妓楼にて



「なにをぼさっと突っ立ってるんでェ? 
この髪の色が珍しいか?
男のくせに女郎屋にいるのが珍しいか?
こんな年くった野郎が春をひさいでるのが珍しいか?
それともその全部か?」




気の進まぬままに連れてこられた見世の二階、突き当たりの奥座敷で、男は俺にそう言った。



「ま、面食らうのも無理はねェが、てめェの言い分に適うのはこんな野郎しか居ねェってこった。
愛想のいい言葉も愛撫も必要無く、ちっとくれェ乱暴に抱いても構わねェような奴、
そういう娼なら抱いても良いって、てめェ、言ったそうだな。
それなら柳原土手にでも行け。色を売る商売にだっていろいろあらぁ。
ここは粋が売りの遊里だ。てめェのような野暮天にあてがう娼妓はいねェんだよ」

てめェは?
「なんだって?」
てめェ、春をひさいでるって言ったよな? しかも、俺の言い分に適ってるって言ったよな?

その言葉は単に、しかめツラで俺に説法する男をやりこめたかっただけの言葉だった。
俺に偉そうに意見してやがるが、てめェなんか淫売じゃねェかと、そう言ってやろうと思ったのだ。
だが、男は別の意味に受け取ったらしい。
「俺を抱こうってのか? ははぁ、そっちの趣味かよ…」

男を抱いたことは無ェ。そう言うと、そいつはちょっと驚いたような顔をした。
どうした?と問えば、そっちの道も知っているように見えると笑う。
とんだ誤解だ。
俺は日頃、表情を表に出さない。だが、この時はさすがに憮然とした表情をしたのだろう。
そいつは俺を見てひとしきり笑うと、だったらやめとけよと言った。

「何もわざわざ俺を抱く必要なんかねぇ。男に興味が湧いたんなら、芳町へ行け。
見目が良くて肌がすべらかな若衆が念入りに手ほどきしてくれるぞ。
こんな年増が初めてじゃ、いくら野暮天のてめェでも不憫きわまりねェ」

男は、はははと笑った。自棄でも自嘲でもなく、邪気のない澄んだ表情で男は笑った。
それを見たとたん、俺は言っていた。
いや、てめェを抱いてみてェ。

その時、どうしてそんな気になったのか自分でもわからない。
そいつ自身が言ったように、稚児遊びの相手とするには、年を食いすぎた野郎だったのに。

「ホントにてめェ、俺を抱く気かよ?」
男は何度かそう尋ね、俺の言葉が冗談でないとわかると、仕方が無ェなぁと溜め息をついた。
「途中で萎えてもしらねェぞ」
男はそう言って、俺を夜具に導いた。







俺の身体には、袈裟懸けの傷がある。
俺の着物の袷(あわせ)を開いて、それを目にした男は、さすがに驚いて息を飲んだ。
だが、何も俺に尋ねなかった。
この傷を目にして、理由を尋ねなかったのは、そいつが初めてだ。





男はただ黙って、俺の傷に舌を這わせた。
俺がぴくりと身体を引くと、上目遣いで俺の様子をそっと伺う。
男の瞳は明るい海のような色をしており、その目が、痛ェのか?と聞いてくる。
痛くないと言う代わりに、そいつの頭を俺の腹に軽く押し付けてやると、再び愛撫を再開した。







初めての男は、たいそう具合が良かった。
そいつの手管が巧みだったのか、俺に元々その気があったのか、それとも相性が良かったのか。
男も悪くねェな―――
気づけばそんなことを言っていた。





それが出会いだった。
そのときは、その男の生業(なりわい)が売色であると、疑いもしなかった…。



(了)


こんなところで終わるのかい!と突っ込みが入るところでしょうが、ひとまず終わりです。
残暑見舞いで板前サンちゃんを描いたら、和物で21歳ズならどんな感じになるかしらという思いが湧いてきて
描いてみたのが、一番上の絵です。
板前サンちゃんとは全然違う、ひとくせもふたくせもありそうな野郎ができました。
そしてそのサンジで妄想したのがこの小話。


ご意見ご感想など、右のサンちゃんからお寄せください。(web拍手)

(2011.08)