2012,11,10-2012,11,11 vol.2/7

ぐう様


2. 11月10日 午後3時



そうだ 京都、行こう。
「じゃねーよ!」

今から18時間前にはパリ。約12時間のフライトを経て、一瞬の東京。しかも空港から自宅までの移動と自宅にちょっと寄っただけで、それから3時間後。サンジはJR京都駅中央改札口に居た。

何故に、ここに。
ひとえにゾロが今居る場所だからに他ならない。
何故にゾロが今京都に居るのか、サンジは全く要領を得ない。
改札口を出て、辺りを見渡す。案の定ゾロが見当たらないことを確かめて大きくため息をついた。
メールではなく、電話を架ける。

「おまえ、今どこに居る」

のん気な声が帰ってきた。
「ああ、おまえ京都着いたのか。迷わなかったか?」
半年振りに聞く想い人の声であるが、感動の前に余計な雑念が多すぎて素直にうれしい気持ちを出せない。いつもどおりの悪態をつく。
「おめぇじゃあるめぇし。だから、今どこだ」
「駅の改札に着いたんだがな。今は冷蔵庫がたくさん並んでるとこに居る」
「はぁ?」
冷蔵庫?
訳わからなすぎて放棄したくなってきた。もう京都土産買ってこのまま帰ってやろうかと京都駅改札口の風景を見渡して、答えが見つかる。駅構内の天井を支える柱に赤い看板。とある有名家電量販店の名前を見つけた。
「その冷蔵庫をずっと見てろ」
携帯の向こう側に冷たく言い放ち携帯を切った。電気屋の名前の下にある矢印の方向へと足を向ける。

…あいつと、馴染みの無い場所での待ち合わせなんて出来るはずがなかった。

頭の中は一言、阿呆か、の言葉で埋め尽くされる。
脳内に浮かぶ毬藻のような五分刈り頭にアホかアホかと連呼しながら駅に隣接した有名家電量販店にたどり着く。赤いはっぴの店員に冷蔵庫売り場の場所を聞いて、エスカレーターを駆け上がった。
冷蔵庫売り場で、巨大冷蔵庫の観音開きの扉を開け閉めしているゾロを見つける。いた。会えた感動は6ヶ月ぶりという甘いニュアンスのものではなく、冷蔵庫売り場から動かなくてよかったという安堵の方が大きい。
ふと、なにをやってるんだオレはと我が身を振り返る。怒りやら情けなさやら、そして嬉しい想いやらがイロイロ心に押し寄せる直前、ゾロがサンジを見て、
「よお」
と言って笑った。その笑顔が本当にうれしそうで、サンジは思考を止める。
ああ、もう。
その瞬間、この数時間のドタバタが消えてなくなる。あーもう、そんな顔で笑うな。困るダロ、オレが。
第一声はゾロからだった。
「今日、もう遅いし泊まってくだろ?」
「あ、」
突然、本題を言われた。返事が出来ない。いろいろ想像して赤くなった。うつむきながら
「ああ」
と答えた。ああそうだ、そのつもりだ。そのつもり万端で多少の覚悟は決めて帰って来たんだ。
目の前に、会いたくて会いたくて仕方なかったヤツが居る。
そいつがオレに笑う。
うれしくて、不覚にも少し泣きそうになった。