修羅の贄 #5
旧暦3月。
領地の半分以上が山である霜月国は春が遅い。
それでも季節は確実に動いていく。梅が芳しい香りを放ち、山麓では片栗や菫(すみれ)が清楚な花をつける。
サンジの身体も、花々がほころんでいくのを追うように、花開いていった。
最初のうち、快感は刺激への反射でしかなかった。どれだけ身体が反応しても、いや反応すればするほど、戸惑いと怯えが強くなる。
だが今や、足首をつかまれただけで、その先を期待して身体の芯がぐずりと甘く爛れてくる。
霜月に来て大よそ三月(みつき)。頑なだった身体の奥に、官能が芽吹いたのだ。
どこまで自分は変わってしまうのだろう。
玻璃の桜は、もうすっかり散ってしまっただろうな。
暦を見ながらサンジは故郷に想いを馳せた。
北海の3月は花見月だ。暖流のせいで春の訪れが早く、月初には桜が満開になる。
霜月の桜が見ごろになるのは、それから約ひと月後だ。
その年は開花が若干早かったが、それをサンジは知る由も無かった。離れ座敷の庭には桜の木が無かったのだ。
梅花の後、離れ座敷の庭を彩っているのは、小さな鈴のような花をつけるドウダンと赤紫の深山ツツジだ。
深山ツツジは華やかだが、人を陶然とさせるような妖しさにおいて桜の花に到底及ばない。
桜見が叶わぬサンジを哀れんで、ギンが山桜を手折ってきた。
床の間に活けられたそれが、多分、その後の事の呼び水となったのだ。
「ロビンさま! 殿がお渡りになられます!」
3月下旬、サンジの世話をする数少ない侍女のひとりが、転がるようにして座敷に飛び込んできた。
遅い朝餉が終わって間もない、ロロノアが来るには早過ぎる時間だ。
小袖だけのくつろいだ格好をしていたサンジに、ロビンが慌てて打掛を羽織らせる。
「これはこれは、ロロノア殿にはご機嫌うるわしゅう…」
「口上はいい」
『奥の間』まで急ぎ足でずかずかと入ってくるなりロロノアはロビンを遮った。
「出かけるぞ」
いきなりサンジの手を取った主(あるじ)に、ロビンは驚愕した。
「どこへお出かけになろうとおっしゃるのです?」
「神楽山だ。今発てば、暮六つまでには帰ってこられるだろう」
神楽山は城の裏手にある小ぶりの山だ。もともと小高いところに建っている霜月城との標高差は少なく、確かに行けない距離ではない。だが…
「人目につきます!」
庭に降りることさえ禁止して、人の目から隠しているサンジを連れていくのは無謀過ぎる。
「だから、ロビン、おまえの服を貸せ。小袖も草履もすべておまえのものを着せろ。扇もだ」
有無を言わせぬ口調でロロノアは続ける。
「支度が出来たら、北の丸の裏門に連れてこい」
言うだけ言うと、来た時と同様、急ぎ足で去ってしまう。
どんな意図があるのか…。わからないが、こうなったら言われたとおりロビンに見えるように扮装させるほかない。
小袖は白、薄色、薄紫と、ロビンが好んで着る紫の濃淡で重ねる。帯は霜月国では目にすることが珍しい更紗の細帯を締める。
特徴的な金の髪を、尼僧が被るような面覆いと額留めで隠し、さらに被衣(かづき)を頭から深く被って身体を覆う。この被衣も、若い娘向きの柄を避け、落ち着いたものにする。そしてロビンの扇でさらに顔を覆う。
歩き方も仕草もロビンの優雅さはまったく無いが、うわべはどうにか整った。
人目を避けながら指定の場所に行くと、ロロノアは僅かな従者と馬を連れていた。
「馬?」
サンジは思わず驚いた声を上げた。
「女の足で行ったら日が暮れちまうだろうが」
『女の…』という言い方に悪意を感じて、むっとしたサンジを意に介さず、ロロノアはいきなりサンジの両脇を掴んで馬に乗せた。そして自分もひらりとサンジの前に跨る。
「落ちないように掴まれ」
「莫迦にすんな! なんでてめェと一緒に乗らなきゃなんねェ! 馬くらい扱える! 知ってるだろ!」
自分の立場を忘れて遠慮のない物言いをしたサンジを、ロロノアは意地悪く見つめた。
「そんな体勢で、起伏の多い山道を駆けられると思っているのか、た・ち・ば・な・どの?」
『そんな体勢』というのは横乗り…つまり馬を跨がずに横座りのように脚を片側に流した乗り方のことだ。重ねた小袖で足が開かないから、こう乗るしかない。
平坦な道なら横乗りでも充分馬を扱える自信がサンジにはあった。
だが山の斜面は身体が傾くうえ震動も大きい。跨がずにバランスを取るのはサンジの平衡感覚をもってしても難しく、振り落とされてしまうだろう。
結局従うしかないのだ。
悔しさに唇を噛みながら、サンジはロロノアの身体に手を回す。
それを確認して、ロロノアは馬の横腹を蹴った。
馬は勢いよく門を抜けた。
土橋を渡って、ほどなく現れた分岐点を左に折れる。これを右に進むと有事には砦となる寺があるのだが、今日はそちらに用は無い。
馬は木立の中を豪快に駆け上がっていく。サンジは思わずしがみついた。そうしないと落馬する。景色を眺める余裕は無く、ただ振り落とされまいと必死だった。
突然木々が途切れ、古めかしい建物が現れた。ところどころ堀切のように地面がえぐれており、物見櫓のような高楼も見える。かつてはここに城があったのかもしれない。
ロロノアは騎乗のまま、上部に横木を渡しただけの簡素な門をくぐった。
「久しぶりだね、ロロノア。あたしの『青鼻』は元気だろうね?」
突然女性の声がしてサンジはぴくんと身体を起こし、しがみついていた手を慌てて離した。
見れば背が高く、かくしゃくとした女性が出迎えている。
「あぁ元気だ。よくやってくれてるぜ。信頼できる良い医者だ」
「当然だよ、アタシの弟子なんだから。まぁ、そんなことはいい。ギンって男から話は聞いている。裏に入ることを『青鼻』が許したんなら、好きにおし」
「おう」
この場をロロノアは熟知しているらしい。サンジとともに馬から降りると、案内も無しに奥へと進んでいく。中門を通って、複雑な形の建物をぐるりと回り…。
「あ…!」
サンジは思わず声を上げた。
あたり一面、どこもかしこも桜の花で染まっていた。
満開の時期はやや過ぎて、無数の花びらが舞っている。
ゆるやかな風には、はらはらと静かに、、つむじ風のような強い風が起こると、きりもむように乱れ散る。
その中で、ひときわ大きく枝を張り出した一本の桜の下に、緋色の敷物が広げてあった。
促されて座ると、先に来ていたらしいギンが、野点(のだて)用の茶道具を運んできた。
てっきりギンが点てるのかと思っていたら、「橘どのが殿に一服差し上げてください」と言われて呆気に取られた。
「俺が?」
「ええ。橘どのは茶の湯に大層通じていらっしゃると伺いました」
それは間違いない。
だが今の自分とロロノアの関係で、そんなことがあるとは思っていなかったのだ。
「気が進みませんか?」
「いや、そんなことはない」
サンジはギンから帛紗(ふくさ)を受け取って、茶釜の前で居ずまいを正した。
簡略式の野点では長々しい手順は必要無い。
だがサンジはたとえ簡略式でも、ひとつひとつに手を抜かなかった。
柄杓に滑らす手つきも丁寧に、流れるような仕草で茶碗に湯を注ぐ。
素朴な茶碗だった。抹茶茶碗というより飯茶碗のような大ぶりの器だ。
選んだのはギンだろうか。ギンが選ぶにしては武骨すぎる気がする。
いつくしむ様に手を添え、泡立て、最後に手のひらに包むように茶せんを引く。
その茶をギンが受け取って、ロロノアの前に置いた。
ロロノアは片手で掴むや、まるで酒を煽るようにぐいと一気に飲み干した。
呆気に取られたサンジの視線に気付いたのだろう。
「どうした?」
「いや…、ロロノア殿らしい飲み方だと思いまして…」
「ふん、俺は剣の道ばかりで茶の湯の作法とやらはよく知らん。てめェのような通人から見たら、不調法な田舎もんに見えるだろうよ」
むっと表情を険悪にしたロロノアに、サンジは慌てて首を振った。
飯茶碗のような大ぶりな椀も、それを掴む大きな手も、茶の湯から外れた飲み方も、まっすぐで力強いロロノアの性格をそのまま映したようで好ましいと思ったのだ。
決して下卑た印象を抱いたのではない。
だがそれを伝えるより早く、手首を捕まれ、ぐいと引き倒された。
「何をっ?」
「何をだって? 俺がてめェにすることはひとつだけだ。似合わねェ計らいはするもんじゃねェな。馬鹿を見ただけだ」
「あっ…」
背に圧し掛かられ、小袖の裾から手を入れられた。
内腿をまさぐる荒々しさに慄然とする。
「ひっ!」
草叢にうずくまっていた陰茎にさらりとした指が届いたとたん、身体がびくんと跳ねた。
「…ダメだ、待ってくれ…」
刺激が送り込まれようとしたとき、サンジがうわずった声を上げた。
「…待って……これはロビンちゃんの…」
「何?」
「ロビンちゃんの着物が汚れる…」
理不尽に犯されようとしてるのに、この男は何を気にしているのか。
犯されることより、ロビンの着物が心配か。
どうしてこいつはいつもこうなのだ。
苛々する。
「だったら自分で脱げ!」
力ずくで立たせて、衿に手を掛け、一気に左右に開く。白い胸が露になった。
「ロビンの着物を汚したくねェってんなら、今すぐ素っ裸になれ!」
サンジは、きっとロロノアを睨んだ。
裸になること自体は問題ではない。そのあとにロロノアに辱められるとわかっているから素直に従う気にならないのだ。
「こんな日も高いうちから、霜月城の若殿は、結構な趣味でいらっしゃる」
皮肉が口をついて出た。
「なんとでも言え。てめェをどうしようと俺の勝手だ。自分から脱げねェってんなら、いくらでも手を貸してやるぜ」
ロロノアの返答に、サンジの負けん気に火がついた。ぱっと立ち上がるなり言った。
「ギン、手伝え!」
春の陽光の中、すっくと立ったサンジの肩から小袖が落とされる。
いつもならロビンがするところだが、ここにロビンはいない。
代わってギンの介添えで帯が解かれ、薄紫、薄色、白色と、一枚一枚小袖が脱がされていく。
女物の着物の中から、丸みの無い身体が現れてくる。
その間サンジは、ロロノアから視線を外さず、しっかりと見つめている。
それをロロノアは息苦しいような気持ちで見つめ返した。
あの時と同じだ…。初めてこいつに会ったあの時と…。
姉のくいなが北海国杢丹城に嫁した機に、ロロノアは父の勧めで花嫁行列に随行して北海国を訪れた。
異例のことだったが、ロロノアの父は、いずれ国を背負うことになる息子に、霜月国とはまったく異なる国を見せたかったのだろう。事実、そこにはロロノアがはじめて見る世界が広がっていた。
海を見たのも初めてだった。もちろん交易船が何艘も行き来する港を見たのも初めてだ。
農作物と鉱物が財政の中心で山に囲まれ閉塞的な霜月国と、交易が中心で華やかな北海国との違いにロロノアは目を見張った。
姫君を乗せた輿はひと月もかけて杢丹城に行き着いたが、帰りはロロノアと数名の従者だけだから馬を飛ばせば数日だ。
だからその帰途の際に、もう一度海を見ておこうと思ったのは気楽な思いつきだったし、自国に戻ったら見られないからという、ただそれだけの理由だった。
賑わう港でなく自然なままの海のほうへ歩を進めたのも、自然に囲まれて育ったロロノアが、人間の喧騒に疲れたというだけのことだった。
美しい入り江で、水面の反射とは違うキラキラ光るものを海面に見つけたのも、運命などではきっとない。
それは蒼く澄んだ水と戯れるように、浮かんだり潜ったりして、やがて岸に近づいてきた。
ほっそりとした身体つきで随分と色の白い、まだ少年の身体つきの、若い男だった。
彼は立ち上がって金の髪をぶんと振って水を切ると、波をざぶざぶとかいて歩いてきた。
途中で、濡れた下穿きを無造作に取り去って、浜にいた従者に投げて寄越す。
露になった股間を隠すでもなく、キラキラと水を滴らせて、岸へ上がってくる。
曇りの無い乳白色の身体が濡れて光沢を放った。
足が濡れないところまで来てようやく、離れたところで自分を凝視するロロノアの一行を見止めたようだ。
しかし、身体を隠すでもなく、涼しい顔で供の者に拭かせている。
従者が持つ衣服の上等さを見るまでもなく、力のある家の者だとわかった。
見知らぬ者に、卑屈さや戸惑いを微塵も漂わせずに裸体を曝すことが出来るのは、身体を洗うにも衣服を身につけるにも、性交後の身体を拭うことにさえも他人に介添えされることに慣れている者だ。
不躾なまでに凝視しているロロノアが、さすがに気になってきたのだろう。
「見ねェ顔だな。誰だ、てめェ?」
首から下げた小さな装身具以外何もつけていない身体を恥ずかしがることもなく、彼はその蒼い瞳をまっすぐロロノアに向けた。
『あの時と同じだ…』
サンジの視線はあの時と少しも変わっていない。着付けられるか脱がされるかが違うだけでロロノアの心の奥まで見つめるように、自分をまっすぐに見ている。
今まで灯火の下でしか見られなかった裸身が、明るい陽光の下に現れた。
しなやかな筋肉がつき、少年期の身体の危うさは無いが、滑らかな白さはやはり変わらない。卑屈さも媚もはらんでいない。
『姉を失った憎悪を発端に、恨みと欲望と焦燥とに瞳を濁らせ、心を卑しくさせたのは俺だけか…』
堪らない気持ちになった。
その気持ちを打ち消すようにロロノアは、ことさら冷淡に言った。
「何を澄まして突っ立ってやがる。立って犯られるのが好みか?」
眉を吊り上げたサンジは、勝気な性格を隠そうともせずに、開き直って両手両脚をどんと開いて大の字に横たわった。
『あの厄介な脚を封じろ』と言われてギンが施した縛りは、これまでで一番シンプルだった。
胴には一本も縄が掛かっていない。
玉茎の根元を絞った以外、足首に絡めた縄の端が、頭上に張り出した桜の大枝に繋がれているだけだ。
それだけだが、V字に開かされた脚の奥のすべてが、明るい日の下に明らかにされている。
前茎の形も嚢のしわも窄まりの襞も何もかも、その姿がくっきりと見えてしまう。
だがそれはサンジにも予測できたことだから、見たけりゃ見ろくらいの気持ちで、自由な両手も身体の脇に投げ出していた。
しかし…
「てめェはどこもかしこも綺麗な色だな」
言われたとたんに、かあっと身体が火照った。
色までは思いが及ばなかった。形を露わにされる以上に生々しい…。
とっさに恥部を隠そうとした両手を掴れ、ひとまとめに頭上におさえつけられた。
身体も顔も、瞬く間に朱を帯びたのも丸わかりかと思うと、平然を装っていた表情が呆気なく崩れた。
閨の暗がりというベールが剥がされて、おぼろげだったすべてが暴かれていく。
「ここも…」
乳首がくいっとひねりつぶされた。
「ここも…」
つるんとした亀頭がなでられた。
「ここも…」
固く閉じた窄まりがなぞられた。
「桜の色に染まってやがる…」
「あ…ぁあ…」
動揺を見せなかったサンジが切ない声を上げた。
香油の力を借りてつぷりと入ってきた指先に、じわりと身体が疼く。
奥まで入ってこずに、入口をくるくるとなぞるその手つきがもどかしい。
身体がより深い侵入を求めていることに、サンジは慄いた。
食事後すぐに連れて来られ、今日はまだ受け入れる準備が施されていない。狭い器官をくつろげようとする指は痛くておぞましいはずだ。それなのに自分の身体は受け入れたがっている…。
「…ばかな……」
思わず泣きそうな声が出た。
「どうした?」
ロロノアが覆い被さるようにして唇を合わせてきた。舌が誘い出されて絡め取られる。
その間も、秘孔の媚肉の花びらは慎重に拡げられていく。
上下の口を柔かく愛撫されて、唇から吐息が漏れた。
それが、刺激を与えられた時の嬌声とは違う甘さを含んでいることはロロノアにも伝わった。
白い脚を抱えて、ロロノアはゆっくりと腰を進めた。
「うううっ…」
張形で拡張されていない中は狭く、サンジが苦悶の声を上げる。
ゆっくり引いてやれば、それはそれで忍び泣くような悩ましい声を上げる。
「欲しいか?」
「……」
聞いても答えようとしないサンジに加虐心を煽られたロロノアは、宛がっただけで入れようとせず、指で会淫を嬲り始めた。
「あ…あ、あ…」
堰き止められ重く腫れた淫嚢と秘孔の間の敏感な部分を弄ばれてサンジが声を上ずらせた。
「いやだ…ああ…も…う…」
会淫への刺激から逃れようとサンジが身体をずりあがらせる。
その肩を押さえ込んで、ロロノアはぐいっと侵入した。
突然の深い交合に、サンジの身体がくううとしなる。
「アアッ!」
奥を抉られてサンジの身体が大きく震えた。
ゆっくりと抜き取って、名残惜しそうに絡み付いてくる肉筒に、再びねじこむように埋め込む。
緩急のついた抽送に責められ、浅く深く抉られて、甘美な震えに翻弄された。
湧き上がってくる悦楽のままに、先端からだらだらと蜜を滴らせながら啼き乱れた。
「んっ、あ、ああ…」
腰が自然と揺らめいて、足と繋がった桜の枝から花びらが盛大に舞い散る。
頬を上気させ、潤んだ瞳が陶然とロロノアを見つめる。
ロロノアが抽送を早めた。
花びらがいっそう激しく乱れ散る。
「…あっ…だ…めっ…」
悦が昂ぶってくる、その狂おしさだけではない。もっと深い、身体の奥底から泉のように湧き上がってくる熱い激情に呑み込まれて行く。歓喜にも似た、こんな感覚は今までにない。
達きたい…達かせて…
『女』のこの身に許される筈も無いと知りながら、切実に思う。
今日だけでいい、この熱くて温かいものを花開かせたい…。
「…うぅっ…あううぁ…」
サンジは、すがるまいとしていたことも忘れて、ロロノアの首に手を回した。
とたんに突き上げが激しくなった。
「…っ…あ、あああっ…はっ…やっ…」
いや、だめ、狂う、と身体を仰け反らせて、達けない身体の苦しみを訴え、ひきつけを起こしたように震えだしたサンジの身体を掻き抱いてロロノアは言った。
「達け!」
次の瞬間、射精を堰き止めていた戒めがするりと解かれ、狭い射精路を歓喜の蜜がかけめぐる。
サンジは全身を震わせて悦楽を噴き上げた。
崩れ落ちるように弛緩した身体はすぐには動けなかった。
サンジと共に極まったロロノアが、サンジの肩口に顔を埋めるようにして覆いかぶさっているからだ。
首筋にはあはあと熱い息がかかる。
どくどくと打つ胸は、自分の鼓動なのかロロノアの鼓動なのかわからない。
大きく上下する逞しい背中をサンジは安らいだ気持ちで見つめた。
汗ばんだ二人の身体をなだめるように、そよ、と風が吹く。
目の前をはらりと花びらが横切って、サンジは視線を上に上げた。
責められているときは見る余裕なんて無かったが、まさに吹雪とばかりに桜が乱舞している。
その遥か上に、真っ青な空が広がり、白い雲が流れている。
この数ヶ月の間に自分の身に降りかかった災厄も憂いも、すべて忘れさせてくれるような美しさだった。
ふと、ゾロはこれを見せたかったのかもしれない、と思った。
んなわけ無ェか。第一理由が無ェ。ギンは縄持ってきてたし…。花見だけなら縄は要らねェよな…。
都から使者が来たのはそれから半月後のことだった。
→次頁