くそ! 雨は激しさを増す。 入り組み迷路のような石造りの街をゾロはただ自分の感だけを頼りに走った。 あの体ではろくに歩けやしないだろう。 ゾロは白いシーツにくるまったあの男の蒼い顔を思い出した。 おれが、この街に住むすべての男を切り殺してやるのに!! 容赦ないこの冷たい雨でも沸騰するこの気持ちを鎮めるには足りない。 ふと、暗い路地から血の匂い。 ゾロの戦闘で身に付いた感覚が鋼のように研ぎ澄まされる。 あそこだ! あそこにコックがいる! ゾロは確信を持ってその路地へ入る。 いた。 足元には吐血し、無残な顔をした男達の屍。 狭い路地、男達に逃げ場はなく、容赦ない蹴りによって壁にその体を叩きつけられたのだ。 その先に一人、雨に打たれながら壁にすがり、点くはずのない煙草に火をつけようとしている男が立っていた。雨はその男の金の髪からいつもの輝きを奪っていたが、それでも、その男の白い肌はまるで自らが発光しているかのようだ。 男はゆっくりとゾロの方に顔を向けた。 「よう」 赤見を失った唇がゆっくりと微笑む。 ゾロはただ茫然と立ち尽くす。 「お前、おれがどんだけ…」 言い掛けた言葉をサンジは片手をあげて制した。 「ったく、戦闘後の一服も出来やねェ」 サンジはいつもの悠長な口調で忌々しげに煙草を放った。サンジの足元に転がっている男の上にそれは落ち、二人は意味もなくその煙草を目で追った。 一拍の沈黙の後、サンジがゾロを見据えた。 ゾロはそのガラスのような碧い瞳に、瞳の奥に燃える青い炎に金縛りにあったように魅せられた。 その炎にならこの身を焼かれてもいい。 余程せっぱつまった表情をしていたのか、サンジがふっとからかうように笑う。 「手前の始末くれェ、手前で出来んだよ」 ゾロはハッとする。 そうだ、こいつは強い。 自分が手を出すまでもないのだ。 だが、きっとこの男は今動けない。余裕のふり。余裕のしぐさ。 ゾロがサンジに駆け寄った。 白いシャツには返り血。 額には金の髪がうねって貼りつき、その顔はやはり白い。 「コック!」 その言葉だけを絞り出すように発すると、ゾロは噛みつくようなキスをした。 冷え切った体、冷たい雨。 その中でお互いの口腔の中だけが熱い。 雨よ。すべて洗い流せばいい。 こいつに残る凌辱の痕も、男達の返り血も、すべて! ゾロの肩に回されたサンジの腕がゾロをしっかりと抱く。 それだけがサンジの心を雄弁に語った。 Fin |
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夢音優月様が、拙絵「雨に抱く」に素敵なSSをつけて下さいました!
優月様の文章は、硬派でシンプルなのに、魅せるツボはしっかり押さえているところが素晴らしい!! この文章も、短い文章なのに、この前に遭ったこと、これからのこの二人など、前後の時間へも思いが広がっていきます! 屈しないサンジのかっこよさ、そういうサンジをわかっていても気遣わずにはいられないゾロ…はわー、たまらん! 『雨よ。すべて洗い流せばいい。』って、きゃーーーー。 夢音優月様、素敵な作品をありがとうございました!! 夢音優月様のサイトは →こちら ブラウザのバックボタンでお戻りください。 |