「やっぱ、てめェの血は最高だ」
サンジは口元に付いた深紅の薔薇色をした血を、同じくらい赤い舌でぺろりと舐めた。
その艶めかしい仕草を見ながらゾロは片頬を上げた。
「ふん、やっとおれもお前のような淫乱なヴァンパイアの仲間入りって訳か」
ゾロは自らのまだ痺れの残る首筋にそっと手をやった。
「淫乱はお前さ、ゾロ」
サンジはゾロの前に回り込み、作り物のような碧い瞳を細めてゾロの頬に白い指を這わした。
「この国の英雄。百年に一度の傑物…。そして、最強の魔物狩り」
くっくっくっ…と肩を揺らして笑う。
「お前についた数々の呼び名。あの時おれの心臓を一突きさえすれば、お前は一生遊んで暮らせるだけの財と地位を得ただろうになァ」
サンジは心底楽しげに煙草に火を点け、今しがたゾロの首筋から血を吸ったばかりの血色のいい唇に銜える。
「それが…、このザマ」
サンジは再びゾロに近づき、そっとゾロの兆しを見せるそこに手を当てた。
「だが、いいぜ?おれはお前の味が好きだ。下も上も、な?」
サンジは右手をゾロのそこに当てたまま、まだ血の滲んだ首筋を舐める。鉄の味のするそれは、サンジにとっては極上の生きるための糧。この男の生命力そのものを表すかのように、それは濃い。
その時突然、ゾロがサンジの女のように白い手首を掴んだ。
「なっ?」
サンジがゾロの顔を見たその瞬間思いもよらぬ速さで、煙草を引っこ抜かれ、そのまま開いた口へゾロの舌が滑りこんで来る。
「…ん、ふっ」
ゾロはサンジの金髪に手を入れ、その頭を逃がさないように両手で掴み、深く口づけた。
サンジは魔物の力でそれを振りほどこうともがいたが、サンジと血の契約を交わした男の体内は確実に魔物へと変化し、人間であった時でさえ優れた身体能力は、すでにサンジを上回っていた。
抵抗を止めたサンジの口内を堪能したゾロはその痩身の両肩に手をやり、そっと引き離す。
誇り高い純血種のヴァンパイアであるサンジは息を荒げたまま、炎をたたえた瞳でゾロを睨む。
「お前、元人間の分際で…、おれに!」
サンジは人の肉眼では見る事の出来ないスピードでゾロへ蹴りを繰り出した。しかしゾロはそれを一瞬早く片腕で止める。
「なっ!!」
サンジが驚愕を露わに、目を見開く。
「お前ら魔物は、人間の血と精液でその命を繋ぐ。とくに、この地方に出るヴァンパイアは度々男を口淫で誘惑し、血を啜り、精液を飲み込む。そう、お前のことだ」
ゾロは嗤っていた。これ程愉快な事はないとでも言うように。
「何が言いたい?」
反対にサンジは表情を押し殺し、ゾロをじっと見つめている。
「おれが、なぜお前と契約を結んだと思う?」
「てめェは自分の命が惜しかった。おれはお前の味が気に入った。お前は永遠におれの元でおれのために生きる。それが契約だったな?」
ゾロが肩を揺らして笑った。
「とんだ、世間知らずの魔物だ」
その言葉にサンジからは鋭い針のような殺気が放たれた。
しかし、ゾロは全く気にも留めず、一歩サンジの元へ歩を進める。サンジは間合いを取ろうと後ずさろうとするが、まだ魔物になりたての力を使いこなしてないであろうゾロの眼力に指一つ動かす事が出来ない。
「おれが、契約を結んだのは…、お前とこうするためだ」
「!!」
突然、ゾロがサンジのマントをはぎ取り、その下の華麗なシフォンのブラウスを左右に引き裂いた。
「な!?や…め…!」
白い胸があらわになる。窓から差し込む刃物のように細い三日月の明かりだけでもその男の肌の肌理の細かさが分かる。
誰も触れた事のない新雪のようなその胸には、可憐な花のような二つの突起が艶やかに存在を主張していた。
「まったく、純血種という奴は…」
ゾロはその彫刻のように完璧な肉体を隅から隅まで眼で撫でまわす。
悔しげに自分を睨む金髪の男。
しかしゾロはサンジのすべてを容赦なく暴いた。
白い胸も、指も、足も、敏感な果実も、固い蕾の奥の蠢く肉の中も。
サンジの拒絶の声はいつしか掠れた嬌声に変わり、初めて開かれたとは思えない程に乱れ、濡れた。
ゾロはうつぶせたサンジの白い背を項から白い双丘へゆっくりと指を這わす。
「おれがなぜ最強の魔物狩りと呼ばれたか分かるか?魔物と人間が交われば魔物は死ぬ。だが、人間はそれ以前に魔物を組み伏せるだけの力がねェ。そこで生まれたのがおれだ」
サンジの白い肩が強張った。
床に伏せていた顔をゆっくりとゾロに向ける。
「まさか…、てめェ」
「おれは、魔物と人間の間に出来た子供だ。魔物の魔力に対抗するだけの力があり、なおかつ人間の血を持つ俺と交われば魔物は死ぬ。死んだマネをする魔物たちへ杭を打つよりも確実な方法だ」
サンジはじっとゾロの横顔を見つめた。
今しがた自分を犯し、いいように弄んだ男。なのにどこか憂いを含んだ瞳。
「いい思いして、あれだけの名声って訳か…。お前はなぜそれを捨てた?てめェはおれが触れる前から勃ってやがった。おれが好みってんならさっさと犯っちまえばよかった。お前はもうヴァンパイアだ。おれを犯ってもおれは死なねェ。いや、おれ以外の魔物もな。お前は…、すべてを失った」
ゾロがごろりと体の向きを変え、サンジの真珠のような肩の丸みに手を当てた。
「いや、おれは手に入れた」
その顔は案外に子供っぽく、サンジは思わず視線を反らし、豪奢な屋敷の天井を見つめた。
ゾロは構わず続ける。
「お前を見た時、おれは決めた。一度犯るだけでこの男を殺すのは惜しい。その上、お前が町の方々で男を襲ったと聞いて、おれは精液を吸い取られた被害者面の男達に嫉妬しか浮かばねェざまだ。だから、決めた。おれもお前と同じモノになり、お前を抱く。さんざん魔物の子だと忌み嫌った連中が、魔物を殺す力があると分かった途端に手のひらを返したように態度が変わった。そんな人間の世界には未練はねェ」
そうきっぱりと言い放つ男をサンジは信じられない物を見るかのように凝視する。
血と精を求め、ただ明日へ生きるために、生きた。
愛もない。
ただ、日々の糧があればいい。
「それに、お前の言う契約が気に入った。永遠にお前の元でお前のために生きる。餌が欲しいならおれに言え。いつでも飲ませてやるよ」
ゾロはサンジの手を取り、自らの首へいざなった。
「ここでも」
そして、重なり合った手の平をそのまま自らの再び硬さをました雄へ導く。
「こっちでも。な?」
サンジが肩を揺らして笑った。
「はァ、てめェには負けた。いいぜ、ゾロ。お前がそう言うなら、おれは永遠にお前を食わしてもらう。その変わりお前も俺を食えばいい」
サンジはゆっくり上半身だけを起き上がらせると、自分より下にいるゾロの頬を指でゆっくりとなぞる。
「なァ、お前って本当淫乱だな。ゾロ」
その夜、漆黒の闇に浮かぶ古城から、すすり泣くような嬌声が絶え間なく漏れ、淫びな旋律が深い森を支配し続けた。
Fin