桜ちりぢり #2
法被、腹掛け、股引…。
板前の衣装は上半身も下半身も、紐で身体に結わえ付けられているだけの衣装だ。ことに股引は、結びを解くだけで簡単に腰周りがくつろぐ。
板前の下肢から衣服を剥がすのは造作もないことだった。
青い法被も剥がされて、紺縮緬の長い布を脚にまとわりつかせたサンジは、肩を床に押さえつけられ、猫が伸びをする時のような格好を取らされている。
サンジの股を後ろから割ってゾロの手が前方へと伸ばされる。
萎縮して力なく垂れたソレを握りこまれて、サンジが声にならない悲鳴を上げた。
ゆるゆると弄ばれる。
なかなか芯を持たないその柔かさを逆に面白がるようにゾロはこね回し始めた。
「う…あ…あああっ…」
闇に溶けるその声をサンジは朦朧とした意識で聞く。
男根にねっとりと絡みつくような喘ぎ声。それが自分の声だと認めたくはないほどにそれはあまやかだ。
だがサンジが感じているのは、快感でも悦楽でもなく、責め苦でしかない。
最初はうつ伏せに押し倒された。股引も褌も剥ぎ取られて露になった下肢に手を伸ばされ、前茎を弄くられて無理矢理吐精させられた。
ぐったりとした力を失った身体は次に仰向けにひっくり返された。
膝を折りこまれて、腹とくっ付きそうなほど屈曲させられて、右脚の足首が頭のほうにある柱に繋がれる。しかも戒めの紐の役割をしているのは自分の紺の褌だ。
サンジの動きを封じたゾロは、サンジの後ろを執拗に指で犯し始めた。
「ううう…んああっ…!」
片身をまんぐり返しのように拘束され、肺を圧迫するような体勢に、はぁはぁと息を整えるだけでも辛い。酸欠気味の脳は意識を手放しそうになる。いっそそのほうが楽かもしれない。
しかし一本二本と増えていく指に、後ろの肉襞を押し広げる身の毛のよだつ感触に、手放しそうになる意識が引き戻される。
「…っ!」
内部を侵食してくる二本の指のおぞましさに、サンジはぶるっと身を震わせた。
引き裂かれる痛みよりも、じくじくと背を這い登るような緩慢な痛みが、サンジの心を蝕んでいく。
「いや…だっ!!」
頭を振って抵抗するが、苦鳴の間のそんな仕草は、むしろゾロの嗜虐を太らせるだけだ。
「よくねぇのか? なら、よくしてやるよ」
言い終わらぬうちに、サンジの菊門にぴたんと冷たい雫が滴り落ちた。
指で嬲りながら、もう片方の手でサンジが持ってきた料理と酒をつまみ始めていたゾロは、盃に注いだ酒を一滴二滴とサンジの菊門に滴らせ始めたのだ。
「ひっ!…よせっ!! あっ! やめっ…っ!!!!!」
だが抵抗の言葉など、ゾロには届かない。逃げようという動きなど、赦しはしない。
肉襞を解していた二本の指は、蕾の花弁を無理に広げるように狭い入口を割り開き、孔の奥へと酒の雫を誘導する。
「うあっ…あああああーーーーっ!!」
粘膜から体内に取り込まれたアルコールは、口腔から摂取するより遥かに早く血中に沁み込み、瞬く間に全身に駆け巡る。
白い身体は、みるみるうちに酒気を帯びて桜色に染まった。
急激に火照り始めた身体。動悸を打つ心臓。
そんな身体の変化に驚愕して見開かれる蒼い瞳。
振り乱される金糸の髪。桜色の身体。
暴れるサンジの動きに合わせて、サンジの足首と柱を繋ぐ紺縮緬はぴんぴんと張られる。自由の利かないサンジの脚筋もビキと緊張する。
それは、どんな春画も及ばぬほどの艶麗な光景だった。
そして、その光景を見ているだけでは満足しない獣が、緊迫した白い膝裏にべろりと舌を這わせた。
「あああああっ!!!」
喰われた贄の声が嵐の夜に繰り返し木霊する。
再び酒が尻の間に注がれた。
孔が飲み込みきれなかった酒は、高く掲げられた尻より低い位置にある双嚢へと、つつ、と滴っていく。酒の雫は柔かい袋の表面を伝い、いまや張り詰めた肉棒をゆるゆると下ってカリ首で留まる。
カリ首の溜まりがいっぱいになると、ぷくりと溢れた雫が亀頭に沿って流れて尿道口を伝ってぽたりとサンジの腹に落ちる。
一滴一滴、陰茎に透明な蛇が伝うように、酒の雫が落ちていく。
冷たい液体が股間を伝っていく刺激にサンジはおかしくなりそうだった。
(ぞ…ろ!)
声にならず届かない名を呼んだ。
食いもんをそんなことに使うんじゃねェ、と蹴り飛ばしてやりたいと思うのに、その気丈さとは裏腹に蒼い瞳からはボロボロと涙が零れた。
猫は仔猫に狩りを教えるために、捕らえた獲物をすぐには殺さず、獲物の身体を何度も転がし浅く傷つけ嬲って弱らせ、生きたまま仔猫に与えるのだという。
今の自分はその獲物に似ている。
とどめをさされないまま、何度も身体をひっくり返され、刺激という名の爪で身体を撫で上げられる。
身体を引き裂くほどの痛みに襲われようとも、さっさと突っ込まれて精をぶちまけられて終わりになるほうがいい、とサンジは思った。
ゾロの最初の言葉どおりに斬られるほうがよかったかもしれない、とさえ思った。
激しくて貪るようで、それでいて的確にこちらの快感の場所を攻めてくる。
粘膜から全身へ回った酒気で思うように力の入らないサンジの身体を、指先と舌が這い回る。
膝裏に手を掛けられて、身体のほうへ屈曲させられた。
その恥ずかしい格好の間にゾロの頭がゆっくりと降りてくる。
何をされるか察して、サンジが逃れようとするように身じろいだ。
その動きにサンジの股間も揺れる。ゾロの目前でいやいやをするように揺れる、金色の草むらから立ち上がったサンジの陰茎。
そのさまは、ことのほかゾロを煽り、サンジの若茎は唾液でいっぱいのゾロの口内にずっぽりと包まれた。
「あっ!」
びくんと跳ね上がった華奢な身体を逃さぬように、膝裏にかけた手に力がこもった。
左右に広げて柔軟な股関節をさらに大きく開かせ、閉じられないよう動きを封じた。
そしてじゅるっっと吸い上げる。先端までじゅぼっと吸って、一旦口を離したかと思うと、またずぼっと咥えこむ。
唾液をたっぷりと絡ませながら、熱でもあるんじゃないかと思わせる熱くてぶ厚い舌で肉茎の敏感な部分を、れろれろと舐り回す。
堪らず湧き上がる先走り汁をじゅっと吸う。念入りに味わうようにペニスに舌を絡めながら、睾丸を揉みしだく。
「ううっ………っ」
鍛えられた屈強な肉体の下に組み敷かれた白い身体が苦鳴を漏らす。
僅かな動きしか許されていない身体が悶え苦しみ、電流が走ったかのようにびくんびくんと跳ねる。
口腔から離さず嬲り続けたペニスの尿道口を押し開くように、尖らせた舌先で舐り吸い上げると、くううっとすすり泣くような甘く苦しい嗚咽が漏れた。
存分にしゃぶってから、ゾロは舌をゆっくりと最奥へと移動させる。
肛門にぴちゃんと湿った感触を与えられて、おぞましさに全身が総毛だった。
「いいいいい、イ…やだっっ………」
抵抗を見せた身体が横から抱え込む体勢に抱き替えられ……
「あああッ」
唾液で湿らせただけの後ろをぐるりとなぞり、押し開くように指が侵入してきた。
「ッ!!…ひ……痛ェ…痛ェよ、このクソ坊主っっ!!」
確か酒を垂らされる前に指を銜え込まされ解されていた…筈だ。
たが、突然の乱暴な進入にサンジは悲鳴を上げた。もがき苦しんで金の髪が振り乱れる。
しかし埋め込まれた指は内部の柔かい肉をかきむしるように容赦なくえぐえぐと蠢く。
その感触に、前を吸われて昂ぶりを与えられていた身体は、びくんびくんと反応する。
痛みが疼きへと変わる。アルコールのせいではない火照りがこみ上げてくる。
「うっ、うっ、あぁ…ああっ」
「足を開け」
いつの間にか片足を戒めていた紫紺の褌は解かれ、横抱きからうつ伏せにさせられた。
足の間にはゾロの身体が入って、尻を掲げられ、指を抜き差しされているというのに……
(これ以上、足を開けだと?)
サンジは悔しさにぐっと歯を食いしばった。
それでもゾロの声は一切の抵抗を許しはしないという脅しの色を帯びており……
サンジは、屈辱と羞恥とで焼き切れるような想いの中、股を大きく開いた。
無理に大きく開かされた脚は弛緩することを許されない。弛緩できない身体は刺激を逃すことができずに、ひたすら感度が上がって追い立てられていく。
「うっ、うっ、あぁ…ああっ…ひっ…っーーーー」
狂う。これ以上、掻き回されたら、狂ってしまう。
1本、2本、3本と増えた指が奥へと蠢き、快楽のポイントを容赦なく責め立てる。
痛みよりもおぞましさよりも快感ばかりがどんどんとせり上がってくる。
だが、この熱を吐き出すことは叶わない。堰き止められているのだ。
陰茎の根元をがっちり押さえた太い指をふりほどこうとするが、自分の細い指が敵うわけもなく。
「うっ、あっ、も、もうっ…も……ああっぅ」
「達きてェか?」
サンジは堪らず、コクコクとうなづいた。
にぃっと屈託無く笑ったゾロの顔が涙でぼやけた視界の先に見えたから、解放されるのだと思ったとたん、
「うああああっ!」
ずぶずぶと淫らな水音を引き連れながら、巨根が埋め込まれた。その衝撃に息が詰まる。
その息を再開する間もないまま、巨根はずりずりと引き抜かれ、また、ズンと奥へと埋め込まれた。
そしてまた、引き抜かれる。
「んあっっっーーーーー!」
引き抜かれる時に切ないような疼きが全身を駆け巡る。
突かれる時は、最初は苦しかっただけだが、其のうちゾロは、先ほど指で探り当てたポイントを探し当て、執拗にそこを突いてきた。
「やっ、やっ、やめっ…あああっ!」
射精感が更にせり上がって、きゅううっと腸壁が締まっていく。
「締めんな、阿呆!」
恫喝するような声が飛んだ。
(無茶…言う…なっ、このクソぼ…ず!)
ちゃんと言葉になったわけではない。
言葉を発したくても、揺さぶられ続けるサンジの口から零れるのは喘ぎ声と、はっはっという息継ぎばかりだ。それでも潤んだ目で恨めしそうにゾロを見上げて、必死で口をぱくぱくして抗議しようとする。
慇懃に許しを請えば、優しくしてくれるのかもしれない。甘えた声で啼けば、この苦痛から解放してくれるのかもしれない。それでもそんなふうに媚びることはサンジの心が許さなかった。
さんざん蹂躙された。無理矢理吐精されられたあとは、縛られて、ケツの孔に酒を流し込まれ、舌で舐られ、指で嬲られ……。頂点まで高められているのにイかせてもらえず。ようやく解放されると思ったら突っ込まれてさらに太いもので擦られて。
発狂寸前だというのに、締めるなと言ってくる。
もう……頼むから………
「こ……せっ!」
サンジが快感と苦悶の入り混じった表情で何か言った。
「あ?」
今までと違う、ただならぬ声音にゾロが我に返った。
サンジを見れば、歪められた眉根も紅く、擦れた目元も切なげで哀れで、ゾロは、その蒼白な顔に乱れ舞う金糸を拭おうと思わず手を伸ばした。
その手が金糸に触れる前に、サンジの絶叫がゾロの耳に突き刺さった。
「いっそ…いっそ…殺せよッッ!!!」
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