最後の会話に登場しているのは、ゼフとシャンクスとくれはです。
狐を探すゾロに、騒ぎを起こすなと言ったのはベン。
彼らは遊里に住み、遊里の治安のために動く仕事人のような設定です。
ゾロは体制側。敵にならなかったとしても味方にはならないだろう存在。
彼らを使ってどういう話ができるのかは、まだ霧の中です。
ご意見ご感想など、右のサンちゃんからお寄せください。

(2011.09)
妓楼にて #2 「おや、昨日の旦那…」 夜見世の始まりと同時に訪れれば、番頭の男が驚いた顔をした。 けど、俺自身、解せねェんだ、二日続けて遊里に足を運ぶなんて。しかも目当ては男だ。 何が良かったのかと問われれば、よくわからねェ。だいたい陰間にしちゃ、変な奴だった。 普通、陰間と言やァ、美少年が女物を着て女髪を結い、体毛を抜いて肌を磨き、京の女言葉を話して女よりも女らしく振舞う…ようするに年若い美妓を抱くのと大差ないように仕立てられてるもんだ。 だが、昨晩の男は、女を装ったところがまったく無かった。 美しいかと言えば妙ちくりんな眉をしてやがったし、肌が滑らかと言えば髭面だったし、京言葉が鈴の音を転がすように響いたかと言えば啖呵を切るようなぞんざいな口調だった。 そんな売色に、どうしてまた会いたいと思ったのか。 しかし、昨日の男を頼む、と言うと番頭は怪訝な顔をして、どの奉公人に御用で?と訪ねてきた。 いや奉公人でなく…と言いかけて、名前も聞いていなかったことに気づいた。 仕方が無く、昨日俺が買った男だと言えば、男の遊子なんてここにはおりませんよと言われる始末。 さてはここの妓楼ではなかったか? いやここだと思うのだが…。 そんな押し問答をすれば、様子を見ていた女将(おかみ)が出てきた。 「つまりおまえさんは昨晩、うちの見世で男を抱いたというんだね? だが、うちには、いやこの遊里自体に男の娼はいないよ。もしかして、化かされたんじゃないかい?」 化かされた? 「狐だよ。傾城狐といって、時々旦那衆をからかうんだよ。ここじゃ有名な話さ」 そんなばかな話があるかと抗議すれば…。 「毛並みは何色だったかい?」 毛並み…そういや、髪はもちろん、身体を覆う産毛も下の毛までもが狐色だった…。 絶句していれば、女将は、そらごらんという顔をした。 狐だったのだろうか? 俺は狐と枕を交わしたのか? 確かに黄表紙本には、そういう話もよくあるが、あれは作り話だろう? ![]() 信じられなくてそのまま遊里をうろついた。翌日も繰り出して、男を探した。 どうせ今は仕事の呼び出しもかからない。うろつくだけなら金もかからない。こうなったら「狐」の尻尾を掴んでやる。 そう勇んだのも束の間、三日目、急な呼び出しがかかって俺は上役に同行して目黒へ出かけるはめになり、「狐」探しはそれきりになった。 「狐」のことを思い出したのは、ふた月ほどあとのことだった。 その朝は、道場の朝稽古に遅刻者が多かった。 そういえば昨夜は十三夜。好いたおなごと月見をして過ごしたというわけだ。 あいにくと俺にはそういう女は居ない。 それでも、連中の惚気話につきあってやっていると、深川の芸者と約束したという男の話が始まった。 十五夜を見た相手とは十三夜も一緒に見るものだという風習に、まんまと、かこつけられたなと、はやされると、男は真面目くさって、好いた娼妓のためだと抜かした。 妓楼で客のつかない妓ほど肩身が狭いものはない。行事のある日は、いっそうだ。好いた娼妓にそんな惨めな思いをさせるものかと、男はひと月倹約して揚代を貯めたらしい。 そういう気持ちにさせるのも娼妓の手管だと気づかずにいるのか、と男はからかわれていたけれど、俺はそこであの「傾城狐」を思い出した。 あいつも誰かを月見に誘ったのだろうか。それとも、あんな妙な男を買う客などいなかっただろうか。 男の隣に誰かが居ても、誰も居ずに独りで月を恨めしげに眺めていても、どちらの想像も不愉快だった。 惚気話の輪を抜けて、俺は知人に金を借り、その足で遊里を目指した。 ふた月ぶりの遊里は閑散としていた。無理もない。 昼間というだけでなく、昨晩が催事日なら、一夜明けた今日は客が少なくて当然だ。 こういう日は遊女たちものんびりと、格子の奥で貸本を眺めたりカルタに興じたりしている。 が、どこへ行けばあの男に会えるのか、そもそも奴が本当にいたのか、結局何もわかっていないと気づいたのは、門をくぐってからだ。 なすすべなく、『旦那は狐に化かされたのだ』と言われた妓楼を訪ねた。 どの娼がお気に召しましたかと尋ねる見世の若い男に、狐は居るか、と問うた。 見世番は、ぽかんと口を開け、それから笑い出した。 「旦那、まだ狐に執心なんですかい?」 見世番はどうやら俺を覚えていたらしい。 だが、さすがに商売人。 「居ないもんを探しても虚しいだけですよ。それより、うちの娼妓を抱いてやってくださいよ」 「狐」の話題を一笑に付して、遊女を買えと勧めてくる。 やはり無駄足だったかと見世を出て、十歩も歩かぬうちに腹の虫がぐうと鳴った。 どこぞで飯でも食って帰るかと、遊里の門を出て、五十間道の両脇にひしめく茶屋や料理屋を覗くうち、ふと、遊里で有名な蕎麦(そば)を食って帰ろうという気になった。 蕎麦一杯にかなりの高値がついているらしいが、「狐」を買う気で借りた金がある。「狐」より蕎麦が高いということは無かろう。 くるっと翻って俺は再び遊里の門へ向かった。 しかし昼の遊里ってのは、市中の喧騒にも似た雰囲気があるもんだな。 髪結いに小間物屋、煙管屋、錠前直しなど、様々な商売人が行き来している。当然客ではない。 野菜売りや魚売りも、天秤かついで大門をくぐっていく。 ちょうどいい、そこの魚売りに、名物蕎麦屋の場所を聞くか。 右手の茶屋に入ろうとしている魚売りを呼び止めようとした。 そこへ、茶屋からひょいと飛び出してきた者がある。 「昨日は助かったぜ、かたじけねェ! 気持ち程度だが祝儀を分けてェんで、あとでうちにも寄ってくれ」 魚売りに話しかけて、にっと笑ったその顔は。 狐!! 魚売りを挟んで向かい合った俺たちは、互いに、あっと声を上げた。 先に口をきいたのは「狐」だ。 「てめェ、帰ったんじゃなかったのか!」 そう言うなり「狐」は、ぱっと逃げ出した。 逃すものかと追いかけるが、茶屋の横の路地に入られて、すぐに見失った。 「狐! 出てこい! どこへ行きやがった!」 無粋だと言われようと知ったこっちゃねェ。俺は声を荒げて叫んだ。 とたんに遊里で働く奉公人など男衆が数人駆け寄ってくる。 「お客人、ここで騒ぎは起こさねェでくんな」 背が高く、総髪を後ろで結わいた男が、なだめるような口調で言う。 そう言うんならあいつをここに連れてきな、そしたら俺はすぐに静かになるぜ。 言い捨てて、俺は男衆の囲みをすり抜けた。 だが足止めを食らったせいで、「狐」が逃げた路地がわからなくなった。 闇雲に進むが、時間だけが過ぎていく。 そのうち妓楼のつくりも簡素になり、人通りもなくなって、賑わいの音もろくに聞こえなくなった。 客待ちしているはずの遊女たちも昼間だからか殆ど引っ込んでいる。 さて、どっちに行ったらよいものか? ドブに突き当たった俺は、右へ行くか左へ行くかを思案した。 と、頭上に突然殺気を感じた。 屋根の上か! 見上げる間もなかった。その殺気が、瞬時に頭上から背後へ降りてきたのだ。 身体がとっさに反応した。 手が勝手に刀を抜く。屋根から飛び降りてきたらしい塊を、振り向きざまに、横へ力一杯薙ぎ払う。 頭で考えるまでもない。この身についた、反射的な剣だ。 ぐんと重たい感触が手に伝わり、塊が弧を描いて吹っ飛んだ。 しまった! 肉を打ち据えた感触を感じ、そこで初めて俺は、はっとした。 やっちまったか!? 峰にかえしていたが、かなりの威力だ。あの男を打ったのかと思ったとたん、苦いものが口の中に広がる。 が、振り返って、吹っ飛んだ塊を見た俺は舌打ちした。 転がっていたのは雉か何かの大型の鳥だ。すでに屠鳥されて羽をむしられている。 あの男を打ったのではなかったという安堵と共に、一杯食わされたという悔しい気持ちが沸き起こる。 やってくれるじゃねェか、「狐」の野郎。こうなったら、なんとしても探し出してやる。 どうせ奴はもう屋根の上には居ないだろう。表の大通りをゆうゆうと歩いているに違いねェ。 そう見当をつけ、今来たはずの道を戻り、横道を曲がり…。 おかしい、またドブだ。ちっとも中央の大通りに出やしねぇ。 首を捻って、また元の道を引き返そうとした。 「そっちじゃねェよ、阿呆」 はっと振り向けば、小見世の脇道から着物の端がひらりと舞った。 駆け寄れば、あの男がくすくす笑っていた。 「てめェ、方向音痴か」 そう笑う口をすぐに唇で塞いだら、驚いたように身体を固くした。 「相変わらずだな、この野暮天。語らいも酒食もせずに身体だけ繋げようとする野郎なんざ、ここじゃお断りだと言っただろ」 「なんとでも言え」 性急に男の服を剥ごうとしたら、男はまたくすくすと笑った。 「なんだよ、そんなに俺が恋しかったわけ? 食いてェなら食わせてやるが、ここでは勘弁してくれよ」 湯屋の裏口のようなところへ導かれた頃には、ようやく会えた喜びよりも、散々振り回された仕返しをしたい気が膨らんで、2階に上がろうとする奴を階段脇の納戸に引きずりこんだ。 「てめェ、狐だってな。尻尾見せてみろよ」 箒や傘などが並ぶ納戸に身体を横たえる場所などない。 俺は立ったまま、男の着物をたくし上げた。 「尻尾、無ェなぁ。どこに隠してんだ? ここか?」 固く締まった双丘をぐいと割り開いて、秘奥を覗く。それだけで、「狐」の身体がぶるりと震えた。 慣れているのかいないのか。 慣れていたとしても、いきなりは辛かろうと、後蕾をべろりと舐めてやったら、「狐」がくうと鳴いた。 狭い肉筒の中を指で掻き回してやれば、腰が逃げようとする。 そのくせ、後ろを解してやろうとすると、いいから早くしろ、と言う。 「も、いいから食えよ・・・」 喉を仰け反らして、指戯に震えていた「狐」が俺を振り返った。 その貌(かお)に、ゾクリとした。 目元を染め、蕩けているような耐えているような、そんな表情で俺を見る。 我慢のきかなくなった俺は、己の灼熱を取り出して、「狐」を刺し貫いた。 ![]() 肉襞が俺の剛直に絡みつく。それが気持ちよい。 ゆっくりと引いて、ねじこむように奥へ進める。こねるように掻き回す。 ひと刺しごとに、「狐」は甘い息を吐いた。 それにさらに煽られて、俺はさんざんに腰を使った。 どこの妓楼に行きゃてめェに会えるんだ?と別れ際に問えば、男は一瞬、呆気に取られたような表情をし、それからにやんと笑って、お稲荷さんの横だと答えた。 お稲荷さんは遊里に複数有り、またもやはぐらさかれたのだと、俺はまだ気づいていなかった。 そして俺が帰ったあとに、狐の周囲で、次のようなやりとりがあったことも、俺は知る由も無かった。 「チビナス、あの若造をからかうな」 「いいじゃねェか、あんまり俺にご執心だから、捕まってやったのさ」 「そっちのこと言ってんじゃねェ、てめェがあいつを『試した』ことだ!」 「うるせェな、確認さ。どれほどの技量の敵なのか、知っといてもいいだろ」 「まだ、敵になると決まったわけじゃねェよ、サンちゃん」 「あいつと関わっても良いようなことを言うな、赤髪! だいたい、この阿呆に、男と乳繰り合う場所を貸してやってんじゃねェ!」 「なんだ、やっぱり、そっちも気にしてるんじゃねェか、ねー、サンちゃん」 「それにしても、目に傷がある男は、この子に引き寄せられるって決まりでもあんのかねぇ…」 「その話はもう良いから、さっさと食えよ。せっかくの鳥鍋が冷めちまう」 (了) 「妓楼にて」再会編。
最後の会話に登場しているのは、ゼフとシャンクスとくれはです。 狐を探すゾロに、騒ぎを起こすなと言ったのはベン。 彼らは遊里に住み、遊里の治安のために動く仕事人のような設定です。 ゾロは体制側。敵にならなかったとしても味方にはならないだろう存在。 彼らを使ってどういう話ができるのかは、まだ霧の中です。 ご意見ご感想など、右のサンちゃんからお寄せください。 ![]() (2011.09) |