「今日もいい格好だな。プリンスがそんなはしたない格好をしていていいのか?」
クロコダイル様は、にやにやと笑いながら、Mr.プリンスの髪をなでました。Mr.プリンスは頭をぶんぶんと振って、その手から逃れようとします。
「その薄汚ェ手を離しやがれ!」
相変わらずの言葉がクロコダイル様に投げつけられましたが、クロコダイル様は、楽しそうに笑っておられます。身体も命もクロコダイル様の手の内にあるというのに、いつまでも暴れるのが愉快だという表情でいらっしゃいます。
「乱暴な口を利いていられるのも今のうちだ」
そうおっしゃって、クロコダイル様はMr.プリンスの脚の間に移動しました。途端にMr.プリンスが緊張します。バルーンの管にちょっと触れただけで、ひくりと震えました。クロコダイル様がレモン型のポンプをゆっくりと握ると、Mr.プリンスが、ぐ、と奥歯を噛みしめました。
バルーンは電動で空気を送り込むこともできるのですが、手動でポンプを握るほうが、空気を送る早さも量も、自分の手加減次第。Mr.プリンスの表情や反応を見ながら、彼の股の間で強く弱くレモン型ポンプを押しつぶすほうが数倍楽しいのは言うまでもありません。ゆっくりと広がっていくバルーンの圧迫感にMr.プリンスはじっとりと汗をかきながら耐えています。バルーンはまったくもって「拡張」だけを目的としていますから、快感は与えられません。異物感と圧迫感、そして腸内で次第に広がっていくことへの恐怖、それらがMr.プリンスを苛(さいな)みます。
「く…う、う、は……うぅあ…」
Mr.プリンスが苦しげに呻きます。内臓が押し上げられて、胃を圧迫します。こうなると腹式呼吸は困難で、胸式呼吸でも浅い呼吸を繰り返すしかできません。呼吸困難だけでも人はパニックに陥りやすいものですが、Mr.プリンスの場合、クッションで腰を高く持ち上げられているせいで、バルーンが膨らむにつれ、腹部が盛り上がっていく様が見えるという視覚的恐怖と腸を押し広げられる苦痛が加わります。
「いやだ、やめろ、やめてくれっ!」
ついにMr.プリンスが叫びました。
「どこの組織のさしがねだ?」
クロコダイル様が尋ねると、Mr.プリンスは「組織になんか属してねェ」と答えます。
「答えられないのなら、仕方ないな」
クロコダイル様は再びゆっくりとポンプを握りこみます。Mr.プリンスの身体が、痙攣したように震えました。いまやMr.プリンスの全身は総毛立ち、冷たい汗でびっしりと濡れております。さらに2、3度空気が送り込まれ、Mr.プリンスが目を見開き身体を仰け反らせて痙攣し、いわゆるパニック症状を起こしかけたところで、クロコダイル様はバルーンの空気を少し抜きました。
「発狂させちまったら、おもしろくないからな」
クロコダイル様は、そうおっしゃりながら、最初の時のように、Mr.プリンスの髪をなでました。でも、Mr.プリンスのほうは、その時のように抵抗する気力も悪態を付く元気も残っていません。目は大きく見開いたまま、はぁはぁと荒い息を吐いています。
「今まで辱めしか与えなかったら、なめてかかってただろうが、これでよくわかっただろう、お前を生かすも殺すも狂わすのも、俺の気持ち次第だと」
クロコダイル様はお忙しい方なので、いつもなら、ひとつの責め苦が終われば、クロコダイル様はお帰りになります。でも、その日はそれで終わりませんでした。バルーンによる責めは、次への前戯にすぎなかったのです。
(#3風船/了)
→next(#4産卵)
え、物足りない? 前戯なので軽め、ってことでご容赦ください。と言って、次を過大に期待されても困るのだけど。。