パニックを起こさないギリギリの大きさでバルーンはMr.プリンスの腸内に留められました。恐怖からはひとまず免れたと言っても、腸壁が広げられ、内臓が圧迫される苦痛は引くことがありません。時々えずくようにしてむせるのは、胃が下から圧迫されて、胃液がせり上がるせいでしょう。クロコダイル様が葉巻をゆっくりとくゆらせている間に、Mr.プリンスの表情は次第に疲労を濃くしていきました。
クロコダイル様は葉巻を2本お吸いになり、それからお茶を1杯お召し上がりになりました。その間、バルーンを埋め込まれたまま放置されたMr.プリンスは、表情をなくして、ぐたりと四肢を弛緩させておりました。それでもクロコダイル様が近づくと、瞳に力が戻るのは、さすがと言えるでしょう。
「おまえが抜け」
クロコダイル様のそのひと言で、私は、Mr.プリンスの腸内に留まっていたバルーンを引き出し始めました。ゆるゆると管を引くと、Mr.プリンスの身体がびくびくと跳ねます。今しがた、身体を破裂させられる寸前の恐怖を味わったあとですから、それは快感というより反射的な緊張なのでしょう。実際、Mr.プリンスの雄は、金茶色の草むらの中でくたりと萎えておりました。
それでも、奥に埋まっていたバルーンの先端が、そろりそろりと引かれて、出口に近い、浅い部分を掠めた時には、反射的な緊張とは違う震えが見られました。見開いていた瞳を、きゅ、と閉じて、唇を噛み締める様は、確かに快感を感じ取った表情です。そして、閉じた瞳と引き結ばれた口元とは裏腹に、バルーンを抜き取られた暗がりは、ぽっかりと口を開けておりました。
私がバルーンを抜いている間、クロコダイル様は、ボディガードに命じて、何かを運ばせていらっしゃいました。黒い箱から取り出されたのは銀色のアタッシュケースのようなもので、そのケースを開けると、冷気が白い煙のように漂いました。アタッシュケースに見えたものは、冷蔵ボックスだったようです。
クロコダイル様は、バルーンが抜かれたMr.プリンスの秘部を見つめました。視線を感じてひくりひくりとわななく孔は、ピンク色の軟体動物のようです。クロコダイル様は、ぽっかり空いた孔の奥をペンライトで照らします。
「奥まで綺麗なピンク色だな」
クロコダイル様は孔のふちに人差し指の第一関節を引っ掛けて、入口をぐるりとなぞりました。
「うっ!」
小さく声が上がり、Mr.プリンスの身体がぶわっと、紅潮しました。指が描く円の大きさで、自分の後ろがどのくらい大きく口を開けているかを悟ったのでしょう。身体の奥までライトで照らされて暴かれる恥ずかしさに、Mr.プリンスが顔をゆがめます。
もちろんクロコダイル様の指は、入口で大人しく引き返したりはしません。さらに奥へと入り込み、指の数も2本3本と増えていきます。バルーンで拡張された器官は、クロコダイル様の指をやすやすと呑み込んでいき、腸壁をなぞられる感覚は甘い痺れを呼び起こします。
「く…う、う…ぁ…」
吐息を噛み殺すようにして、Mr.プリンスが快感に流されまいと耐えています。クロコダイル様は腸壁の広がりを確かめるようにさらに奥へと指を差し入れました。そして、そのまま片手を奥へ深く埋め込ませたまま、もう一方の腕についた鉤で、ぷくりと立ち上がった乳首を押しつぶしました。
「はぁっ!」
赤く色づく乳首を刺激されて、高い悲鳴が上がります。白い喉を晒すように身体が仰け反って跳ねました。同時にきゅうと孔がしまる様子を視覚と中に入れた指が締め付けられる感触の両方で感じ取ったクロコダイル様は満足そうにおっしゃいました。
「拡張具合も収縮具合も上等だ、Mr.プリンス。これなら、さぞ……」
おっしゃりながら指を引き抜き、銀色の冷蔵ボックスに手を伸ばします。取り出したものをMr.プリンスの目の前にかざして言葉を続けました。
「……素晴らしい産卵ショーが見られるだろうな」
「だ…れが、そんなショーするかっ!」
ピンポン玉のような白い玉を見せられて、Mr.プリンスが引きつった表情で叫びます。クロコダイル様は、不自由な身体で抵抗しようとするMr.プリンスに構うことなく、ひとつ、またひとつと、ピンポン玉を埋め込んでいきます。
「この変態野郎っ!」
叫ぶ声も抵抗も虚しく、ピンポン玉は拡張された孔につるりと呑み込まれていきます。クロコダイル様はピンポン玉を6つ埋め込むと、Mr.プリンスの膝裏に手をかけ、大きくM字に開脚させました。抵抗して閉じようとする膝を、両端にベルトのついた棒状の拘束具で、閉じられないよう固定します。赤ん坊のおしめを取り替えるような格好を取らされたMr.プリンスは羞恥と怒りで、白い肌を真っ赤に染めています。
「どうだ、卵の味は? うまいか?」
「うめェわけねェだろ、クソ鰐!」
「だったら、腹圧をかけて自分でその玉をひねり出すがいい」
「てめェの目の前で、誰がするか、そんなこと!」
「出さないでおくのもいいだろう。だが、せっかくだ、いいことを教えてやろう」
クロコダイル様は、冷蔵ボックスに残ったピンポン玉を手に取りました。
「これは少し冷たかっただろう? なぜ冷やしてあるのか、考えてみたか?」
「もったいぶってねェで、はっきり言いやがれ!」
クロコダイル様は、にやりと笑って、ピンポン玉をMr.プリンスの腹の上に転がしました。ころんと転がったそれは、玉の表面が少し溶けています。え?、という表情で、Mr.プリンスがその玉を見つめます。
そのうちにも、Mr.プリンスの肌に接している部分が少しずつ溶けて粘っていきます。
「それはな、ちょうど人の体温で溶け始める油脂でできている。そして、その玉の中心部には何が入っていると思う? ダンスパウダーだ」
クロコダイル様のその言葉を聞いた途端、Mr.プリンスの顔から血の気が引きました。
「ま…さか…そんなはずは…」
「お前が卵を産まずに大事に温めたいというなら、それでいいさ。温めた卵から孵るのは、雛鳥でなくダンスパウダーだがな」
クロコダイル様の言葉に驚愕したのは、Mr.プリンスだけではありません。ダンスパウダーというのは、催淫効果と幻覚で絶頂が止まらない、強力な麻薬なのです。依存性は高く、禁断症状が酷い危険な薬です。売春宿などで客を取らせ続けるために娼婦に少量使うような、濃度も純度も低い粗悪品であっても、使い続けていればダンスパウダー無しではいられない身体になります。そしてダンスパウダー漬けになった身体はエクスタシーが止まることなく、脳内でドーパミンなどの物質を生み続け、最後には廃人になってしまうのです。
そんな薬ですから、現在は世界的に禁じられている麻薬です。それがここにあるとは、俄かには信じられません。Mr.プリンスも信じられないという表情で言いました。
「ダンスパウダーだと? あれは製造も運搬も禁止された薬じゃねェか、それがその玉の真ん中にあるなんて、はったりもいいとこだ」
「信じないなら、それでいい。油脂が溶けてから後悔しても遅いがな」
その言葉に、Mr.プリンスががくりとうな垂れました。Mr.プリンスは自力で卵を産み落とすしか選択肢が無いことを悟ったのです。
クロコダイル様のことを心底恐ろしいと思ったのは、この時が最初でした。ダンスパウダーの存在の可能性は、非常に僅かなものです。玉の中に本物のダンスパウダーなど入っていないと考えるのが普通でしょう。しかし万が一、本当に玉の中にダンスパウダーが入っていて、それを粘膜から取り込んだら…。あっという間に自制を失ってダンスパウダーの幻覚に取り込まれるのは確実です。さきほど腸壁が破裂するかというほど膨らまされたバルーンによってパニック寸前に追い込こまれ、自分の精神が壊れる恐怖を嫌というほど深く味わったばかりのMr.プリンスは、ダンスパウダーが入っている可能性が万に一つの僅かな確立であっても、クロコダイル様の前で、玉をひりだす選択をしてしまうのです。
大衆の心を掴むのがうまいクロコダイル様は、個人の心理を操ることにも長けていらっしゃるのです。Mr.プリンスは、クロコダイル様の罠にまんまとはめられたのです。
Mr.プリンスは、観念したように、く、と下腹部に力を入れました。徐々にピンポン玉が降りてきて入口の襞を押し広げます。ピンク色の襞が徐々に開いて、表面がやや溶けかけた玉を押し出そうとする様子に、私はつい興奮してしまいました。M字に開かれた股の間をくいいるように見つめる視線に、Mr.プリンスは激しい羞恥を感じたようで、玉の半分ほどを孔から覗かせたまま、ひり出すことができずにぶるぶると震えています。
クロコダイル様が先を促すようにおっしゃいました。
「早くしないと油脂が溶けるぞ」
確かに1つ目でこんな調子では最後の玉は、産み落とす前に溶け切ってしまいます。
「クソッ!」
Mr.プリンスは、吐き出すようにそう言うと、眉根を寄せて、ぐ、と腹圧をかけました。とたんに、弁が開くようにピンクの襞が広がって、白い玉がスポンと転がり落ちました。
「うぁぁあっっ!」
同時に、Mr.プリンスが、身体を弓なりに大きく弾ませて悲鳴を上げました。一番手前のピンポン玉が飛び出すと同時に、奥のピンポン玉がずるりと移動して、いきおいよく前立腺の壁を擦り上げたのです。
「あ、あ、…ああっ」
玉がひとつ転げ出たあとも、Mr.プリンスはがくがくと震えて小さな悲鳴を繰り返しています。突然襲ってきた快感で、中に残るピンポン玉をしめつけてしまい、しめつけた玉がまた前立腺に当たるのです。目元を染めてふるふる震えるMr.プリンスにクロコダイル様は容赦なくおっしゃいます。
「まだたった1つだ。あと5つ残ってるぞ」
その言葉によって、ダンスパウダーに囚われる恐怖を思い出したMr.プリンスは、また、下腹部に力を入れます。今度は、卵を生み出す瞬間に襲ってくる強烈な快感に備えるように、ぎゅっと硬く目をつぶっています。そして、白い玉が孔から顔を出し、徐々に襞を押し広げ…
「あ、、、あぁぁぁあーーーああッ!!!」
玉がスポンと飛び出すと同時にまた、悲鳴が上がりました。玉が飛び出す勢いによって急激に前立腺を擦り上げられることは、指や性具でそこを嬲られるより予測が付かなくて、身構えていても、反射的に身体が反応してしまうようです。急激に襲われる強い刺激に、Mr.プリンスの心臓は激しく鼓動を繰り返し、その揺れる胸の上には、赤い実が充血して硬くとがっています。中心が芯を持って立ち上がっているのは、言うまでもありません。
刺激に翻弄されてMr.プリンスの身体は敏感さを増していきます。ぽとりと玉が産み落とされるたびに奥の玉が前立腺を突く刺激にも、手前の玉が浅い部分の快感ポイントを擦り上げるのにも反応して、Mr.プリンスは切ない悲鳴を上げ、全身を震わせて、鈴口からトプトプと露を零します。
奥の玉は溶けている部分が多いせいか、押し出される途中で、ゴプ、クチ、というような卑猥な水音を立てます。Mr.プリンスは、その音からも、彼の恥部を凝視している視線からも逃れるように、目を伏せていやいやをするように顔を横に振ります。しかし、乱れ散る金糸から覗く涙に濡れた表情からも、収縮を繰り返すピンクの襞の卑猥さからも、震える身体からも、鈴口から伝い降りて淫嚢をぐちゃぐちゃに塗らしていく露からも、どうして目が離せましょう。
最後の玉が産み落とされた時、赤く尖った胸の実は、Mr.プリンス自身が放った白く粘ついた液に濡れ、M字に開かされた股間は、先走りの露と油脂にまみれてスポットライトの中でぬらぬらと反射しておりました。
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