2.


 「うらぁっ、起きろっ」



お玉をもってサンジがダイニングを飛ぶ。
「ナミすわーーーん。スープのおかわりいつでも言ってぇーー」
「ろびんちゅわーーーーん。サンドウィッチ、苺ジャムのもあるから要る時言ってぇええええ」
主に女性二人の傍を飛び回り、朝食の給仕をする。たまについでに男達も構う。
「るひー。かつサンドのかつだけ食うな!パンも食え!あとで肉だんごやるから」
「ウソップ。ヨーグルトに入れるブルーベリー出すから待て。つうか自分で持ってこい冷蔵庫二段目だ」
「チョッパー。甘いもんの前にメシ。パンケーキサンド作ったから」
「おっさん。コーラばっか飲んでんじゃねー野菜ジュースも、ほれ」
「ほーねー。最近トクホ飲料ばっか飲んでるが、おまえメタボ関係ないだろ。カルシウムなら牛乳だろー」
いつもの文句をひととおり言い終えて、さてと窓の外を見る。
「朝めし食わざるは、生きるべからず」
わけのわからない格言を呟き、ぱたぱたと翼を羽ばたかせダイニングルームを飛び立った。
大きかろうが小さかろうが羽が生えてようが、いつもとまったく変わらない麦わら一味の、いやサンジの朝の風景である。






 「落ちるぞ」 



お昼ご飯も滞りなく終わり、おやつも出し終わった午後3時。サンジしばしの休憩時間だ。
小さくなってから、この時間寛ぐ場所はここ鬼徹の柄のうえにしている。
ゾロが文句を言う。
「なんでこんなところでえろ本読むんだ」
振り向きもせずにサンジが言う。
「ナミさんロビンちゃんのそばでエロ本読めねぇだろが」
何を当たり前なことをきいてるんだといった言い方だ。
「他にも場所はあるだろう」
やっとサンジがゾロを見上げる。偉そうに顎を上げて講釈を述べた。
「秋水はなぁ。座り心地がわりいんだよ。なんか、強い気っていうの?なんか憑いてるぞこの刀。おれそういうのみえる性質じゃないけどな。ちっこくなったからかな、なんか感じるんだわ。だもんで秋水は座らないことにしてんだ。そんで、その白いヤツ。和道一文字はおめー、いわばおめーの恋人ちゃんなんだろ?座れねぇよ。レディのうえには」
「女じゃねぇ。女が持ってた刀だ。ちなみにオレのコイビトはおまえだ」
「や、そこ、さらっと言うなっ。そこは今いいから。あーもうだからなっ。幼馴染の女の子の形見なんだろ?座れねーっての。この鬼徹が一番ラクなんだよ。ごつごつ感もあんまりないし実は座り心地はいい」
「3刀のうちどれがって理由を聞いてんじゃねぇ」
「じゃなんだよ。多忙なおれの貴重な休憩時間を邪魔すんじゃねぇ」
「サニー号の、今のお前にとってどれだけか広い居住空間の中で。なんで、おれの刀の上で寛ぐのかと」
「ヤなのかよ」
「嫌ではない」
「じゃ、いーじゃねーか」
会話終了。サンジはもう手にしたエロ雑誌のおっぱいに釘付けである。甲板のメインマストの柱に背中を預けたゾロが、ふんむと鼻を鳴らして腕組みをする。そのまま、サンジが落ちてしまわないようにそっと体を動かして甲板の芝生に胡坐をかいて座った。
何にも出来ねぇな
サンジが刀に乗ってるので鍛錬どころかあまり動けない。いや動いて落ちそうになったところで羽があるのだから飛ぶのだろうが、何だかこの状況が愛おしくて、ゾロはそのまま目を閉じた。
昼下がりの空は快晴。明るい日差しがメインマストの影を甲板に落とす。ちらちらと木漏れ日のように、光と影が芝生に模様を作ってる。ときおりさあ、と風が吹いてマストがはためき、光と影がゆれる。
「うひょーー。このおっぱいゲージュツ品!あ、やべっ、鼻血鼻血っ」
穏やかな午後のブレークタイム。サンジのピンク色のメロリンボイスがゾロの耳に心地よい。






  「…ちっこくて見えねぇ」「小さくねぇ!



午前0時30分。サンジお風呂タイム。
お風呂と言っても、洗面器にお湯を張っただけの簡単なもので、置いた場所もダイニングのテーブルの上と本来プライベートな空間であるはずのバスルームも、これだけ小さいと開き直ってフルオープンだ。
一応、ウソップが一通りのお風呂セットを用意した。
・サンジサイズに千切った石鹸
・サンジサイズにちょうどいい手頃な大きさのボトルキャップ。ひっくり返して洗面器代わりに。
・細かい目のガーゼをサンジサイズに切ってタオルにした。少し大きめに切ってバスタオルも作る。
・いつもサンジが利用するシャンプー・コンディショナーを少量小さな器に用意する。ナミさんから貰った〜というボディクリームのボトルも一緒に。
テーブルの上のお湯を張った洗面器のそばにそれらを設置。ついでに分厚い表紙の本を数冊開いて立てて衝立代わりと傍に置いて、バスルームの完成。準備までして、ウソップがあくびをしながらごゆっくり〜と言い部屋を出て行った。
この時間ともなればダイニングルームにはもう誰もいない。
サンジはひとりでバスタイムを満喫するつもりであった。
ところが、だ。
「どれ、背中洗ってやろうか」
頭上から野太い声が振ってきて見上げたら、大きな手のひらが迫ってきた。
ぎゃああーと逃げたが、サイズが違う分ゾロの方がもちろん早い。羽をつまんで捕まえられた。
「やめろ!」と叫ぶ。
「いまさら何恥ずかしがってるんだか」
オモシロいものを楽しむ声で言われる。
「風呂シーン覗くなスケベ!」
怒鳴るが、ちびっこで羽根付きではあまり色気のある風情でもなく説得力がない。サンジの方もこれだけサイズが違うと羞恥心が薄く、怒ったのは最初だけで後はゾロの目の前で全裸で普通に体を洗った。
ゾロが優しく羽をつまんで湯に浸からないように持ち上げ、洗面器のお湯を手のひらですくって、サンジの背中にかけてやる。ぷるる、と意識して羽を震わせて、指を払いのけようとするが、実は指の感触が心地よくて、そのまま洗ってくれると助かるとか思ってしまう。
伝わったのか
「そのまま、じっとしてろ」
と言い、ゾロが背中の羽に水が掛からないように気をつけながら小さな背中を洗う。サンジは観念してゾロに従い身を任せる。
背中を洗い終わって、前も洗ってやろうかというのをキシャーっと吼えて断り、自分で髪を洗った。
体と髪を洗い終わって、湯船(洗面器)に浸かる。
「ふーー」
洗面器の縁に肘を乗せて寛ぐ姿を見てゾロがおれも入っていいかと聞いてきた。入れるもんなら入ってみろ〜とちゃかしたら、テーブルに突っ伏してた体を起して、服を脱ぎだしたので、慌てた。
「ばか!無理にきまってるだろ!でかすぎんだろ!」
「まあ、でかいがな。なんとかなるんじゃねーか」
「なんともなるか!つうか何の話なんだ!シモか?下ネタなのか!」
顔を真っ赤にして怒鳴るサンジにゾロがにやりと笑う。
「ちょっとだけだ。ちょっとおまえが触るだけ」
「アホか!なんのプレイか!イヤだからなおれ。ぜったいっヤダからな!」
「おまえのちっさすぎて触れねぇし」
「ぎゃーっ、出すな!グロい!キモイ!ドスケベ!変態!」
「なんとでも。こんな機会またと無ぇし」
ゾロはうきうきと自分のボトムのベルトを外している。
何をする気かさせる気か。悟ったサンジが渾身の力を込めて湯船(洗面器)を蹴り飛ばす。
バッシャーーっ、バコーンっ
洗面器がお湯ごとゾロの股間をクリーンヒットする。ううむと呻いて座りこむゾロに、サンジが一言、
「おれのはちっさくねぇぞ!」と怒鳴る。






深夜

午前1時30分。
すやすやともうみんな寝てしまって静かな男部屋に足音立てぬようそうっと入り、二人で一緒に布団に入る。
小さな声でゾロが「やっと念願の同衾なのに、何にも出来ねぇ」と呟く。
サンジが、「いまだけだぞ。でかくなったらナシだからな」と釘をさす。
ゾロの顎と肩口の間辺りがサンジの寝床だ。通常サイズならありえない場所の、いまだけ限定のスリープスポット。
「おまえ寝相気ぃつけろよ。昨日怖かったんだからな。おめぇに潰されて死亡とか、おれ浮かばれねぇからな」
それは絶対しないから安心しろ。言葉にはせずにゾロが口元だけ上げて微笑む。
そろりと腕を上げて、指先でサンジの羽をやさしく撫でた。
小さな窓からの月明かりでほのかに青白い深夜の寝室。男子メンバーの寝息と波の音だけがかすかに響く。
小さなサンジに唇を寄せて、ゾロがささやく。
「朝誰よりも早く起きるんだろ?もう寝ろ」
サンジはゾロの指先を感じながら、目を閉じた。
ふう、とひと息シアワセなため気をついて、小さく言う。

「おやすみ」
「ああ」








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