2006summer 「海行きてぇぇぇぇえ」
床をぎしぎし軋ませながらサンジが訴える。お気に入りのトナカイのぬいぐるみはその腕に痛いほど抱き締められ歪んでいる。 これはそうとう本気だとゾロはぬいぐるみの下に顔を埋めながら諦めた。 「海なぁ・・・てめぇ焼けて真っ赤になんだろうが。」 「行きてぇんだよ。なぁてめぇと。」 「イけよ、我慢するこたぁねぇんだぜ、おら。」 ぬいぐるみの下のものは、はちきれんばかりに脈打ち次ぎを待ちわびている。 「っち、げぇ、よ、てン、めえと、んん、、」 そんなことは充分承知だ、承知だがどうにも都合がつかないのもお互いに承知のはずだ、こうして同じ部屋に住んではいても週に数度も合えない。 わかってるさとゾロは強めに吸い上げてやる。 トナカイのぬいぐるみのリュックには恋人限定グッズ、そっと取り出し後に塗る。クリスマスのプレゼントにと少し寄り道したがサンジに買ってやった形になったそれは、感情表現の苦手な二人の緩和剤になっている。 たいていは部屋では坐っていることの多いゾロの膝の上だが、用事の済んだサンジが来てひょいと持ち上げぬいぐるみに今日の出来事を語り掛ける時もあれば、こうして腕に抱えて言葉以上に弄り倒してるときもある。 ―――――店で何かあったのか? サンジに直接聞いたところで返事は期待できない。そんな時ゾロにできるのは、意固地なこいつを心行くまで溶かして泣かしてやることだった。 「おまえ水曜は休みだったよな。」 2日後に台風直撃予報の月曜日、やはりボロ雑巾のようにくたびれて帰ってきた金髪を腕に抱える。 「どうせ台風予報だ、夏休みの帰省客で満杯の店だって定休日と台風には勝てねぇだろ?」 「・・・・・でもよ。」 「休めよ、来週盆に入ったら連荘の上に夜半まで予約がはいってんだろうが、な、水曜日なんだ・・・・」 休めよの言葉は直接唇になぞればサンジはゾロの腕の中でしぶしぶ首を縦に振った。 水曜日、正式には水曜日になる前の最終の列車に飛び乗る。 台風の雨風は予報どおりで、飛行機も新幹線も欠航便が相次いでいた。 荷物は最小、缶ビールが一本。 予約の座席はその夜行列車にある特別室。 揺れる車両に足を取られないようにドアを開けたサンジの目が丸くなった。 「スイートじゃねぇか!」 「ダブルベットはこの部屋しかねぇんだ。」 いやそれ違げーし。 サンジはゾロ咽元に手斧を入れながら早速ベットに突っ伏す。 ひとしきりごろごろ転がり着ている物を脱ぎだした。 「シャワーついてんだろ?突っ立てねぇでドア閉めろよ。」 明らかにご機嫌な様子にゾロも後ろ手にドアを閉めながら服を脱ぐ。 簡単に汗を流してサンジが横に坐ればゾロも交代でシャワー室に入る。 「なぁ何処まで行くんだ?これ南に向かう列車だったよな。」 ガラス張りの天井からは空が見え、家々の明かりが矢のように過ぎてゆく。 「教えてくれなきゃお預けするぞ。」 けらけらと笑いながらサンジが鼻を摘んでくる。 列車の振動が心地よい。 乗った駅の重苦しい雲が徐々に晴れてゆく。 あっちはまだ大荒れ模様だろう。 明後日の朝にはまた同じ駅にたたなきゃならねぇが、こうして列車で移動する時間は日常から解放されるためのエッセンス。車のほうが便利と言われるかもしれねぇが、列車の異空間を楽しみ目が覚めれば別世界が待っている。 列車の揺れに乗じてサンジの身体に覆いかぶさる。 くすくす笑いながら身をよじる。 ちゅっちゅと体中に軽いキスをする。 「な、しねぇの?」 「して欲しいのか?後悔するぞ。」 「しねぇよ。」 「ばか、俺がするんだよ。」 ぎゅううと抱き締め揺れに身を任せる。 せめて下着だけつけとけよと穿かしてやれば不満そうに反転するから急所を捉えて言い聞かせる。 「アホ、水着着るのに体中に痣つけてどうするんだ?」 あ”と絶句し真っ赤になる、その耳元にキスをして髪を梳いてやれば、がたごと走る列車の振動にいつの間にかサンジはとろとろ眠りに着いていた。 ――――――また厨房内の嫌がらせか、つまらねぇ事言われたか、それともレディとやらに振られたのか・・・・・ 目の下に隈のできた面にいつもにない微笑、その頬に端にもう一つ唇を落とし、日が昇ったら見えるであろう海と、白い肌に南の太陽は強すぎて直接浜で泳ぐことは無理でも、近くにあるホテルのプールで水に浸かることは可能だから、 話してくれなくてもいい、こうして髪をすいてやり安らかな寝顔を作ってやれるのなら・・・・・・・・ 太陽が眩しい、 日差しが痛い、 ゾロが無理をして捻り取った平日の休暇。 盆休みの前にさぞ苦労をしたのだろう。 言われなくとも想像は付く。 此処は一つ・・・・ 「いやっほ〜い!」 プールサイドで鼾をかくゾロの頭を飛び越して盛大な水しぶきを上げる。 冷たい水が気持ちいい。 「冷てぇ!」 「冷たくねぇだろ俺のあっかさだ、てめぇも来いよ。」 ざぶうんと腹うちで水に飛び込む。 アザラシのようにただ浮かぶだけのゾロにバタ足で飛沫を上げる。 数時間後駅に降り立てばまた現実に戻されるから、 今はただ子供のようにはしゃぎまわって疲れることが出来たなら、 「てめぇ判ってんだろうな!」 追いかけてくれるゾロが嬉しい、 ぎらぎら照付けるお日様が眩しくて、 今此処にゾロと共にあることを噛締めた。 了
|
「竜王通信」のよしひめ様が、拙絵↑に素敵なSSをつけてくださいました!
これって、コラボってやつですか!? うおおぉおん、嬉しいっ♪ ゾロが優しい〜vv そしてそんなゾロにとろとろのサンジvv うふふ^^ よしひめさん、素敵な素敵なふたりを、どうもありがとうございました! |