修羅の贄 #13



秘密裏に来いとの達しゆえ、茶宴への一向はできるだけ少ない人数で組まれた。
それでも三十人弱にはなった。
途中の食料や水、薬、着替えなどは不可欠だし、チャルロス卿がすべてを揃えると言っても身の回りの品々をまったく持っていかないわけにはいかない。
それらを運ぶ人足がいる。馬を扱う下男もいる。なにかのときの伝令もいる。

霜月の重役たちを最後まで悩ませたのはチャルロス卿への土産だ。
霜月には殿上人を喜ばせるような名品は無い。
茶宴に関連付けて壷や掛け軸を贈っておくほうが無難だろうが、贅沢に慣れた彼らが欲しがるものなど到底用意できそうにない。
ロロノアは迷ったすえに、太刀を選んだ。刀剣ならばロロノアは自分の目に自信がある。
チャルロス卿は気に入らぬだろうが構わない。
名刀を贈ったということで霜月国の面子(めんつ)は保たれるだろう。



出立の日、ロロノアは見送りに来なかった。
ロロノアが来れば側近たちもついてくる。そんな大ごとになっては、人の噂に上る。
そのことはサンジもよくわかっていた。

「では参ります」
ロロノアの代理としてやってきた男にサンジは頭を下げた。
サンジを見つめて『あなたは変わらぬな』と言った男だ。
ギンによるとロロノアの従兄弟らしい。
このままロロノアに子が出来なければ、この男が国主の最有力候補だ。
それなのに、霜月国の安泰のためにシャルリアとロロノアが夫婦になってほしいと願う男だ。
こういう男がいれば、霜月国もロロノアも安心だとサンジは思う。

「道中、お気をつけて」
心からの言葉に感謝しながら、サンジたちは霜月国をあとにした。
駕籠を使っている時間はないから馬で行く。
と言っても、女性姿で騎乗するのは目立つので、サンジは約9ヶ月ぶりに男性姿になった。



『それが嬉しいのだろうか?』
馬上のサンジを見ながら、ギンはそう思った。
ずいぶんと晴れやかな表情でいらっしゃる…。

チャルロス卿の元へ行かねばならないと聞いた時、ギンの心は痛んだ。
茶人として招かれるとしても、あのチャルロス卿がそれだけですんなりサンジを返すとは思えない。
サンジだって同じことを感じているはずだ。
だから、この道行はもっと悲愴な雰囲気になると思っていた。

それがどうだろう。サンジは俯くこともなく、秋の山を楽しむかのようにすっきりとした表情だ。
落ち着いて、誇りに満ちている。
今迄だって彼が誇りを失うことは無かったが、瀬戸際で踏ん張っているような危うさがあった。
雨に打たれた花のように儚げに見えたことも、一度ではない。
自分やロビンに向ける笑顔は、いつだって切なく感じられた。

「橘どの、何かあったのですか?」
「何かって?」
「なんというか、ゆったりとして落ち着いていらっしゃる…」
「それが不思議か? 俺、そんなにいつもおたおたしてんのか?」
「いえ、そういうわけでは…」

困ったような案ずるような目を向けてくるギンに、サンジは笑った。
「あいつが俺に約束したんだ。何をおいても霜月を護ると。霜月が安泰なら玻璃も護られる。何が待っていようと、俺はもうひとりで玻璃を護ってるんじゃねェ」

たったそれだけで、あなたはそんなふうに笑えるのか。
玻璃を一緒に支えると、そういう殿の言葉ひとつで、そんなふうに笑えるのか。
この先に、どんな辛酸が待っていようとも?

「ギン、今から辛気臭ェ顔してんじゃねェよ。向こうにつくまでは、俺に無理強いする者は誰もいない。今、楽しんでおかなけりゃ、損だろ?」

あぁ、そうだった。今だけが平穏だ。
束の間であっても、ささやかであっても、この安らかな時を無駄に費やしてはもったいない。

「ならば橘どの、この道中、楽しみましょう。何かしたいことがあればおっしゃってください。尽力致しましょう」
「したいこと?」
うーん、と少し考えてからサンジはちょいちょいとギンを手招きした。
寄ってきたギンに耳打ちする。
とたん、ギンの表情が、虚を突かれた顔に変わった。
そのまま、口を開けて、ギンはしばらく固まった。

「そ、それは申し訳ありませんが、叶えてさしあげることはできません」
「どうして!」
「私は『橘どの』という女人を京へお送りする役目を仰せつかっております」

その言葉に、サンジがふい、と顔を逸らした。
せっかく楽しい道中にしようと言ったのに、いやなことを言ってしまったとギンは思った。
けれど、霜月から『橘』という女人が茶会へ招かれたという体裁を崩すわけにはいかない。
『黒足』は名目上は死んでいるのだ。

それを伝えると。
「俺が『橘』だと知っているのは、ひと握りの人間だけじゃねェか」
「確かにあなたが『橘』だとはわからないでしょう。でも『黒足』だとはわかりますよ。ご自身がどれだけ目立つ容貌かご存知ないんですか?」

ちっと舌打ちが聞こえた。忌々しいという舌打ちでなくて、望みが叶えられないことへのひがみだ。
その証拠にサンジの表情は剣呑なものではなく、口をちょっと突き出した不満顔だ。

まるですねる子どものようで、ギンはつい苦笑を漏らした。
叶えられる望みなら叶えてあげたい。けれど、無理だ。
目立つ目立たぬだけではない。
サンジの望みを叶えたら、世間が騒ぐ前にロロノアがへそを曲げる。
せっかくロロノアが自分の気持ちに素直になったのだ。
ロロノアがすねたら、サンジがすねるより、ずっと話がこじれてしまう。
なにしろサンジが「したい」と囁いた台詞は、「可愛いおなごとひとつ枕」だったのだ。

そういえば、この人は女好きで知られていた。
義兄弟の契りを望む男たちは多かっただろうに、誰にも菊門を許したことが無かった。
そんな人が故郷のために、『女』として生きることに耐えている。

ギンは宣言した。
「今おっしゃられた望みは叶えてさしあげられませんが、この道中、必ず快いものに致します」



宣言どおり、ギンはサンジを楽しませることに心を尽くした。
色欲を満たしてあげられないなら食欲だ。
道中の3分の2は山の中だが、それでも京に近づくにつれ、山国の霜月では見られなかった料理が増えてくる。
今なら、身体で奉仕する者にご法度の獣肉や魚介類も、ニラやラッキョウなどの匂いのするものも食べられる。

また、宿場では人目を避けて被り物を外せない代わりに、人通りの少ない山中では清水での沐浴も好きにさせた。
旧暦8月の終わりではすでに秋も半ばだったが、冷たい水をものともせず、サンジはまさに水を得た魚のごとく生き返ったように泳いだ。



やがてサンジとギンと供の者合わせてわずかニ十数名の一行は、流れも急な川に近づいた。
橋を渡れば、チャルロス卿側の迎えが待つ地点まであと一里だ。
川の手前は木立が深く、秋の陽光をさえぎって薄暗い。
明るいのは木漏れ日とサンジの髪だ。木々の間からもれ差す日光が、馬上のサンジの髪をはじく。
耳には先ほどからごごご、という海鳴りのような音が届いている。
ギンの話によると滝があるのだという。ギンはどうやら忍びの出らしく、土地に詳しかった。

滝の音は次第に大きくなる。
突然、ぽかりと視界が開けた。
目の前に水の帯がある。
見上げれば、目線の上、はるか30尺(約9m)付近に、せり出した岩場があった。
そこから水が飛び出すように流れ落ちているのだ。

真っ白い緞帳のような分厚い水の幕が、耳を圧するような轟音を上げながら落下していく。
滝つぼはサンジたちのいる地面から70尺(約21m)ほど下のようだ。
さだかでないのは、水煙が、まるで沸騰した湯気のようにけぶって立ち上っているからだ。

「馬から降りましょう」
ギンが促した。
滝の前にかかる橋は、風向きによっては飛沫(しぶき)が掛かり、すべりやすい。
馬もこの轟音には神経質になっている。

馬を引きながら橋を渡る。
だが、サンジは橋の途中で魅入られたように立ち止まった。

水の音だ…。
渓流の軽い音でなく、大量の水がうねりをあげる音…。
のみ込まんばかりに叩きつけてくる水の音。
こんな音の中では人の声など通らない。
鐘を打ち、太鼓を叩き…そして会話の代わりにひときわ高く響くのが笛だ。
サンジの耳に、笛の音がピーーーと鳴り響く。
『さぁ我が船は行く、この荒波を超えて!』



「…、…どの! 、たちばなどの!!」
耳元で怒鳴られ、腕を掴まれてサンジは我に返った。
知らぬ間に橋の欄干に吸い寄せられている。

「お気を取られてはなりません。この滝に落ちて、生きて戻った者はいないと言われています」
おまけに遺体も上がらないという。
おそらく滝の真下が深くえぐれ、流れが水底へと渦を巻いているのだろう。

「馬を降りていて正解だったな」
サンジは苦笑した。
馬上から滝へ向かって手を差し伸べていたら、おそらく滝つぼへ落ちていたことだろう。



橋を渡って一里も行くと、人の往来が多くなり、宿場が見えてきた。
その宿場のはずれにある神社がチャルロス側の迎えとの合流地点だ。
町のはずれにあると言っても、決してうらぶれた神社ではない。
むしろ鳥居の塗りは派手すぎるくらいで、殿上人の息がかかっていることを誇示するかのようだ。

チャルロス卿の迎えと合流すると、それまでサンジについてきた供たちは、ギンとわずかの供だけを残して霜月に帰っていった。
ここからは『橘』として振舞わねばならない。
馬に乗ることも禁じられ、サンジはしぶしぶ輿に乗って茶宴の地へ向かうが…。

あまりにも輿が遅い。
「この調子で着くのか?」
サンジは不安に思ってチャルロス側の者に聞いた。
「案じなされるな。茶宴は都より東方10里の地で開かれますゆえ」
「そうだとしてもギリギリじゃねェか」

馬で行けば2日で着くだろう道程を輿はのんびりと進んでいる。
結局4日半もかけて茶宴の開かれる地へ着いた。
茶会は明後日だ。しかもすでに日も暮れて、湯浴みと食事をするのが精一杯。実質翌日1日しか時間が無い。
会場の下見は諦めるとしても、茶会に使う茶器や茶道具は見ておきたい。
しかし翌日は、チャルロス卿への謁見が予定されていた。

「卿が直接お会いになるとおっしゃっているのです。こんな光栄なことはありませんぞ。粗相の無いように!」
その言葉とともに、サンジは女房たちに囲まれた。
薬草の入った湯殿に放り込まれ、肌を磨かれ、髪を梳られた。
香を焚きこめた女物の小袖を幾つも重ね着せられて、窮屈さに辟易した。
しかしなにより驚いたのは、化粧を施されたことだ。
白粉をはたかれ紅をさされ、これが女房たちの仕業でなかったら、とっくに蹴り飛ばしていただろうと思う。

その姿で輿に押し込まれ、チャルロス卿が泊まっているという宿舎へ向かう。
狭い街路は輿や馬車でいっぱいだった。
明日の宴のための食材や穀物袋を積んだ車が何台も行きかう。
それはそのまま殿上人の経済力を示している。
どれだけ戦の才覚があろうとも、軍を率いる財力が無ければ話にならない。
玻璃は貿易が盛んだったからこそ、サンジは経済力が国力と密接に結びついていることをよくわかっている。
ほかでもない、ロロノアに玻璃を預けたのは、そういう意図もあったのだが。

『どうもあいつは変なところで潔癖で、玻璃の財力で戦をするなんてこと、気づいてもいないようだぜ』
思いをめぐらすうちに、輿はチャルロス卿が宿泊する殿舎に着いた。
控えの間で一刻(約2時間)も待たされ、いいかげん「帰るぞ!」と怒鳴ろうとしたところで、ようやくチャルロス卿のおでましとなった。

「そちが橘かえ」
三つ向こうの上段の部屋から声がかかる。
甲高くて耳障りな声だとサンジは思った。

「橘、面(おもて)を上げぇ!」
「はい」
返事をしたものの、ここで顔を上げてはいけないのは常識だ。
手をついて、じっと顔を伏せていると焦れたような声が飛んだ。
「橘!!」

言外に、さっさとその面を見せろという叫びが聞こえたような気がして、サンジはゆるゆると面を上げた。
三部屋離れた向こう側に、餅(もち)を縦に引き伸ばしたような白い顔があった。
それは爬虫類が首をもたげた時に見せる白い喉や腹を想わせた。
サンジは思わず眉を寄せた。

「このたびは御茶会の亭主というもったいないお役目にお取り立てくださり、身に余る光栄でございます」
ようやくそれだけ言うと、また深くお辞儀をした。
上から甲高い声が降ってきた。
「うむ。明日を楽しみにしているえ」

茶会前の謁見はそれで終わった。
さて、これで茶会の準備にとりかかれる、と思ったサンジだったが、茶会が終わるまで、館から出ないよう命じられた。

茶宴で開かれる茶席はひとつではない。
公卿たちそれぞれが、茶宴の会場のあちらこちらで意趣を凝らした茶席を設ける。
点数をつけるわけではないが、公卿たちは自分がどれだけ洗練された茶席を設けられたかを張り合うのだ。
何色の敷物と帳を張るか、どんな掛け軸を選ぶか、どんな花を飾るか、どんな食膳を出すか、どんな茶道具を使うか…。
そして、彼らと茶会の参加者たちが最も気にするのが、どんな亭主を手配したか、だ。
亭主の名は、茶会当日まで明かされることはない。
もっとも風の頼りで、どこそこの卿は〜〜窯の碗を使うらしいだの、今年はだれそれを席主に頼んだらしいだのいう話は飛び交うので余計に競争は煽られる。この情報を探るために忍びを使う公卿までいるほどだ。

サンジのことが別の公卿に漏れてはならないというわけで、サンジは館から一歩も出られない。
これでは茶道具の確認もできないと訴えれば、ひとつも漏らさず会場に運び込まれているので問題ないとあしらわれた。
ばかにされているのか、信頼されているのか。
チャルロス卿の薄気味悪い微笑を思い浮かべると、いやな予感しかしないサンジだった。







一夜明けて茶会当日。
前日よりもさらに念入りに肌を磨かれ髪を梳られ、紅の単を着せられた。
その上に濃緑色と萌黄色の着物が重ねられ、さらに黄色の菊が散らされた翠地の着物が重ねられる。
一番上に淡紅色の薄物がかけられ、下の菊模様が透けて見える趣向になっている。
風流といえばたしかに風流だ。
だが、いつの時代をなぞらえたのかと言いたくなる。
薄物がひらひらして、茶を点てるのには邪魔でしかない。
なにより衣装が重い。
それでも文句は言えない。
そばにいるギンのはらはらした表情に見守られながらサンジは会場へ向かった。

絢爛豪華とはこのことを言うのだろうか。
木々にはきらびやかな帯がいくつも下がり、音楽が奏でられ、ゆったりとした舞が披露されている。
菊の節句にふさわしく大輪の菊が大量に運び込まれている。
正午前に重陽の儀式を済ませた殿上人をはじめ、彼らと結託した武将たちや招かれた美妓たちが着飾った姿でひしめいている。
もっともサンジがその光景を見る機会はなかった。
チャルロス卿の隠し玉は控えの間でじっと出番を待たされていた。

サンジの出番は茶事の後半だ。
開始から挨拶、炭入れ、食膳、お菓子の振る舞いまでは、別の者が亭主を務める。
その間、サンジは使われる茶道具を確認していた。
点前の目玉となる茶碗は確かに良い出来だった。
枇杷(びわ)色のそれは、陶器生産の盛んな隣国からのものに違いない。
棗(なつめ)も袱紗(ふくさ)も建水も、茶さじにいたるまで上等で品がある。

『あのチャルロス卿、思ったより、まともな美意識なのかもしれない』
女装した男を茶会の亭主に頼むほどだから、もっと奇抜で目立ちたがりの男なのだろうと思っていた。
だがこの茶道具も、茶事後半用の切り花も、みな趣味がよく、統一感があってまとまった美しさがあった。

中休みを経て、後半開始の合図の銅鑼(どら)が鳴らされると、茶事でもっとも重要である茶点前が始まる。
いよいよサンジの出番だ。

サンジは茶碗の乗った盆を手にしようとした。
が、それを遮られる。
「この茶事では、亭主は建水を持って入り、お客様方に挨拶が済みました頃合で、チャルロス殿が茶碗を運び入れることになっております」
亭主と茶碗の2大主役を、同時にお披露目しないようにという思惑なのだという。
妙なこだわりだな、と思ったが、言われるまま、建水を持って茶道口の扉の代わりとなっている、緋毛氈の幕をくぐった。
とたんにどよめきが起きる。
ほかの茶席の茶点前亭主は名だたる茶人たちばかりで高齢の男性がほとんどだ。
サンジは圧倒的に若かった。そして性別がわからない。
六尺弱もある身の丈は女性ではありえない。だが肌はきめ細かく光沢を放ち、衣装の配色も女性のみが使用する色合いだ。
不思議なものを見るような客たちの視線の中、サンジは静かに炉に進み、座についた。
「橘にございます。僭越ながら本点前の亭主を務めさせていただきます」

挨拶が済んだら茶碗が運ばれてくるはずだ。
ぱさりと布がまくられる音がして、ちゃらちゃらと音を立てる装身具の音が聞こえた。
チャルロス卿は足のついた盆をかかげていた。
盆には布がかかっていて、茶碗類を隠している。
ますます変わった儀式だとサンジは呆れた。
これで布をさっと取って、さぁこの茶碗をご覧なさいとでもやるつもりだろうか。
選んだ道具は良かったが、これみよがしのお披露目儀式は、やはり趣味が悪いと思わざるをえない。

だが、茶碗を覆う布がさっと取られたとき、サンジは驚愕した。
さきほど見た、枇杷色の茶碗ではない。
白地に藍色の幾何学模様が入り、側面には一輪草のような花が、やはり藍色で描かれている。
特異なのは持ち手がついていることだ。

玻璃に居たサンジには見覚えがある。
これは確かに、大洋を越えた先の、文化の異なる国から来た茶碗だ。
これで茶を点てるなんて無理な話だ。
厚みがなく、底のほうがつぼんだ形は手のひらにおさまりにくい。
高台の直径も小さくて、茶せんで粉を練れば、不安定なことこのうえない。

いや、この茶碗が茶を点てにくいか否かよりも、この碗はそもそも、点前の茶のためにあるのではない。
この碗に相応しい茶葉は別にあるのだ。
茶に対しても、碗に対しても、失礼ではないか。

「このような渡来品の碗では、茶は点てられませぬ」
サンジは思わず口にした。
「何を言うかえ。渡来品の碗を使うということは、おまえにも知らせてあったはずだえ」

確かに、渡来品を手に入れたとは聞いた。
だが、茶の湯に、まさかこのような茶器を用いるとは誰が思うだろう。
唐物か高麗物だと思うのが当然ではないか。

謀(はか)られた、と思った時には遅かった。
「茶の出ない茶席などあるかえ! この大事な茶会を、おまえは潰す気かえ! 渡来品を扱えるなどと大法螺を吹きおって、予を騙したのだな! この無礼者を捕らえろ!」
金切り声が耳を突くように響いた。
手回しはすんでいたのだろう。
チャルロス卿の声と同時に、茶席には不似合いな武装をした男たちが乗り込んできた。
重たい衣装に動きを封じられているサンジは束の間の応戦もむなしく、捕らえられた。



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