淫獄のプリンス #5 尻尾
クロコダイル様はお忙しい方なので、この地下牢で毎度ゆっくり過ごすことができるわけではありません。それでも日に一度は、必ず様子を見にいらっしゃいます。
クロコダイル様が現れますと、当然のことながらMr.プリンスの表情に緊張が走ります。屈することの無い不敵な視線でクロコダイル様を睨みつけておきながら、身体は裏腹に、これから何をされるのかと強張るのです。そんな表情と姿態に、クロコダイル様のお口元は満足げに緩むのです。
そして、壁に張り付けられたMr.プリンスの傍へ近づき、緊張したMr.プリンスの顎を撫で、ゆっくりと首筋を辿って鎖骨をかたどります。ぶるっと身体を震わせて反射的に逃れようとする滑らかな胸を、クロコダイル様の指が降りていきます。淡く色づいた乳首を摘まみ上げると、白い身体がびくんと跳ねます。腰骨もMr.プリンスの弱いところです。ここを撫で上げられるとMr.プリンスの身体がふるふると粟立つのです。
お時間があまり無い時には、こうしてMr.プリンスの肌を撫でさするだけで、お帰りになります。ただし、嫌がる様を楽しむように、ことさらにねっとりと、それは行われます。そのくせ男性器に直接触れることは致しません。ソコを避けるように触って、敏感な肉体を煽るのです。抗う意思と嫌がる心に逆らって熱を溜めていく我が身を、Mr.プリンスが悔いることなど承知の上です。むしろそれがクロコダイル様の目的なのです。
お時間が少しある時には、おぞましい性具でMr.プリンスを責めます。逆さに吊るされて張り型を挿し込まれた時は、Mr.プリンスは自らの白濁液を顔に受けるという屈辱を味わいました。この時のMr.プリンスのわななくような表情は、私の記憶にしっかりと留められております。
さて、その日のクロコダイル様には、公式なお約束が殆ど入っていなかったようです。
朝食後、Mr.プリンスの身体に枷をつけておくように、事細かな指示が私に下されました。私は忠実にご命令どおりの作業を施した後、館内の秘密電伝虫を使って、準備が整ったことをご連絡致しました。
「あと、どれくらいで目覚めるのだ？」
電伝虫の向こうでクロコダイル様がお尋ねになりました。今回の作業は、四肢を鎖で繋いだままでは施しにくいものでしたので、作業前にMr.プリンスの意識を奪ってから行われたのです。
「通常の人間ですと、あと１時間以上は眠ったままでしょうが、彼の場合はもっと早いのではないかと…」
耐性があるのか、Mr.プリンスが薬物が効きにくい身体だというのは、今までの様子でわかっておりました。
「そうか。では、そちらで待つとしよう。奴が目覚めた時の表情を見逃すのは惜しいからな」
クロコダイル様が到着してしばらくすると、意識を失っていたMr.プリンスが身じろぎ始めました。思っていた以上に早い覚醒です。
うっすらと瞼を持ち上げたMr.プリンスは、まだ薬が抜け切っていないようで、いつもの鋭い表情を見せずに、ぼんやりとしておりました。あどけない、と言ってもいいほどの無防備な表情です。しかし、じきに、ううっと苦しげな声を零しました。直後、Mr.プリンスの瞳がいっぱいに見開かれました。呼吸をする時の違和感と自分をえずかせたものの正体に気づいたのです。彼のあどけないほどの顔に掛かっていたのは、空気孔のついた球状の口枷―――つまり、えげつないボールギャグでございました。
かっと目を開いたMr.プリンスは、その時初めて、クロコダイル様の存在に気づいたのでしょう。反射的に身体を起こしかけました。
「うぐっ！」
とたんに首に衝撃を感じてMr.プリンスの頭はまた床に沈んでしまいます。げほげほと激しくむせました。ボールギャグで閉じられない口の端から、唾液が溢れ、白い首筋を伝って落ちていきます。
苦しげな咳込みが収まると、Mr.プリンスは慎重に自分の身体の状況を探り始めました。
まず最初に目についたのは、あごの先から伸びるリードだったようです。そのリードの先はわずか1メートルほど先の床に繋がれています。Mr.プリンスはそろそろと首を動かして、リードの反対側が、自分の首に掛けられた首輪であることを確かめました。
首輪の存在に気づいた彼は、キッとクロコダイル様を睨んで思わず何かを叫びかけます。おそらくクロコダイル様を罵る言葉だったのでしょう。でもその言葉は、ボールギャグに遮られて、意味を持たない音にしかなりません。悔しさと憤怒に駆られてボールギャグを噛み砕こうと、あごに力を込めますが、そんなことで壊れるようなものをクロコダイル様が用意するわけがありません。
噛み砕けないのなら手で取ろうと思ったのでしょう。口元に手を伸ばそうと致しました。その手は、革手袋ですっぽりと覆われておりました。手袋の先端は指が全く分かれておらず、まるで靴下を手に嵌めたように、アーチ型の先端が手をすっぽりと覆っています。
その異様な手先を見てとって、Mr.プリンスは口枷に伸ばしかけた手を止めて、再び自分の身体を見回し始めました。先ほど急激に動いて首に強い衝撃を受けたことが頭に浮かんだのでしょう。状況を見極めるまでは下手に動かないほうがいいと感じたようです。そして、全身に目を映したMr.プリンスの表情に、みるみるうちに羞恥と怒りと屈辱が浮かんでまいりました。
革で覆われているのは手だけではありませんでした。手足のそれぞれが革でくるまれているのです。それでいながら、胴体は裸に剥かれているのです。その状態で首輪とボールギャグを装着されているとなれば、クロコダイル様が何を企んでいらっしゃるか、見当がつくというものです。
ううう、とMr.プリンスが怒りに満ちた唸り声を上げました。きちんと口が利けたなら、弾丸のように罵詈雑言が飛び出したことでしょう。
クロコダイル様はその様子に、くくくっと笑いを零しました。楽しそうな笑みをたたえてMr.プリンスに近寄ります。Mr.プリンスは動きを制限された格好でありながら、立ち上がろうとしました。床に転がされているままでクロコダイル様に対峙するのは、彼の自尊心が許さないのでしょう。手首と膝を繋ぐ、わずか20センチほどの鎖がシャラリと音を立てます。同時にMr.プリンスが眉根を寄せて足元を見ました。
先ほど申しましたように、足には手と同じように革のロングソックスのようなものが履かされています。その上から膝上を締めるようにベルトが巻かれており、そのベルトから伸びた鎖が手首と繋がっていることは、先ほど身体を観察した時に気づいています。Mr.プリンスが訝しんだのはそこではありません。足首のバングルでした。
Mr.プリンスの得物は脚ですので、この地下牢に彼が囚われて以来、足首には常に重いバングルが嵌められておりました。今回は、それをさらに追加して、動きをより制限してあったのです。
重い足をひきずるようにしながらMr.プリンスは上体を起こし、腰を持ち上げます。足の上に重心が乗るようにバランスを取りながらゆっくりと起き上がりました。しかし、わずか1メートルほどしかないリードの先は床に縫いとめられています。したがって、彼の首は、床から1メートル以上の高さには上がりません。すらりとした長身を屈めて、おじぎをするような姿勢を取るしかないのです。
それに気づいた彼は、脚を伸ばさず、膝を折ってしゃがむ体勢になりました。なるほどMr.プリンスらしいと、私は思いました。クロコダイル様の前で頭（こうべ）を垂れるような姿勢を取るよりは、しゃがんでいても彼を睨みつけられる格好のほうがいいというわけです。
クロコダイル様はMr.プリンスと接触できるギリギリのところで立ち止まりました。これではMr.プリンスが、例えば体当たりのような攻撃を仕掛けようとしても、掠めるだけで、リードに引き戻されてしまいます。
「今日はいつもに増して良い格好だ」
ことさら屈辱を煽るようにクロコダイル様が笑いました。
「そうやってしゃがんでいると、忠実な犬のように見えるな。実際、お前は俺のために働く忠実な可愛い犬だと思っていたぜ。とんだ食わせ者だったがな。もっとも、そのせいでお前を雌犬にしてやる楽しみも出来たわけだ」
雌犬、と、Mr.プリンスのプライドを逆撫でするような言葉でクロコダイル様はなじりました。それをMr.プリンスは軽蔑するような表情で受け流します。クロコダイル様の言葉責めは今日に始まったことではありません。Mr.プリンスは同じ挑発に容易く乗っけられるような男ではないのです。だからこそクロコダイル様の執着は尋常でないのです。
言葉には動じなかったMr.プリンスでしたが、クロコダイル様が取り出したものには顔色を変えました。男根を象った太い淫具がクロコダイル様の手から現れたのです。これまでも、ディルドの類を尻孔に何度となく埋め込まれたMr.プリンスですから、それだけでは、ここまで嫌悪を露にしなかったでしょう。が、今回のものは、玩具の先に、ふさりとした毛が垂れておりました。
「犬には尻尾が必要だろう？」
茶色と黒が混ざった艶やかな毛並みを撫でながらクロコダイル様は、リードを前方へ引くように私に目配せなさいました。以前に申し上げましたが、この部屋には床にも壁にも天井にもレールが張り巡らされています。拘束用の鎖がそのレール上をリモコンで移動すると、Mr.プリンスの身体は繋がれたまま様々な格好をとらされることになります。今までも、大きな台座に大の字に張りつけられたり、M字に開脚させられたり、足を左右に開かされたまま逆さに吊るされたり、と、思い出すだけで私のほうが赤面しそうな格好ばかり強いられております。
そんな光景を思い出しながら、私は、リモコンでリードの先を1メートルほど前方へ、ぐいっとずらしました。
「うぐっ…！」
いきなり首を引っ張られてMr.プリンスの上体が床へと倒れます。反射的に出そうとした手は、膝に繋がる鎖に動きを阻まれてしまいます。Mr.プリンスは、ぶざまに顔から床へと突っ伏しました。金色の髪がばらばらと床に乱れ散ります。打ち付けた痛みに、くうっっと呻くような声が上がりました。
それでもMr.プリンスは体勢を整えようと致します。床に倒された裸身をくねらせる様子が、なんとも艶美です。顔と肩を床につけ、腰だけが上がって、尻を突き出したような格好なのです。その屈辱的な格好をどうにかしようともがくのですが、手首と膝が短い鎖で繋がれていては、思うように身体は動きません。むしろ尻だけを揺らめかせるようになってしまいます。しかも膝上までを覆う革が、むき出しにされた尻の白さを強調して、いっそう卑猥でございました。
まるで芋虫のように蠢くMr.プリンスの背後にクロコダイル様は近づきました。手にした尻尾付き淫具の男根部分に、たっぷりとゼリーを塗りつけます。背後に回ったクロコダイル様から逃れようと揺らめく尻の奥にも、ゼリーが塗りこまれます。そして、その感触に彼の身体がびくつくよりも早く、一気に淫具が押し込まれました。
「ぐぁああああっ！！！」
突然身体を刺し貫かれる衝撃に、Mr.プリンスが背を仰け反らせようとしました。が、それも首のリードのせいで、首を持ち上げることは叶いません。それでも仰け反ろうとする背は、首の代わりに反射的に腰を持ち上げることで仰け反り体勢を取ろうとします。革に覆われていない大腿部がびきりと強張っているさまも尻尾の奥で揺れる淫嚢も、丸見えなほど尻が突き出されました。
う、ううう、とMr.プリンスが苦痛に喘ぎます。しかし、クロコダイル様は容赦なく、突き立てた淫具をぐりっと回して、更に奥へねじ込みました。
「あぁあーーーっ！」
Mr.プリンスは、まるで生まれたての仔鹿のように、踏ん張る脚を震わせました。その脚の震えが淫具に伝わり、淫具に取り付けられた毛皮に伝わり、尻孔から垂れた毛皮が、震える脚に同調し始めます。Mr.プリンスがビクンと弾かれたように身体を跳ねさせれば、毛皮はその動きをより強調させてビクンと跳ねます。Mr.プリンスの身体の小さな動きまでもが、よりはっきりした動きに増大されて尻尾が動くのです。
「ぐううう…」
Mr.プリンスは、腹圧を使って、淫具を押し出そうとしました。けれども、根元が深くくびれてストッパーの役目も果たしているソレは、手で引き抜かない限り、抜けることはありません。
「あぅうっ…あぁぁっ…」
腸を押し上げる淫具の苦しさと屈辱的な格好に、Mr.プリンスが吐くように苦鳴を漏らしました。
そのMr.プリンスにクロコダイル様はさらに残酷な告知をなさいました。
「ずっと地下にいるのも息が詰まるだろう？ 今日は外を散歩させてやろう」
（#5尻尾／了）
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