●このお話を読まれる前に●

《解説しよう》羽つきちびサンジとは。

【概要】
・身長:18.00センチ
・背中の肩甲骨あたりから小鳥ほどの大きさの翼が生えている。
・シャツ・パンツはナミさん所有の、●カちゃん人形のBFたかしくんの着衣を、一日/10000ベリーにて借用中。
・サンダルはウソップ渾身の作。
・背中に羽があるのにどうやって服を着ているのかなど、疑問点は多々ありますがそのへんは見て見ぬふりをお願いします。
【発端】
とある島で購入した鳥の肉を食べたところ、小さくなって羽が生えた。消化すればもとに戻ると思われる。
 【羽つきちびサンジ図解】




1.

― 最初は虫かと思った。
ぶんぶんと音はしないものの、目の前をくるくる飛び回るサンジをゾロが手のひらでしっしと払いのける。
小さくぽつぽつと何か聞こえる。目を凝らしてみれば口が動いてるのが見えるので、たぶん何かしゃべってるんだと解った。標準サイズのときと同じ、何か自分に怒ってるようだ。
何を言ってるのか聞くために、翼を羽ばたかせ飛び回るサンジを手のひらで包んで捕まえる。羽ごと握った両手を柔らかく開くと同時、指のあいだからサンジがうんしょと顔を出す。
さらにポチポチと音がする。口が動いている。怒鳴ってるらしい。手にしたちびサンジをそのまま耳元まで持っていく。

「メシだって言ってんだよ!!!」

キイン…
耳にやっと入ってきた怒鳴り声で一瞬聴覚を失う。サンジを掴んだ手を耳元から離す前に、サンジは身を捩って逃れて、ゾロの肩に飛び移る。肩の上に立って耳に近寄ると、ちょうどサンジの顔がゾロの耳に届くぐらいだ。
そのくらい、今サンジは小さい。

「メシ!!」

再度怒鳴られて、ゾロが小声で返事をする。小声でないとサンジには爆音のように聞こえる。
「おまえ、また作ったのか」
「あたりまえだ。毎日作るぜ。コックだからな」
小さくなって、もう3日。毎日かかさず三度三食、ミニサイズになったのにも関わらずサンジは料理を作る。メンバーが手伝おうかと助け舟を出す事はあるが、基本一人でやってのける。全長18センチの体でお玉をもち、包丁をもち、皿を担ぎ上げる。戦闘には足技しか使わないが、どうして腕力も相当なもんじゃないかと思われる。
「おまえ、もとに戻る気はねえのか」
「戻りてぇよ!」
料理はもちろん日常生活全般において、元のサイズでないといろいろと不都合である。ゾロとしては別の意味においても不便だ。キスはもちろん手を繋ぐことすら出来ない。このサイズもオモシロいが、やっぱり自分とつり合うサイズがいろいろ出来ていい。戻れなかったとしてもサンジはサンジなので関係は変わらないが、愛情表現の仕方は少し、否だいぶ変わる。それはつまんねぇなとゾロは思った。
肩に乗っているサンジがなにやら動いているようだ。首筋に感触を感じるのだが何をしてるのかよく見えない。
「いま、ちゅーしたんだけど気がついた?」
「いや、わからねぇ」
だよな、と言ってため息をつき、沈んだ声で言う。首筋にキスなんて夜中盛り上がったときだってなかなかやってくれない行為なのに、小さいからか、さらりとやってのける。が、残念なことに小鳥がついばむほどの感覚しか感じない。
「もし戻れなかったら、もうナンも出来んな」
ゾロが先程思ったことを思わず口にする。サンジも同じく思っているようで、沈んだ声で返す。
「戻れなかったらどうしようかと思うぜ」
「戻らない場合もあるのか?」
「食べたのが全部消化されたら戻るってロビンちゃんとチョッパーは言ってるけど。絶対戻るって保障はないって」
サンジがしょぼんと肩を落とす。
「ああああー、やっぱ肉はある程度金かけないとダメだなー。結局は大損だ」
「残りの肉はどうしたんだ?」
「今は冷凍庫に保管中。でももう誰にも食わせられねーよ。こんな体になっちまうんだもん」
ゾロは、おれも食えばいいんじゃねーかと思った。自分も食べて小さくなればアレコレするのに都合がいいのでは、と。思ったが、言わなかった。大剣豪になる身の上だ。どんなに小さかろうがなると決めたからにはなるつもりだが、食べたら小人になる肉の料理などサンジが出してくれるわけがない。
摂取するのが危険な食材に対して、サンジが料理をしないと決めたのであれば、その食材はもう食べる事はできない。麦わら一味の優秀な専属コックであり、仕事においては頑固な職人気質の男だ。食べ物を絶対に無駄
にしないはずだが、さて大量の肉を果たしでどうするかは、ゾロには解るはずもない。
「あああー、今後の食事メニューどうしよう。大幅に変更だぜー」
サンジが頭を抱える。さっきまで案じていた変身してしまった自身の体よりもなお、クルーの食生活保持の方が大事らしい。ゾロは、こいつらしいなと口元を上げた。



3日前のことだ。
寄航した島で、サンジは鳥の肉を10トン買った。次の島までの航海期間を約2週間としての麦わら一味全員の食肉用だ。9割がたルフィの胃の中に入る計算となっている。
どんな食材も今まで使ったことが無かったものは誰よりもまず、サンジが食べる。
10トン買ったなんとかって鳥の肉もいままで使ったことのないものだったから、まず肉本来の味と安全性を確かめるため丸ごと大鍋で茹でて、切り取った肉のかけらを味見した。口に運ぶと、いつも使うチキンと同じような味と食感。これなら普通に料理できるなとうれしく思いながら、飲み込んだとたんだった。

しゅわしゅわとまたたくまに、自分の体が小さくなった。

突然の変異にサンジは驚愕した。体が縮んだとき服の中に体が入り込んでしまい、自分が小さくなったというより、目の前が突然布で覆われた、と思った。そして自分は今何故全裸なんだ、なんだなんだこれは船に何か異変が生じたかと、であれば真っ先にナミさんロビンちゃんの下へ行かねばと、巨大な布、実際は自分のシャツの中でもぞもぞとあがいた。やっと襟元あたりから体を出したら、景色が一変していた。
キッチンにいたはずなのに、なんだここは。
なんだこのでかい黒いものは(サンジの靴)。
足元の床は木製のようだが、板目が大きすぎて何だか分からないほどだ。巨大な壁(実際はキッチンの戸棚)を見上げるとはるか上に見慣れた引き出しの取っ手があった。見慣れた色形だが、ありえないほどでかい。その取っ手がついた引き出しの上が、今しがたまで自分が見下ろしていたシンクだとは、にわかに信じ固い。
呆然と立ちすくんでいると、ものすごい爆音とともに、何かがサンジに近づいてきた。あまりの大音響に何が近づいてるのか全くわからない。恐ろしくて近づいてくる物体から全力で逃げた。逃げた先で振り向く。物体が遠くなって全容が解った。顔だ。ルフィの顔。爆音は何かしゃべっているってことだ。サンジを飲み込むような大口が動いている。

ぎゃあああーーーーー!!

絶叫を上げた。が、相手には全く効果が無いようで、そのうち怪獣のような指先が迫ってきた。

ぎゃあああーーーーー!!

また全力で逃げようとしたが、服に引っかかってこけた。ルフィの指がゆっくりとサンジを持って持ち上げた。
手のひらを上にしてその上にサンジを乗せる。腰が抜けて座り込んだサンジの目の前に、ルフィの顔。後ろになにやら長い棒の気配がするのは、鼻だ。ウソップの鼻。
サンジは大声で怒鳴った。
「なん、なんだああ!!」
ルフィが声をひそめて、
「サンジがちっちぇえ」
と言った。ウソップが顔を青くして
「なんの呪いだ」
というのに、
「羽生えてる。天使の羽だから呪いじゃねーだろ」
と言う。
羽?
サンジが首を捩って、おそるおそる振り返った。ふんわりと白い羽の翼が、背中から生えていた。



そして3日たつ。冒頭は、小さくなったサンジがゾロ曰く虫のように船内を飛び回る、いつもの(いつもの?)麦わら一味の船上風景である。


 【おまけ】


「できそう?」
「おー、まかせろ。オレ様の持つ全スキルを駆使して、おまえにジャストサイズの完璧なサンダルを作ってみせるぜ。
つうかあのねサンジくん、鼻重いんだけどね」




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