修羅の贄 #3



ギンがすっとサンジの足の間に割って入ってきた。手には紅い紐が握られている。
ロロノアが乱れた白装束の裾を乱暴にまくりあげた。
その下の下穿きも毟り取られ、下肢の陰りが露になる。

ギンは金の柔毛にうずくまるように萎縮した男の証を、大事なもののように恭しく取り出した。
まだ柔かいそれに、紅い紐をするりと絡ませる。
反射的に白い身体がひくりと跳ねるが、その身体の持ち主は固く目を閉じて、それ以上抗うまいとこらえている。

紐を引き持つ右の指先と左の指先が、流れるように交差した。あやとりか組みひもを編んでいるか…武骨な指が、そんな繊細な動きを繰り返す。
サンジの股間で蠢いていた手が動きを止め、離れた時には、網のように組まれた紅い紐が、薄紅色の陰茎の、根元から雁首までを戒めていた。
「鮮やかだな」
そう言ったロロノアの意識は、ギンが織り成した手技にあったのか、それとも紅い紐に象(かたど)られた無惨な若茎にあったのか。

ギンに代わってロロノアがサンジの脚の間に入った。
開かれた内腿をするりと撫でると、ふるりと身体が震える。
そのまま足先のほうへと指先を滑らせロロノアは顔をしかめた。
さらに弄るように白い身体全体を撫で回し、険しい顔でトンとサンジの身体を突き放して言った。
「どこもかしこも冷てェしカチンカチンだ。俺ぁ、石を抱く趣味は無ェぞ!」

風呂殿の用意をしろというロロノアの命令で、隣接する建物が俄かに慌しくなった。
その間にサンジは身体を起こされ、いったん手の縄を解かれた。
白湯を差し出されたが、縛られた形で固まったようになっている手はうまく椀を持てずに取り落としそうになる。
結局その手を包み込むようにしてギンが支えてようやく白湯を口に含むことができた。

惨めだ…。
サンジは思うように動かぬ身体を悔しく思った。
こんなふうに介添えされると、自分が本当にか弱い女にされたような気がする。
それはロロノアに横抱きに抱え上げられた時にいっそう顕著になった。

「離せっ、自分で歩ける!」
その言葉をまったく無視して、奥の襖(ふすま)から廻り回廊に出て風呂殿へとサンジを運んだロロノアは、二重の引き戸を開けて風呂殿へ入るや、サンジを放した。
「どこが自分で歩けるんだ?」
よろめいて床に崩れ落ちたサンジを見下ろしてロロノアが嘲う。
「…っ!」
立ち上がろうとしたが、強張って冷たくなった脚はもつれるだけで身体を支えてはくれない。
それでもロロノアから少しでも距離を取ろうと、いざるようにして身体をあとずらせた。
だがサンジが連れてこられた風呂殿は、この離れ座敷に添えられた一人用の蒸し風呂で、三畳ほどの大きさしかない。すぐに逃げ場は無くなった。

獲物を追い詰める悦びをその魔獣の眼にたたえて、ロロノアがサンジの身体に手を伸ばしてきた。思うように動かぬ身体ながら反射的に伸びてきた白い足を動きを封じるように圧し掛かる。
腰を掴んで完全にうつ伏せの体型に組み敷いて、「ギン」とひと声呼んだ。
風呂殿の外で控えていたギンがすかさず入ってくる。
ロロノアがくいと顎をしゃくってみせると、それだけで意図が通じたらしい。
サンジの両手首を、紅い紐で素早くひとまとめに絡め取る。
そして紐の端を刀掛け用に壁近くの床に打たれた二本の杭のひとつにくくりつけてしまった。

「四つ這いになって足を開け」
サンジの背から降りたロロノアは、サンジの真後ろにどかりと座って、そう命じた。
犬のように繋がれたサンジに、まさに犬の姿勢を命じたのだ。
すでに白装束は毟り取られ、滑らかな身体は全裸に剥かれていた。
躊躇するその身体に、無慈悲な声が掛かった。
「何をされても玻璃城を救いてェんじゃねェのか?」
「くっ…」
従うほか無かった。
そろそろと尻を持ち上げて足を開いていく。
時々羞恥で膝が崩れ落ちそうになる。
いっそ一気に足を開いてしまえば楽なのかもしれない、と思う。
だが、開き切ってもこの恥辱の苦しみは終わるまい。
這わされて秘奥を覗かれるのだ。

「うぐっ…!」
突然の感触にサンジの身体が跳ねた。
羞恥で朦朧とするあまり、ロロノアが近づいたのがわからなかった。
大きな手が前茎を縛った紅い紐の端をぐいと引っ張ったのだ。
「あ、あ、…」
痛い…。
思わずそう告げそうになって、サンジはぐっと唇を噛み締めた。
ふるふると頭を振って痛みを堪える。
再び紐をくいっと引かれて、苦痛から逃れようとつい腰が後ろへ引ける。
徐々に肩が落ち、こんな体勢は嫌だと思いながらも、ゾロの鼻先へ自ら尻を突き出していた。

その屈辱的な格好を楽しむように、ロロノアの手は紅い紐がかかった茎を降りて双嚢を弄び始めた。
「うっ、うううっ…」
薄い膜の下の、うずらの卵のような睾丸を、いたぶるように揉まれて苦鳴が上がる。
やがて香油を絡めた指先が、曝された窄まりに触れて、サンジの身体が仰け反った。
「ひうっ!」
高く上がった悲鳴を無視して、ロロノアの指が、頑なな入口をあやすようにくるくると撫でる。
襞の間に香油を塗り込むようにされて、肉の花弁が一枚一枚広げられていく。

「や…めっ……」
突き出していた尻が、今度は前へと逃げるから、ロロノアは反対の手で紐の掛かった前茎を掴む。
動きを封じて、指を秘奥へねじ込んだ。
「あああっ…」
日毎に剣を握り固くなった指の腹が、内部の媚肉をほじくる。
奥のほうではぐにぐにと蠢かされ、浅いところでは引っ掻くように擦られ、出し入れされる。
やがて指が二本に増え、割り開くように内部が掻き回される。
その一連のおぞましい感触に、ついに耐え切れずにサンジが叫んだ。
「やめろっ!! さっさと突っ込めばいいだろう!」
「言っただろう。俺は冷てェ石を抱くつもりは無ェんだ。ま、だいぶあったまってきたがな、もう少し、あったまれ」

ぐいと肩を床に押し付けられた。
床の竹のすのこから、熱い蒸気が上がってくる。
温まるというより熱い。
高床になった風呂殿の下では御用人が釜で湯をぐらぐらと沸かしているのだ。
蒸気が逃げないように壁は厚い板で密閉されているが、すのこ床の下の御用人には、ここで今、何がなされようとしているか、丸聞こえだろう。
それに思い当たって、サンジは声を抑えようとした。
だが、ロロノアの指の執拗さに、知らず呻き声が零れてしまう。
さっさと貫かれたほうがいい。
後ろの穴をこんなふうにコイツに覗かれて弄ばれるのは耐えられない。
耐え切れず、ついにサンジは叫んだ。
「ゾロッ!!」

その声にさっとロロノアの形相が変わった。
「その名で呼ぶな!」
サンジの中を確かめるように蠢いていた指が勢いよく引き抜かれた。
抜いた拍子に、入口をいきなり内側からこじ開けられる痛みが走り、サンジがくうっと呻く。
だがロロノアは意に介さず、憤怒の形相のまま自分の剛直を取り出した。
すでに隆々と立ち上がっていたそれを数回扱くと、まだ固さの残る蕾に宛がった。

「何があっても海守(わたもり)であってくれだと? 笑わせるんじゃねェよ。海の安寧のために身を捧げるなんざ、橘媛(たちばなひめ)にでもなったつもりか!」
怒りを爆発させるように、怒張を一気にねじ込んだ。
「ああッーーー!」
金の髪を振り乱すようにして、サンジが痛みにのけぞった。

深々と刺さった楔は、先端ギリギリまで抜き出され、またドスンと差し込まれる。
凶暴な雄が抜かれる時には入口の襞が内側からめくりあがり、突き入れられる時には内側に巻き込むようにして引っ張られる。
無理矢理に擦られて、淡い色をしていた蕾はまたたくまに充血し、ざくろ色に変わった。
「あ、あ…、あ……ああ……」
鋭い悲鳴が抜き差しのたびに上がる。
手首はゆとりを持って戒められていたが、揺さぶられる震動でギシギシと軋む。
その紅い紐の先にある指が何度も床をひっかくのは、苦痛のせいだ。

「う…ぁ…ぁ…」
崩れる腰をロロノアは抱え上げ、浮かせるようにして上から一気に貫いた。
「ーーーーーーッ!!!!!」

熱い白濁がサンジの最奥を撃った。
ずるりと引き抜く気配とともに、ごぶっと粘着質な音がする。
だが、放出しても瞬く間に膨れ上がった怒張は、完全にサンジの外へ出てはいかなかった。
再び奥を突かれ、白濁で満たされた中が、太い楔で掻き回される。
初めて受ける肛姦だという情けは、かけらも無かった。
白濁で腸をいっぱいにされたまま、激しい責めが再開されて、その苦しさにサンジはがくりと崩れ落ちた。







 ◇ ◇ ◇



身体をすうっと撫でる冷たい空気が、サンジの意識を呼び起こす。
一瞬自分がどこに居るのかわからなくて、目をしばたいた。
まだ風呂殿の中だった。
すのこの床からは相変わらず蒸気がふわふわと上がってくる。
だが先ほどのような熱さではなく、ほどよく温かいのは、もう釜に火をくべていないのだ。
釜に残った熱湯が蒸気を上げながらゆっくりと冷めていっているのだ。

サンジは頭を上げて小さな蒸し風呂を見渡した。
ロロノアの姿は無い。
刀掛けの杭に繋がれた紐は切られていたが、両手首はまだひとまとめに括られたままだ。
身体を起こすと、腹の内部でずずっと何かが下る感触があった。
「クソッ、ヤり捨てかよ…」

白濁に汚れた身体を裸のまま風呂殿に捨て置かれた惨めさに、視界がぼやけた。
涙が零れ落ちようとする寸前、サンジは人の気配を感じて、はっと顔を上げた。
よく見れば、風呂殿の引き戸が細く開いている。
自分を覚醒させた冷たい空気は、ここから入ってきたのだと感づいた。
「誰だ!」
「失礼致します」

入ってきたのは、サンジの身体を探って遺書を抜き取った黒髪の美女だった。
「ロビンと申します。今後の身の回りのお世話を仰せつかりました。お身体を清めましょう」
「ちょ、ちょっと待って! 俺、今、なんも着てねェッ! だいたいレディにそんなこと、させらんねェよ!」
最後は悲鳴のような声を上げて、ばっと背を向けて縮こまったサンジに、ロビンは微笑んだ。
「『女』同士、恥じらうことはありませんわ」
「『女』同士…」
蒼い瞳が、哀しげに揺れた。

それを見て見ぬ振りをしてロビンは、どれほど肌理が細かくとも『男』そのものの身体に近づいた。
それでもサンジが身体を隠そうとするので、ロビンは得意の技を出した。
何本もの手で、サンジを床に縫いとめたのだ。
「え?」
驚愕で目を見開くサンジに「ハナハナ」という術だと笑って、白い身体にこびりついた残滓を手拭いで綺麗に拭う。
それが終わるとサンジをうつ伏せにして、下肢を開かせる。
「いやだ…」
サンジは弱々しく抵抗した。自分を抑えているのが女性の手だと思うと強く抗えないのだ。

女性に後穴を見せる羞恥にぶるぶると震えているサンジの傍らで、ロビンは、よく揉んで柔かくした和紙を巻きつけた柳の枝を取り出した。
それを熟んだように赤く腫れた後穴に滑り込ませる。
「なっ…」
びくりと跳ね上がった身体を、ロビンは強く押さえつけた。
「ご辛抱くださいませ」

「いや…いやだ、ロビンちゃん…やめて」
涙声で訴える男の背をなだめるように撫でながら、ロビンは柳に取り付けた和紙に腸内の濁液を絡みつかせるようにして掻き出す。
やがて少しの血液で薄桃色に染まった征服の証汁が後穴からじわりと染み出し、ぱたぱたっと床に落ちてきた。
サンジは後ろを犯された時よりも蒼白な顔でわなないた。

震えながら逃げるように腰をずらしたサンジに構わず、ロビンは再び柳の枝を差し込んで残滓を掻き出す。
繰り返すうち、サンジの腰がゆらゆらと揺れ始めた。
「…?」
いぶかしがりながらもロビンが柳の枝を引くと、身悶えるように腰が揺らめく。
浅いところに触れたとたん、ん…と、甘さを含んだ声が洩れた。
思い当たって、ロビンはサンジの前を確かめた。
くたりと萎えていたそれが、今や張り詰めている。
敏感な身体は、柳の動きに快楽を拾ってしまったらしい。

「く……ふ……ぅ…ぅ…」
サンジが苦しそうに息を吐いた。
サンジの前は、いまだ紅い紐で括られている。
先端からは透明な蜜が零れ落ちているが、堰き止められた快楽はサンジの中で暴れまわっている。
広げられた足は次第に閉じて、内腿をもじもじと擦り合わせだした。
「イきたいの?」
思わずロビンは聞いていた。
その問いに目を見開いたサンジは顔を紅潮させながら、ふるふると顔を横に振った。
「出したいのでしょう?」
再び問うとサンジは震える唇で答えた。
「だめだ…」
「どうして?」
「『女』は出したりしねェ…」

『女』として生きることを甘受した、その痛々しいまでの言葉にロビンの胸が締め付けられた。
「『女』だって、濡れるわ…」
ロビンは紅い紐に手を掛けた。
「だめだ、ロビンちゃん、だめだ…!」
だめ、と繰り返すサンジの声を無視して、ロビンは紐を解き放った。
その瞬間、堰を失った猛りがほとばしる。
「あ、ああっ……ああ…」
幾度か噴き上げて、それは床を汚した。
放出が終わる頃、サンジは女性の眼前で精を漏らしたショックに放心していた。

『我がとのも、残酷なことをなさる…』
ロビンは、乱れた金の髪をそっと撫でた。



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ようやく「緊縛エロ」っぽいシーンになりました。
このあとは毎話、縛られて××なシーンなので、消化不良を起こさぬよう、少しずつお読みください。