろんだ、無傷で捕獲しろと返し、続けて 「鳥の肉10トン分、その海獣で釣りがくる」 と言って爽やかに笑った。 朝の澄んだ青空に羽の生えたさかなが飛ぶ。日の光を浴びた翼がキラキラと光る。羽ばたいたときに散る羽が、その光のかけらのごとくひらひらと空から舞い落ちてくる。 ルフィが海王類をたあいもなく一撃で仕留め、ウソップ、チョッパーたちも大騒ぎで蟹や海老などを捕まえて、食材確保は叶った。その後しばらくメンバー全員で不思議な景色に見入っていたが、ルフィの「腹減った!」の合図で、それぞれ通常の朝の動作に戻った。 ナミ・ロビンがサンジに朝食出来たら呼ぶようにと言い、ラウンジに戻る。 フランキーとブルックが顔を洗いに行く。 ルフィ・ウソップ・チョッパーの3人組は、朝ごはんまでに捕まえようと後から出現した巨大ダイおうイカ捕獲に挑んでいる。 先程の甘い抱擁が中途半端で終わってしまって不機嫌なゾロが、ぶすっとした顔で、夜まで寝る、と呟き甲板に寝転がった。それをサンジが蹴飛ばした。 あいも変わらず、いつもの何事も無き麦わら一味の朝の風景であった。 【飛ぶだいおういか】
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ああああああ、もうたまらん、素敵すぎる! ちっちゃくなってもサンジの凶暴コックさんっぷりが変わらないのがいい! ツンデレなところがいい! そしてこのラストの発想に脱帽です!
いただいたこの小説はカラリと明るいゾロサンですが、ぐう様のゾロサンってヘタレなところやアホなところや負の感情なんかもちゃんと描かれていたんですよね。それでいて、芯はぶれないイイ男たちだった。好きなキャラ・好きなカプには、とかく理想をおしつけてしまいがちですが、ぐう様のゾロサンは等身大で、ホントに愛すべき奴らだなぁとしみじみ思える小説をたくさんお書きになっていました。 ぐう様のサイトが閉鎖してしまった現在となっては、キリリクのお陰で作品を頂戴できたことは本当に幸運でした。ぐう様、私の無茶振りなリクエストを聞いてくださってありがとうございました! |