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修羅の贄 〜後日談 後編〜
しかし明後日当日になってみると、大荒れの天気になった。
正午よりすこし前から生暖かい風が強く吹くようになり、ほどなく大粒の雨を伴って季節外れの大嵐になった。
暴風雨は夜になってもおさまらず、月も星も見えず、代わりに、耳障りな風雨の音に覆われた夜となった。
海に出て天候を先読みすることに慣れているサンジとロビンだったが、山の天気の急変は予測を超えていることを実感せざるをえなかった。
風雨が弱まったのは丑三つどきを越えたころで、未明には綺麗に晴れ渡るとともに気温がぐっと下がって一気に晩秋の気配が濃くなった。
翌朝の城内は落ち葉や小枝があちこちに散乱して、嵐のすごさを裏付ける。
ゾロは、城内の片づけを城の女たちに任せ、自分は城下の農家や民家を見て回るのに忙しかった。雨だけでなく風も強かったため、粗末な小屋は倒れかけ、牛小屋の屋根が飛んだりしていたのだ。
嵐の後始末に追われる領民のために暖かい汁の炊き出しを命じたり、力仕事に加わるなどして、ゾロが城に戻ってきたのは陽が落ちてからだった。
空には晩秋の星々が瞬き、昨晩は見られなかった月が光っている。満月からほんの少し欠けた、十六夜(いざよい)の月だ。
蒸し風呂で汚れと疲れを取り、夕餉を済ませたゾロにロビンが労いの声をかけた。
「お疲れでしょうけど、茶などいかがですか? サンジから預かった茶がありまして、香りの佳いうちに、殿にお出しするよう頼まれたんですよ」
「あいつから?」
「えぇ、彼がこちらに到着するにはあと数日かかるでしょうけど、茶は先に振舞ってやってくれと預かっています。私の点前では不服でしょうか?」
「そんなことはない。出してくれ」
「では、茶室へどうぞ」
「え? ここではいけないのか?」
「茶室のほうがくつろげますし、人の耳に届かぬところで話したいのです」
なるほど茶をふるまう話は口実で、密談したいのだなとゾロは理解した。それならば、こんな時に茶に誘うのも納得できる。
「殿はこちらでお待ちくださいね」
炭が入れられ、茶室内はあらかじめ暖かくしつらえてあった。炉に掛けられた窯の湯が静かな音を立てている。そんなところも密談のための用意周到と感じられた。
そのためゾロは茶をいただくというより、酒でも飲むかのように胡坐で客座に座っていた。
炉の近くに水差しと茶入れが飾ってあることに気づいたときもゾロは、形だけは茶を点てるのだなと思っていた。
茶道口の引き戸がすうっと開いた。ロビンだ。
引き戸の向こう側で、正座したロビンが、膝前に置かれた茶碗を手に取って立ち上がろうとする。そこまでは確かにロビンだった。
しかし、茶碗を持って入ってきた人物が炉の近くまで来て、突き上げ窓から入る月光に照らされた時、ゾロはぽかんと呆けたようにその人物を見つめた。
髪が月の色だ…
点前座に立つ人物の髪が月光に溶けて、輪郭がおぼろだ。
いつもなら、不審者には即座に誰何を問うところだが、魅入られて言葉を発するのが遅れた。
言葉が出なかった出遅れを補うかのように、手が刀の柄を掴む。抜刀して切っ先を不審者の眉間あたりに向けようとしたとたん、それより早く、かの人物がすいっとしゃがんだ。
刃先が空(くう)を差す。
俺の刀を避けた?
…「誰だ!!!!!」
ようやく言葉が追い付いて、鋭く誰何した。
しかし不審者はゾロの言葉が聞こえなかったかのように、手にしていた茶碗を静かに置いた。
ゾロの緊張を意に帰さない、落ち着いた所作だ。
こちらは警戒心と殺気を送っているのに、鈍感なのか阿呆なのか…
立位で不審者の頭を見下ろす状態のゾロは、刀を収めるべきか逡巡した。
もちろん、誰だと誰何してからここまで一瞬であり、わずかな間(ま)でしかない。
しかし、その一瞬の逡巡の隙間をつくかのように、眼下の人物の手が茶入れに延ばされた。
はっと、ゾロは気づいた。手首が太く、指の節が目立つ。無頼漢の手だ。
そして、月の光の束に溶け、幻想的な魅力を放っている髪は月の色…。
ゾロは驚嘆のままつぶやいた。
「サンジ?」
ぴたりと手が止まった。
作法の手元を見つめるためにうつむいていた貌が、ようやくゾロを見上げた。
澄んだ海色の瞳がゾロを見つめる。
たっぷり見つめたあとでサンジが口を開いた。
「茶室に刀持って入るとは、不粋の極みだな」
『なんて顔をしやがる…』
サンジは心の動揺を必死になだめながら柄杓を扱っていた。
自分だと気づいたゾロは最初のうちはただ驚嘆の表情でぽかんと自分を眺めていた。
だが、次第にその視線は熱くなり、立ち居振る舞いからしぐさのひとつひとつまで見逃さないとばかりに見つめてきた。
表情は完全に、佳きものを見つめる歓びに満ちている。
彼の驚嘆顔が見られたことは痛快だったが、そのあとにこんな表情を見せられるとは…。
気を抜いたら、ゾロの熱視線に中てられて今にも顔が紅潮してしまいそうだ。
どうにか平静を装って茶を練り上げ、差し出す。
相変わらず、作法を気にせずに自由に飲むゾロに苦笑した。
「お福加減はいかがでしょうか?」
わざと慇懃に問うてやったら…
「ドロっとしてる…」
「なんだ、その答え!」
サンジはたまらず噴き出した。わはははと笑うサンジにゾロが言い訳した。
「こんな濃かったか? こういう茶を飲むのは、おまえと桜の下で飲んだっきりだからよ、忘れちまった。ははは…」
つられたように一緒に笑いだしたゾロを、サンジはあらためて見つめた。
サンジが霜月城に囚われていたとき、ゾロの表情はほとんどの場合、闘いの鬼神のような凶暴な風貌か、サンジを虐げ断罪する厳しい表情のどちらかでしかなかった。それが今は、ゾロはとても穏やかで柔らかく笑っていた。満足げな表情だった。
「本当におまえなんだな? もっと顔をよく見せろ」
薄茶の準備のために立ち上がりかけたサンジの手をゾロが引いた。
すとんとゾロの腕のなかに収められる。
「なんか当たってんぞ?」
ゾロの身体の中央で早くも存在を主張しはじめたものに驚いてサンジは思わずそう言った。
「しょうがねぇだろ、ひさしぶりなんだから」
「ひさしぶりだと見境なく盛っちまうのかよ、獣だな」
「見境なくじゃねぇ。てめェだからだ。わかってんだろ。とにかく今は触りてぇ」
身体が大きくなった…
ゾロはサンジの身体を後ろから抱きしめながらそう思った。
別れ際に抱いた時はガリガリだった。今は着物の上からでもわかるほどに肩や背中がたくましい。胸周りもがっしりしている。
そういえば、サンジを霜月に連れてきた当初は、細身だがしっかりした肉がついていた。
ゾロが離れに軟禁しているあいだに肉が落ち、殿上人のことろへ送った彼を奪還したときには骨が浮いてみえるほどに痩せていた。
今の海の男にふさわしい身体つきをよく見たくてゾロは床の間をぼんやりと照らしていた行灯を引き寄せた。
サンジの襟をぐいと抜いて、彼の胸元に灯火をかざしてみて首を振った。
「あぁ、これじゃねぇな…」
「なに?」
「もっとこっちへ来い」
月明かりの下へサンジの身体をずるりとひきづった。
着物の袷を広げて胸だけでなく肩を剥きだしにすると冴え冴えとした冷たい月光がサンジの裸体を包む。
彼の肌が冷たく輝いてゾロはうなづいた。
「うん、これだ」
「なにが?」
再度サンジが問うが、ゾロは答えようとはしなかった。この美しさを表す言葉を持たなかったのだ。
発光するかのように白く輝く身体のあちこちに唇を落とした。点々とにじむ鬱血までもが美しい。
唇を落とすたびにひくりと小さく跳ねる身体がいとおしい。
がっしりしてきたとは言え、相変わらず細い腰を抱いていた手をゾロは解いた。
唇だけでなく指先でもこの肌のきめを味わうことにしたのだ。
手を着物の内側に滑り込ませ、撫でまわす。わき腹に指先を滑らすと途端に彼の腰がふわりと浮く。
反射的に逃げをうとうとする身体を押さえ込んで、胸の突起を口に含めば、耐えきれずにくううっと押し殺した声が上がった。
離さずに口に含んだまま舌先で転がす。
サンジの身体がさざ波のように小刻みに揺れた。
あ…
下腹部を撫でる手を滑らせていくと繁みに指先が触れた。
サンジが声とも息とも言えない音を発し、身をよじる。
きゅっと閉じた両脚を剣だこのついた手が割り、脚の間にゾロが割って入る。
白い身体の中央で屹立した先端から零れるしずくを舌ですくいあげれば、それだけでサンジの身体は盛大に跳ねた。
ゾロがすかさずその身体を抑え込んで、口に含んだ昂ぶりをさらにねぶる。
形を確かめるように念入りに竿をしごき、尖らせた舌先で先端の張り出しを行き来する。
射精感が上がってきてサンジは身体を固くした。
それがわかって、一層ゾロが追い立てる。
あ…はあっ…やっ…っ
半開きの口からは悲鳴のような息が絶え間なくあがりはじめた。
「…も、出るっ」
身体はかくかくと勝手に震えていく。
それでもサンジは必死にゾロの口から離そうと、腰を引きかける。
その細腰をゾロはぐいっと引き寄せた。
「いいから出せ!」
「てめっ…! ……!あ…っ!!っぁあああっ!!!」
白い身体が大きく弓なりにしなった。
「なぜ怒ってる? 気持ちよくなかったか?」
放出させたサンジは不機嫌だった。
ゾロが問うと、怒ったような恥じらったような声で抗議された。
「これじゃ『橘』ん時と変わらねェだろ、俺が一方的に攻め立てられて…。てめェ、もうそんなにデカくしてるくせに…。俺はてめェと一緒に気持ちよくなりてェんだ…」
最後の方は、ゾロが耳を寄せないと聞こえないほど小さな声だったが、意味を理解したとたんゾロの中心が一層大きくなる。
「煽ったな? …責任とれよ?」
「望むところだ、さっさと来やがれ!って言いてェところだが、出来れば……ゆっくり来てくれ。こっちはずっと使ってねぇんだから…」
そっと練り香を手渡されて、ゾロは思った。
やっぱ煽ってんじゃねェか…ゆっくり出来る自信がねぇ……
そう思いながらもゾロは、サンジの緊張を解くように脚の内側を食むように口づけ始めた。時には激しく。
膝あたりから徐々に上がって、まだ固い後ろにそっと唇を寄せた。渡された練り香を指先にとり、丹念に塗りこめながら、後蕾の花びらを一枚一枚開くように肉襞を解していく。
「挿れるぞ」
ゾロはサンジの耳元でささやいて、己の昂りをゆっくりと埋めていく。
ゾロを迎え入れようとサンジの腕がゾロを引き寄せる。
そのしぐさに我慢ができなくなったゾロが追い立てる。
「中が…熱く蕩けてやがる…」
ゾロの口からこぼれた言葉に応えるようにサンジの中が締まる。
う…と喉声を発して、爆ぜるのを我慢したゾロにサンジは手を伸ばした。
汗ばむ頬にそっと触れ、顎の線を確かめ、髪からうなじに手を滑らせ、首に手をかけてゾロの唇を引き寄せる。
舌を絡ませ口腔の敏感なところを撫でてやる。まるで我慢したことへの褒美を与えるかのように。
一方的に攻められるのは嫌だとサンジは言った。一緒に気持ちよくなりたいと彼は言った。
もう彼は『橘』ではない。ちゃんと「繋がって」から「一緒に」達きたいと言っているのだ。
ゾロの我慢が限界に達した。
先端がぐいっとサンジの深いところに挿さり、官能が集中するところを攻め始めた。
「ぁあっ…」
思わず上がった吐息はすぐに愉悦の甘さを含んで喘ぎに変わる。
かつて縛られ、出すことを禁じられて肉茎は、いまや隆々とそそり立ち、たらたらと透明な蜜をこぼしている。
「っふぁあっ…」
その密を先端に広げるように弄られて、腰が跳ねる。
神々しいほど冷え冷えと光っていたサンジの肌が、いまは桜色に染まり、紅く尖った胸の飾りを突き出すようにのたうっている。
金の髪が乱れて、官能に打ち震えている。
「ゾロ…」
達きたい、とサンジの海色が瞳が訴え始め、最後の刺激を求めて腰が揺らき始めた。
ゾロは手の中の屹立を激しくしごき始めた。
同時に後ろを深く抜き差しする。
ずり上がる白い身体を抱きしめ、奥を掻き回し…
「っあっ…っふ…っあ、ああっ…ああっ…」
絶え間なく声を上げ始めたサンジと一心同体となって、悦楽をむさぼり、感極まった。
空が白んでくるころ、ようやくゾロはサンジを解放した。
「これ以上やったら殺す!」
「しょうがねェだろ…」
達したあと、己の剛直を抜く瞬間、サンジの身体がひくひく揺れるのが可愛くて2巡目。
それを指摘すると、羞恥に身体を染めたサンジが可愛くて3巡目。
敏感になりすぎて何をしても身体を粟立ててしまうサンジに刺激されて4巡目。
月光に輝いていた白い身体は、夜明けの光のなかで朱を散らしまくっていて、その刺激的な身体とけだるいサンジの艶っぽさに己を鎮めるのにゾロは苦労したという。
「この茶室は、おまえを想って造った」
「ロビンちゃんもそんなことを言っていたな」
やっぱりあの女、気づいていたか…
この小さな空間で月光を浴びるサンジを見たいと思っていた。その気持ちは、サンジを霜月国に連れてきたときに、ロビンに見破られていたのだろう。
月光に溶けて輝いた髪は、さわってみると思いのほかパサついている。毎日海風にさらされていれる証だ。
彼は海に生きる男だ。わかっている。
サンジは陸に留まる男ではない。
けれど、これだけは告げておこう。
「この茶室も俺も、生涯おまえのものだ。今後一切、なににもだれにも遠慮するな」
サンジはふふんと笑った。
「遠慮? しねェよ。俺は、俺を『 橘 』と呼んで虐げたてめェを赦してねェよ。きっと生涯赦さない。だから、てめェにつきまとうことを遠慮なんかしねェよ」
その後ひと月半ほどサンジは玻璃の港を拠点に、玻璃の港の治安や海運を船乗りたちと検討したり豪商と商談をしたりして過ごした。もちろん秘密裏にだ。だいぶ力が無くなったとはいえ、見せかけでも殿上人が政治に関わっている間は、表立ったことをする気はないらしい。
自分のことには大胆だが、霜月国に害が及ぶかもしれないことには慎重なのだ。それだから彼が玻璃に滞在中に、時折、霜月国に来ていたことを知るものは多くない。
そしてサンジは、年明けを待たずに再び海へ還っていった。
次に会える日はいつの日かわからないが、寄り添い労わり合うよりも、それぞれの成したいところを目指していけばいい。それが彼の望む関係なのだ。ならばそれを叶えるのが自分の贖罪だとようやく思えるようになった。
道が交わるのか並行して続いていくのか別々の方向へ離れていくのかもわからないが、成り行きに従えばいい。
もっとも、生涯つきまとうという彼の言葉の通りになるならば、待つ側の人生も悪くないものになるだろう。
新しい年が明けようとしていた。
(了)